錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

文字の大きさ
131 / 151
棺の中の乙女

第三話 求婚者

しおりを挟む
「あの、申し訳ないのですが、約束がありますので……」
「そう、ですか……。残念です。ですが、どうかまた私と会う約束をして欲しい」
 店を出てエラの元へ近づいてみれば、男に切なげな顔で懇願されていた。レナはてっきりナンパの類かと思っていたのだが、男がエラの名を知っていることから顔見知りではあるのだろう。
「貴女と共に過ごす時間を、私に与えて欲しいのです」
 男の身なりは良いもので、まだ若い。貴族の子息と思われる彼は、なかなかのハンサムで、彼の仕草やセリフはまるでお芝居を見ているかのようだった。
 見目がよく、己の魅せ方を知る彼は目立っていた。おかげさまでチラチラと通行人の興味を引いていて、エラは居心地が悪そうだ。
 レナはこちらに気づかせるために声を張り上げた。
「エラ!」
 ぱっとエラがこちらに顔を向け、どこか安堵したような顔をした。その表情からエラがこの状況を迷惑に思っていると確信し、レナはエラに駆け寄った。
「エラ、こんな所でどうしたの? そろそろ約束の時間よ? 早くいかないと間に合わないわ」
 にゅっと二人の間に割り込んで、いかにも急いでいますと言わんばかりの物言いに、男は驚いた顔をし、エラはレナの言葉からその意図を読み取って頷いた。
「えっ、ええ、そうね。あの、ごめんなさい。本当に時間がないんです」 
いかにも申し訳なさそうな顔をするエラに、男は仕方なさそうに微笑んだ。
「そのようですね。申し訳ない、私も少々強引だったようです」
 先程までの強引な態度を引っ込め、謝罪する様子は優雅で、確かに良い家の子息である事が見て取れた。
 男はレナとイヴァンをちらりと見て、「エラさんは良いご友人を持ったようだ」と微笑んで去って行った。
 男の姿が見えなくなったところで、二人は顔を見合わせて盛大に息を吐いた。
「エラ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。本当に困ってたの。助かったわ」
 疲れたように微笑むエラにレナも微笑み返したところで、イヴァンが尋ねた。
「あの人、ユーダム・ブレナン殿だよね?」
 その名に、どこかで聞いたような、とレナが首を傾げれば、イヴァンは苦笑して以前エラが言っていた、彼女に婚約を申し込んでいる人だと教えてくれた。
「ああ! あの人だったんですか!」
 男の正体を理解し、レナはポン、と手を打った。
 ユーダムはエラに求婚している人だ。しかしエラは断ると言っていたが、あの状態を見るにエラに不本意なことになっているようだ。
「エラ、これからの予定は?」
「買い物に行こうと思っていたんだけど……」
「それなら僕たちと行こう。部の買い物をすれば、さっきの言い訳もまるきり嘘じゃなくなるしね」
「そうだな。私と待ち合わせしていたことにすればよい」
 レナ達三人で話していたところに、突然聞き覚えのある声が会話に参加して、ぎょっとそちら方を振り向いた。そして、振り向いた先に居たのは、目が潰れるような美貌の君だった。
「チアン先輩!?」
 よっ、と片手を上げて挨拶する第十八皇子は、「今日も暑いな」ととても暑そうには見えない涼しい顔をして立っていた。
「遠目にエラが困っているように見えたので助けようかと思ったのだが、二人に先を越されたな」
 淡く笑んでの言葉に、レナとイヴァンは顔を見合わせる。
「この後ネモと部活で使う物の買い出しがあるのだが、三人とも行くか?」
 チアンのその言葉に、三人はもちろん、とどこかほっとした、力の抜けた顔で頷いたのだった。

「ふーん、そんなことがあったのね」
 レナの話を聞き、そう言ったのはネモだった。
 あの後、ネモと合流し、やって来たのは職人街にある『招き屋』という素材屋だ。レナは何度も来たことがあるが、エラは初めて来たため、興味深そうに店内を見回している。
「それで、実際にユーダムって人を見て、レナちゃんはどう思った?」 
ネモに声を潜めて尋ねられ、レナは思わずうなった。
「う~ん、私、最初はナンパかと思ったので……。特に何とも……。割って入ったら諦めてくれましたけど、どうなんでしょう……?」
 最後にエラは良い友人を持ったなどと言って紳士然としていたが、それまではエラにしつこく約束を取り付けようとしていた。
「つまり、潜在的ナルシストね」
 ネモは容赦がなかった。
「あの、師匠、それはちょっと言い過ぎでは……」
「いや、明らかにそいつ自信満々じゃない。エラちゃん、遠目に見ても困ってたんでしょ? 誰から見ても困ってると分かる態度を取られたんならさっさと諦めればいいものを、そうしないということは落とす自信があるんでしょ」
 今までもそうやって落としてきたんじゃない? とそう言うネモに、レナは視線を泳がせた。
 恋愛とはネモが言うほど簡単に割り切れないものである。少しでも望みが在ればそれにかける者も居るのだ。まあ、エラが困っているのでさっさと諦めて欲しいというのがレナの正直な気持ちだが。
 そうやって話しながら必要な物を籠に入れ、ネモがそれらを確認して言う。
「さて、こんなものかしらね。後の話はどっかカフェでも入ってゆっくりしましょう」
 そう言って、見事にカレーの香辛料ばかり入った籠を持ち、レジへ向かって行った。

しおりを挟む
感想 453

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。