錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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棺の中の乙女

第二話 夏休み

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 六月の第三週の木の曜日。ついに夏休みが始まった。
 学園も長期休みに入り、人気は少なくなったが、無人ではない。学園の職員や、部活に精を出している生徒が出入りしているためだ。
 台所錬金術部ももちろん夏休み中にも活動があるのだが、レナは夏休み初日はイヴァンと約束があり、とあるカフェで待ち合わせをしていた。
 その待ち合わせのカフェに、約束の時間三十分前についたのだが……
「えっ、イヴァン先輩?」
「レナ!?」
その店の前で、二人は鉢合わせした。
「イヴァン先輩、早いですね」
「えっと、その、楽しみでちょっと落ち着かなかったものだから、遅れるよりはいいかと思って早く出たんだ。その……、レナも早いね」
「うっ……」
 実はレナもわくわくソワソワとして落ち着かず、早く家を出たのである。
 レナは何だか恥ずかしくなって、慌てて店を指さし言う。
「あっ、あの、とりあえず入りませんか?」
「あ、そうだね」
 イヴァンはにこにこと微笑み頷いた。
「確か、季節のフルーツタルトが変わったらしくて、評判が良いんだよ」
「わあ、楽しみです!」
 レナはその言葉にぱっと表情を明るくさせ、カフェの扉を開けたイヴァンに続く。
 そうして、一組のカップルがカフェに入っていったのだった。

   ***

 店内は冷風が出る魔道具のおかげで涼しく、レナ達は紅茶と季節のフルーツタルトを注文した。
 少し冷え気味の店内では温かい紅茶は特に美味しく感じられた。それにほっと息をつき、季節のフルーツタルト――マンゴーを主に使ったそれは、とろけるような芳醇な甘さで、美味しかった。
 顔全体で美味しいと表現するレナに、イヴァンは本当に可愛いなぁ、と内心デレデレしていた。ここに彼の尊敬する師匠が居たら、さぞ白けた目で見られていたことだろう。
 人心地着いたところで、話題は婚約のことに移った。
「婚約のことなんだけど、まずは家族同士で食事でもうどうかと思うんだ」
「あ、はい。そうですよね。まずは顔合わせですよね」
 そもそもサンドフォード家とウッド家は家長が従兄弟同士という親戚関係がある。更には家長同士が仲が良く、それが家同士の仲にも関係し、それなりに交流があった。それこそサンドフォード準男爵がウッド家の末っ子、イヴァンを養子に考える程にだ。
 しかし、なんやかんやで養子になったのはレナである。そして、そのレナは元平民の新顔である。ウッド家の面々とは顔を合わせたことは無かった。
「ただ、僕の兄は四人も居て、それぞれが既に騎士の職を得ている。それが全員そろって同じ日に休もうと調整すると、ちょっと時間がかかりそうなんだ」
「ああ、確かに難しそうですよね……」
 イヴァンのすぐ上の兄、四男坊などは騎士になってまだ二年であり、少々休みをとるのが難しいらしい。
「まあ、その、うちもルパートお義兄さまが絶対参加したいと言ってますし……」
 サンドフォード準男爵夫妻の実子であり、婿養子に出てしまった彼は本来であればそこまで無理して参加せずともよいのだ。しかし、可愛い義妹の一大事、絶対に参加すると譲らなかった。しかし、丁度その頃彼は遠隔地への出張が控えていた。どうか出張明けにしてくれとレナに縋りつき、母にレディにみだりに触るなと尻を張り飛ばされていたのは記憶に新しい。
 そんな一騒動を思い出し、レナは思わず遠い目をする。
「確か、ルパートさんの出張は最長で一か月ほどだっけ?」
「それ位だと聞いています」
「それなら一月後位に予定を立てておこうか。うちの兄上たちもそれ位猶予あれば予定がたてられるから」
「はい、お願いします」
「よし、そうと決まれば、次はレストランの予約かな」
 レナとイヴァンの婚約は既に両家の当主の了解は得ている。しかし、その後の段取りはイヴァンに任された。というのも、ウッド家の家長が研究一辺倒でそういう根回しをあまりしたことがないイヴァンを心配し、そういう根回しが出来るかを見たがったためだ。これは多少の失敗があっても多めに見てくれるサンドフォード家との信頼あっての甘えである。また、この段取りの結果いかんによっては、婿入り予定のイヴァンの教育プランがたてられる予定だ。
 ちなみに、その教育プランに一枚噛ませろよと経済界の裏ボスたる某第三王子が乗り込んで来るのであるが、それはまだ先の話である。
 さて、そういうことを話し合っていると、不意に店の窓の外に見知った人影が見えた。
「あれ? エラ?」
「え?」
 その言葉に、イヴァンがレナの視線の先を追うと、そこにはエラと一人の身なりの良い男性が立っていた。
 どうやら何か喋っているようだが、エラは片足を後ろに引き、その男性からどうにか逃げたがっているように見えた。
「あの、イヴァン先輩」
「うん。ちょっと声を掛けてみようか」
 二人は席を立ち、店を出てエラの元へと向かった。


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