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2巻
2-2
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「それに、あの魔狼たちが魔法を使っていた可能性もあります。夕闇でハッキリとは確認できませんでしたが、魔狼たちが動く度に地面が変化して煙のようなものが上がっていました……たぶん、氷か、火の魔法かと」
「…………」
魔獣が魔法を使うこと自体はありえない話ではない。
しかしそれは種族特性として魔法を使う魔獣か、数百年を生きて魔力と知識を得た魔獣に限られている。まだ生まれて数年の魔狼はそのどちらにも当てはまらなかった。
可能性があるとしたら、外見は魔狼に見えるが、あまり知られていない別の種族の魔獣だったということだろう。突然変異的な亜種という可能性や、魔狼を元にした錬金生物だったという可能性もある。
コラルドも何度か暁の光の魔狼たちを見たことがあったが、少し色合いの違う魔狼だと思っていただけで、特別な存在だとは考えもしなかった。
その能力をパーティー内の秘密にしていたのかもしれない。
まだ幼いのに人間臭い動きができるほどに知能が高く、魔法で気配を消していた遠方の密偵の存在を見抜き、魔法を使う魔狼。
秘密にするには十分過ぎる理由だろう。
「従魔に見つかってしまったため、暁の光にも監視がバレたものと判断して、谷の中の状況を確認することはあきらめました。敵対行動ととらえられかねませんので」
「それは賢明な判断だね」
「今は二人残して、最初の指示通り、交代で遠方から森と谷の全体を監視させています」
「そうか」
コラルドは腕を組んで考え込む。
魔狼のことは気になるが、今はそれを考える時ではない。考えるべきはロアと望郷の安全だった。
「いずれ野営の煙で、ロア様たちの安否と位置を確認できると思います」
密偵の男は加えて言うが、位置が確認できたところで、魔獣の森の中には許可された冒険者以外は入れない。
コラルドにできることは限られていた。
望郷の皆さんの実力なら、多少の問題があっても無事帰ってきてくれると思いますが……。
コラルドはそう思いながらも、できることはしておきたかった。杞憂でもかまわない。
彼は情報を重要視する商人だからこそ、細かい情報が手に入らないこの状況に苦痛を感じていた。
採れる手段を考えるべく、腕を組んだままの姿でそっと目を閉じた。
ノーファ渓谷を、ただ静けさが支配していた。
ゴーレムと双子の魔狼の戦いがあった場所には、巨大な鉱石の塊が谷の一部を埋め尽くすように、多数、転がっていた。
そのほとんどは銀であり、闇の中で月明かりを鈍く反射している。
言うまでもなく、それは双子の魔狼に倒されたゴーレムたちのなれの果てだ。全てが動きを止めており、動けるものはないように見えた。
しかし……。
数百という谷に満ちたゴーレムの中でただ一体……。
一体の内部でだけ、うごめくものがあった。
それはノーファ渓谷にいた多数のゴーレムの核が融合し、一つになったものだ。
ゴーレムは仲間が多数殺されたことにより、数ではグリフォンたちに敵わないことを学習した。そのため、分散していた力を再び一つにしたのである。
分裂し、各々で力を持っていた核を融合させたことにより、それが内包する力はありえないほどに強大な物になっている。
ゴーレムが核を融合させたのは、より大きく強力な肉体を得るためだった。
核の中により多くの魔素があれば、大きな肉体を素早く動かすことができる。
ゴーレムは質量と素早さが自らの力になることを知っていた。
殺せ・殺せ・殺せ……。
憎悪が満ちている。
谷にいたゴーレムたちはあれに指先すら触れることができずに、あれの子供たちに壊された。そして、谷に隣接する森に逃がした仲間たちすら、森にいた別のあれの子供たちと遭遇し、ついには全て壊されてしまった。
森の中の壊された仲間には、まだ生きているものも多数いるが、谷にいた仲間と同じく動けなくされている。
ゴーレムはその匂いから、双子の魔狼とロアたちを、グリフォンの子供たちだと勘違いしていた。
双子だけではなく、ロアと望郷もグリフォンの仲間で、殺すべき存在だと認識していたのである。
殺せ・殺せ・殺せ……。
このまま逃げ出せば、あれに見逃されるだろう。
しかし、多数の仲間を壊され、殺されたゴーレムの思考は憎悪の感情に塗り潰されており、逃げるという選択肢はすでになかった。
ゆっくりと。
染み出すように、ゴーレムの核から濃い魔力が溢れる。
それは闇のようで、ドロリとした粘りすら感じられた。
本来、魔力は目には見えない。しかし多数のゴーレムの核が融合し、圧縮された魔力は、目視できるほどの濃さになっていた。
核から染み出した魔力は周囲の銀を侵し、そして変質させる。
それはゴーレム自身にも予想外の変化だった。
淡く光り始める肉体。
ゴーレムはさらなる力を得ようとしていた。
「さて、これからどうする?」
そう呟いたのは望郷の斥候・剣士であるクリストフだ。
彼の傍らにはまだ両の太腿を手で押さえ、しゃがみ込んでいるディートリヒの姿があった。地味に痛みが継続しているらしく、無言で痛みに耐えている。クリストフはそれを横目で見ながらも完全に無視していた。
「森から抜け出すべきよね。ゴーレムが全滅したとは思えないし」
女盾役のコルネリアも無視だ。
彼女はディートリヒが視界の真正面に入っているにもかかわらず、見事なほど堂々と無視していた。
「……オレも森から出るべきだとは思いますけど……あの、無視してていいんですか? かなり痛そうですけど……」
皆がディートリヒのことを無視している雰囲気に耐え切れず、ロアは思わず尋ねた。
ディートリヒが耐えている痛みの原因は、双子の魔狼がやった火傷と凍傷の肉球スタンプだ。
彼が手で押さえている部分には、クッキリとした魔狼の肉球形の、火傷と凍傷の痕があるはずだった。
それは双子が自分に抱きついていたディートリヒに嫉妬した結果なので、自分がやったことではないが、ロアも何となく責任を感じていた。
一度、治癒魔法薬を差し出そうとしたが、やんわりとコルネリアに止められていた。
「え? 火傷くらいでどうにかなるほど、リーダーはヤワじゃないから大丈夫よ」
「見た目通り頑丈さには定評があるからな、慰めてもらいたくて大げさにしてるだけだ。太腿をバッサリ斬られても、元気に敵を攻撃してたこともあるくらいだからな。それに、耐えられないなら自前の治癒魔法薬を持ってるんだから飲むだろ」
「勿体ないだろ!」
コルネリアとクリストフの発言を聞いて、ディートリヒが声を上げる。
ロアが治癒魔法薬を大量に準備しており、回復薬の飴もあったため使うタイミングがなかったが、望郷のメンバーたちも最低限の備えとして、各個人で治癒魔法薬をいくつか持っている。
しかし、いくら痛いからといっても、火傷程度のケガで使うのはやはり勿体ないという感情が先に立ってしまうのだ。
治癒魔法薬は低位の物でも、そう気楽に使える金額ではない。ロアの治癒魔法薬を断ったのも、緊急時でもないのに高価な治癒魔法薬を使わせるのは気が引けたからだった。
ただ、「魔力酔いのリスク」ではなく「勿体ない」という言葉が先に出るあたり、ディートリヒもゴーレムたちの脅威がひとまず落ち着き、すでに金銭的問題がなければ魔法薬を飲んでも問題ない状況になったと思っていることは間違いなかった。
「……」
不意に、魔術師のベルンハルトが無言でディートリヒに近づく。
無表情なため目的が分からずディートリヒは一瞬身構えるが、ベルンハルトはまったく気にする様子もなくディートリヒの手を掴むと、押さえている太腿から引き剥がした。
「……」
無言で肉球形の火傷を見るベルンハルト。
ディートリヒは突然のことに驚きの表情で固まったまま、表情の変わらないベルンハルトの整った顔をじっと見つめた。ロアと残りの二人もベルンハルトの突然の行動の意味が分からず、無言で見ていることしかできない。
ベルンハルトが治癒魔法を使えるなら治療のための行動だと思えるが、そういうわけではない。
攻撃魔法を中心に習得している、冒険者にありがちな攻撃特化の魔術師だ。
「……素晴らしい!」
沈黙が続いた後、ベルンハルトは目を輝かせて呟いた。
「どう見ても皮膚表面しか傷つけていない! それなのに、これほどまでに痛みが持続するということは、痛みの感覚が麻痺しないように魔法を調整して使ったのか! 見事な嫌がらせのための魔法だ! 拷問用としては理想的過ぎる! 素晴らしい……」
叫ぶと同時に、その目はさらに肉球スタンプを観察するために大きく開かれる。
その口元には、普段の無表情なベルンハルトからは考えられないくらいの、不気味な笑みが浮かんでいた。
間違いなく陶酔していて、うっとりと見つめている先がディートリヒの太腿なために、妙に怪しげな雰囲気を醸し出していた。
「そこの魔狼たち! もう一度魔法を使ってくれないか! できれば魔法式が解読できるようにゆっくりと! さあ!」
そう言いながら魔狼の双子に視線を向けると、魔法を使うように促す。
彼が手で指し示した先は、ディートリヒの太腿だった……。
突然呼ばれ、見つめられた双子はビクリと身体を震わせると、口に咥えていた物をポトリと落とした。そしてベルンハルトを見つめると、シッポを足の間に挟み込み、素早くロアの後ろに隠れる。異常な雰囲気が怖かったらしい。
双子は先ほどまで気分良く素材を採取してきていたのだが、今ので一気に怯えてしまった。多数のゴーレムすら玩具感覚で倒していた双子が怯えるなど尋常ではない。
敵意を向けてはいないものの、その背中の毛が逆立っている。視線も不気味なベルンハルトから外さずに警戒していた。
「待て待て待てっ! 何でまたオレの太腿なんだよ?」
「魔法の発展に我が身を差し出すのはやぶさかではないが、自分の身体では上手く観察できないではないか!!」
「そういう問題じゃないだろ!!」
言い争いをしている二人を見ながら、ロアたちは苦笑を浮かべるしかできなかった。
「けっこう騒いでるけど、ゴーレムは大丈夫そう?」
言い争っているディートリヒとベルンハルトを呆然と見つめていたコルネリアが、思い出したように呟く。
気の抜けた雰囲気になってしまっているが、つい先ほどまでゴーレムに襲われ続け、命の危険のある状況だったのだ。気になるのは当然だろう。
むしろ、今の状況で何も考えずに騒いでいる二人の方が普通でない。
「大丈夫ですよ」
「え?」
コルネリアは斥候のクリストフに尋ねたのだが、答えたのはロアだった。
「双子がいますからね、敵になる魔獣が来れば絶対に見逃しません」
そう言いながら、怯えている双子の背中を両手で撫でる。それだけで逆立っていた毛は収まり、表情も落ち着いた柔らかなものになった。
「まだ子供ですけど、双子の探知能力は信頼できます」
ロアがハッキリと言い切ると、ロアの後ろに隠れていた双子の魔狼が一歩前に飛び出し、コルネリアに向かって胸を張った。
ついでに足を振って愛嬌を振りまく。
「そうだな、そいつらはオレの索敵範囲よりも広く探れるみたいだし、安心して良さそうだな。ロアを発見するのも、オレより断然早かったしなぁ」
感心したようにクリストフが言う。
すると、双子はクリストフの方に頭を向けてまた胸を張った。
「それは……たぶん、オレの匂いを追っただけだと思いますけど……」
「ああ、匂いか……そもそも魔獣だと匂いとか本能で索敵してるから、比べようもないのか」
クリストフは双子の魔狼が魔法を使っていたことから、索敵の魔法でロアの居場所を調べたのかと思っていた。だが、ロアに指摘され、そもそも動物や魔獣は匂いなどで敵の存在を感じていることを思い出した。
しかし、実のところ最初の考えも間違いではなかった。
グリフォンに教育された双子の魔狼は、グリフォンと同じように、魔力を広げて周囲の探索をすることができる。もちろん、グリフォンほどではないが、魔狼独自の強い嗅覚、聴覚などを併用することで、かなりの広さを調べることができた。
「クリストフの索敵魔法はどういうものなんですか? 今も使ってますよね? 実はどんなものか気になってたんですけど、オレでは分からなくて……」
魔術師の中には、目の前で使われた魔法の魔法式を、分析や解読することができる者がいる。
詠唱魔法の場合は、詠唱内容から予測がつくが、クリストフの索敵魔法のように詠唱なしの場合は特定がかなり困難だった。
「ん? 調べようとしたのか?」
「……すみません。気になって」
詠唱がない場合は、起こった現象から、その現象を起こすための魔法式を分析し、逆算して解読する方法がある。魔法にもある程度の定型が存在しているため、手慣れた者なら推定できる。
また、それができるということは、新しい魔法を独自に作れるということでもあった。
先ほどベルンハルトが、双子の魔狼に魔法式が解読できるようにゆっくり使うように言ったのも、この才能を持っているからだ。
もちろん、魔法の発動には魔力の量や適性が関わってくるため、魔法式が分かったからと言って、その魔法を使えるかどうかはまったくの別問題なのだが。
「いや、別に秘密の魔法とかじゃないから気にしないでくれ……そうか、魔法の分析ができるのか。まあ、ロアならできて当たり前だよな。錬金術師はそういうのが得意な連中ばかりだもんなぁ……」
既存の作成方法通りに魔法薬を作るのと違い、新しい魔法薬を作る場合、作る過程で起こった変化を分析し、それに合わせて調合したり、変質させるための魔法を組み直したりする作業が発生する。
それを考えると、好き勝手に魔法薬を作っているロアは、間違いなくそういった分析と魔法の組み立てのエキスパートと言っていい。
クリストフはそう考え納得すると、ちょっと申し訳なさそうな雰囲気を漂わせながらも好奇心に目を輝かせているロアを見つめた。
控えめながらも、ロアもある意味ベルンハルトと同類なのだろう……。
純粋で断りづらいだけ、ベルンハルトよりも質が悪いかもしれない。
「この魔法は『水中探知魔法』という海中用の魔法を、地上でも使えるようにベルンハルトに改良してもらったもんだよ。元々は海の中の地形や、魚の群れを調べたりする、漁師が使う魔法なんだ」
「漁師ですか?」
「そう、漁のための魔法だ。漁師なんて魔力の少ないやつばっかりだからな、魔力の消費も少なくて、広い範囲も調べられるようになってる。索敵魔法に一応含まれてるが、魔法と呼ぶにはかなりお粗末なもんだぞ。魔力を一定間隔で波紋みたいに広げてるだけだからな」
クリストフはそう言って、真っ直ぐに見つめてくるロアの頭を照れ隠しに軽く叩いた。
「魔力の波紋に何かが当たると、分かるようになってるんだよ。分かるのは物の大きさと数くらいで、魔獣と人間の区別もあまりつかない。オレがよく言ってる嫌な感じってのも、実際は魔力が広がり切って、ちゃんと感知できなくなるくらい薄くなったところに、何かがあるのを微妙に感じてただけだしな」
確かに移動中、クリストフは度々嫌な感じがすると言っていた。
望郷のメンバーはそれを素直に信じ、行動していたのをロアは覚えている。経験からの直感のようなものかと思っていたが、ある程度は裏付けがあるものだと知って納得した。
「調べられる範囲は……」
グルルルッ!
ロアが質問をしようとしたところで、双子が同時に唸りを上げる。そして、青い毛並の魔狼が駆け出した。
駆ける姿は風のようで、ロアが声をかける間もなく森の奥へと消えて行った。赤い毛並の魔狼は、シッポをピンと立て、警戒姿勢でロアの前に立つ。
「……やっぱり、魔狼の方が索敵範囲は広いようだな。オレはまだ何も感じてない……」
クリストフが少し寂しそうに呟いた。
青い魔狼が走り出してからしばらく経ち……。
「オレの索敵範囲にも入った。一体だけだ。しかし……」
クリストフの表情が曇る。
重い呟きに、他の者たちは微動だにせず彼を見つめ、次の言葉を待った。
「……これは、デカいな。ゴーレムの倍くらいありそうだ……」
その言葉を切っ掛けに緊張が走り、一瞬で空気が変わる。
クリストフの索敵ではそれがどんな魔獣なのかは分からない。
魔狼が向かった以上、ゴーレムであれば今までと同じように、瞬殺してくれるかもしれない。しかし、他の魔獣だった場合、魔狼一匹では倒せずこちらまで襲ってくる可能性があった。
ゴーレムの倍というのが気になる。
例外はあるものの、魔獣の強さと大きさは比例する。
「なあロア」
問いかけたのは、ディートリヒだ。
先ほどまでの気の抜けた感じはまったくなく、その表情は歴戦の勇士のものだった。先ほどまであれほど痛がっていたのに、今は傷を負ってる様子すらない。
「ゴーレムはお前を追いかけてたよな? あれは何だったんだ?」
「匂いです。ゴーレムはグリフォンの匂いを追っていました。暁の光と戦ったんでしょう。その時に、グリフォンのことを脅威に感じたんだと思います。それで、生き残ったゴーレムが敵を倒すために増殖して、グリフォンの匂いを追って来てたんです」
ロアは問いかけの意味をすぐに理解し、自分の予想を話した。
「そうか、それでやつらはお前を追いかけていたのか……」
ディートリヒはロアがゴーレムを引き寄せるためにした行動を思い出した。
匂いのきつい煙の出る縄を焼き、煙を望郷のメンバーの周りに満たした後で走り出したのだ。
グリフォンの匂いを追っていたゴーレムたちは、煙の匂いで望郷の存在が分からなくなり、唯一強くグリフォンの匂いのするロアだけを追って行ったのだろう。まさしくそれは、ロアの予想を裏付けする行動だった。
「クリストフ。その一体はこっちに向かってきてるか? 魔狼はどうなった?」
「こっちに真っ直ぐ向かってきている。グリフォンの匂いを追ってるなら、たぶん、ゴーレムだろう。魔狼は……今、遭遇したみたいだ」
誰のものかは分からないが、緊張を解すためだろうか、軽く息を吐く音が聞こえた。
「……ダメだ、こっちに向かってくる速度が変わらない……」
クリストフの報告に、衝撃が走る。
向かってくる魔獣の速度が変わらない。それはつまり、魔狼一匹では対応し切れなかったということだ。不安が一気に膨らんでいく。
「あ!」
もう一匹、赤い毛並の魔狼も駆け出す。
双子の魔狼はロアと合流してからは交代でゴーレムを倒し、必ず一匹はロアのことを守っていた。それなのに二匹共向かって行ったということは、そうでないと対応し切れない強大な敵ということだ。
駆けて行く魔狼の姿を見つめ、ロアは露骨に不安な表情を浮かべた。
それはロア自身に命の危険が迫っているからではなく、双子の魔狼の身を案じて出た表情だった。
「…………」
魔獣が魔法を使うこと自体はありえない話ではない。
しかしそれは種族特性として魔法を使う魔獣か、数百年を生きて魔力と知識を得た魔獣に限られている。まだ生まれて数年の魔狼はそのどちらにも当てはまらなかった。
可能性があるとしたら、外見は魔狼に見えるが、あまり知られていない別の種族の魔獣だったということだろう。突然変異的な亜種という可能性や、魔狼を元にした錬金生物だったという可能性もある。
コラルドも何度か暁の光の魔狼たちを見たことがあったが、少し色合いの違う魔狼だと思っていただけで、特別な存在だとは考えもしなかった。
その能力をパーティー内の秘密にしていたのかもしれない。
まだ幼いのに人間臭い動きができるほどに知能が高く、魔法で気配を消していた遠方の密偵の存在を見抜き、魔法を使う魔狼。
秘密にするには十分過ぎる理由だろう。
「従魔に見つかってしまったため、暁の光にも監視がバレたものと判断して、谷の中の状況を確認することはあきらめました。敵対行動ととらえられかねませんので」
「それは賢明な判断だね」
「今は二人残して、最初の指示通り、交代で遠方から森と谷の全体を監視させています」
「そうか」
コラルドは腕を組んで考え込む。
魔狼のことは気になるが、今はそれを考える時ではない。考えるべきはロアと望郷の安全だった。
「いずれ野営の煙で、ロア様たちの安否と位置を確認できると思います」
密偵の男は加えて言うが、位置が確認できたところで、魔獣の森の中には許可された冒険者以外は入れない。
コラルドにできることは限られていた。
望郷の皆さんの実力なら、多少の問題があっても無事帰ってきてくれると思いますが……。
コラルドはそう思いながらも、できることはしておきたかった。杞憂でもかまわない。
彼は情報を重要視する商人だからこそ、細かい情報が手に入らないこの状況に苦痛を感じていた。
採れる手段を考えるべく、腕を組んだままの姿でそっと目を閉じた。
ノーファ渓谷を、ただ静けさが支配していた。
ゴーレムと双子の魔狼の戦いがあった場所には、巨大な鉱石の塊が谷の一部を埋め尽くすように、多数、転がっていた。
そのほとんどは銀であり、闇の中で月明かりを鈍く反射している。
言うまでもなく、それは双子の魔狼に倒されたゴーレムたちのなれの果てだ。全てが動きを止めており、動けるものはないように見えた。
しかし……。
数百という谷に満ちたゴーレムの中でただ一体……。
一体の内部でだけ、うごめくものがあった。
それはノーファ渓谷にいた多数のゴーレムの核が融合し、一つになったものだ。
ゴーレムは仲間が多数殺されたことにより、数ではグリフォンたちに敵わないことを学習した。そのため、分散していた力を再び一つにしたのである。
分裂し、各々で力を持っていた核を融合させたことにより、それが内包する力はありえないほどに強大な物になっている。
ゴーレムが核を融合させたのは、より大きく強力な肉体を得るためだった。
核の中により多くの魔素があれば、大きな肉体を素早く動かすことができる。
ゴーレムは質量と素早さが自らの力になることを知っていた。
殺せ・殺せ・殺せ……。
憎悪が満ちている。
谷にいたゴーレムたちはあれに指先すら触れることができずに、あれの子供たちに壊された。そして、谷に隣接する森に逃がした仲間たちすら、森にいた別のあれの子供たちと遭遇し、ついには全て壊されてしまった。
森の中の壊された仲間には、まだ生きているものも多数いるが、谷にいた仲間と同じく動けなくされている。
ゴーレムはその匂いから、双子の魔狼とロアたちを、グリフォンの子供たちだと勘違いしていた。
双子だけではなく、ロアと望郷もグリフォンの仲間で、殺すべき存在だと認識していたのである。
殺せ・殺せ・殺せ……。
このまま逃げ出せば、あれに見逃されるだろう。
しかし、多数の仲間を壊され、殺されたゴーレムの思考は憎悪の感情に塗り潰されており、逃げるという選択肢はすでになかった。
ゆっくりと。
染み出すように、ゴーレムの核から濃い魔力が溢れる。
それは闇のようで、ドロリとした粘りすら感じられた。
本来、魔力は目には見えない。しかし多数のゴーレムの核が融合し、圧縮された魔力は、目視できるほどの濃さになっていた。
核から染み出した魔力は周囲の銀を侵し、そして変質させる。
それはゴーレム自身にも予想外の変化だった。
淡く光り始める肉体。
ゴーレムはさらなる力を得ようとしていた。
「さて、これからどうする?」
そう呟いたのは望郷の斥候・剣士であるクリストフだ。
彼の傍らにはまだ両の太腿を手で押さえ、しゃがみ込んでいるディートリヒの姿があった。地味に痛みが継続しているらしく、無言で痛みに耐えている。クリストフはそれを横目で見ながらも完全に無視していた。
「森から抜け出すべきよね。ゴーレムが全滅したとは思えないし」
女盾役のコルネリアも無視だ。
彼女はディートリヒが視界の真正面に入っているにもかかわらず、見事なほど堂々と無視していた。
「……オレも森から出るべきだとは思いますけど……あの、無視してていいんですか? かなり痛そうですけど……」
皆がディートリヒのことを無視している雰囲気に耐え切れず、ロアは思わず尋ねた。
ディートリヒが耐えている痛みの原因は、双子の魔狼がやった火傷と凍傷の肉球スタンプだ。
彼が手で押さえている部分には、クッキリとした魔狼の肉球形の、火傷と凍傷の痕があるはずだった。
それは双子が自分に抱きついていたディートリヒに嫉妬した結果なので、自分がやったことではないが、ロアも何となく責任を感じていた。
一度、治癒魔法薬を差し出そうとしたが、やんわりとコルネリアに止められていた。
「え? 火傷くらいでどうにかなるほど、リーダーはヤワじゃないから大丈夫よ」
「見た目通り頑丈さには定評があるからな、慰めてもらいたくて大げさにしてるだけだ。太腿をバッサリ斬られても、元気に敵を攻撃してたこともあるくらいだからな。それに、耐えられないなら自前の治癒魔法薬を持ってるんだから飲むだろ」
「勿体ないだろ!」
コルネリアとクリストフの発言を聞いて、ディートリヒが声を上げる。
ロアが治癒魔法薬を大量に準備しており、回復薬の飴もあったため使うタイミングがなかったが、望郷のメンバーたちも最低限の備えとして、各個人で治癒魔法薬をいくつか持っている。
しかし、いくら痛いからといっても、火傷程度のケガで使うのはやはり勿体ないという感情が先に立ってしまうのだ。
治癒魔法薬は低位の物でも、そう気楽に使える金額ではない。ロアの治癒魔法薬を断ったのも、緊急時でもないのに高価な治癒魔法薬を使わせるのは気が引けたからだった。
ただ、「魔力酔いのリスク」ではなく「勿体ない」という言葉が先に出るあたり、ディートリヒもゴーレムたちの脅威がひとまず落ち着き、すでに金銭的問題がなければ魔法薬を飲んでも問題ない状況になったと思っていることは間違いなかった。
「……」
不意に、魔術師のベルンハルトが無言でディートリヒに近づく。
無表情なため目的が分からずディートリヒは一瞬身構えるが、ベルンハルトはまったく気にする様子もなくディートリヒの手を掴むと、押さえている太腿から引き剥がした。
「……」
無言で肉球形の火傷を見るベルンハルト。
ディートリヒは突然のことに驚きの表情で固まったまま、表情の変わらないベルンハルトの整った顔をじっと見つめた。ロアと残りの二人もベルンハルトの突然の行動の意味が分からず、無言で見ていることしかできない。
ベルンハルトが治癒魔法を使えるなら治療のための行動だと思えるが、そういうわけではない。
攻撃魔法を中心に習得している、冒険者にありがちな攻撃特化の魔術師だ。
「……素晴らしい!」
沈黙が続いた後、ベルンハルトは目を輝かせて呟いた。
「どう見ても皮膚表面しか傷つけていない! それなのに、これほどまでに痛みが持続するということは、痛みの感覚が麻痺しないように魔法を調整して使ったのか! 見事な嫌がらせのための魔法だ! 拷問用としては理想的過ぎる! 素晴らしい……」
叫ぶと同時に、その目はさらに肉球スタンプを観察するために大きく開かれる。
その口元には、普段の無表情なベルンハルトからは考えられないくらいの、不気味な笑みが浮かんでいた。
間違いなく陶酔していて、うっとりと見つめている先がディートリヒの太腿なために、妙に怪しげな雰囲気を醸し出していた。
「そこの魔狼たち! もう一度魔法を使ってくれないか! できれば魔法式が解読できるようにゆっくりと! さあ!」
そう言いながら魔狼の双子に視線を向けると、魔法を使うように促す。
彼が手で指し示した先は、ディートリヒの太腿だった……。
突然呼ばれ、見つめられた双子はビクリと身体を震わせると、口に咥えていた物をポトリと落とした。そしてベルンハルトを見つめると、シッポを足の間に挟み込み、素早くロアの後ろに隠れる。異常な雰囲気が怖かったらしい。
双子は先ほどまで気分良く素材を採取してきていたのだが、今ので一気に怯えてしまった。多数のゴーレムすら玩具感覚で倒していた双子が怯えるなど尋常ではない。
敵意を向けてはいないものの、その背中の毛が逆立っている。視線も不気味なベルンハルトから外さずに警戒していた。
「待て待て待てっ! 何でまたオレの太腿なんだよ?」
「魔法の発展に我が身を差し出すのはやぶさかではないが、自分の身体では上手く観察できないではないか!!」
「そういう問題じゃないだろ!!」
言い争いをしている二人を見ながら、ロアたちは苦笑を浮かべるしかできなかった。
「けっこう騒いでるけど、ゴーレムは大丈夫そう?」
言い争っているディートリヒとベルンハルトを呆然と見つめていたコルネリアが、思い出したように呟く。
気の抜けた雰囲気になってしまっているが、つい先ほどまでゴーレムに襲われ続け、命の危険のある状況だったのだ。気になるのは当然だろう。
むしろ、今の状況で何も考えずに騒いでいる二人の方が普通でない。
「大丈夫ですよ」
「え?」
コルネリアは斥候のクリストフに尋ねたのだが、答えたのはロアだった。
「双子がいますからね、敵になる魔獣が来れば絶対に見逃しません」
そう言いながら、怯えている双子の背中を両手で撫でる。それだけで逆立っていた毛は収まり、表情も落ち着いた柔らかなものになった。
「まだ子供ですけど、双子の探知能力は信頼できます」
ロアがハッキリと言い切ると、ロアの後ろに隠れていた双子の魔狼が一歩前に飛び出し、コルネリアに向かって胸を張った。
ついでに足を振って愛嬌を振りまく。
「そうだな、そいつらはオレの索敵範囲よりも広く探れるみたいだし、安心して良さそうだな。ロアを発見するのも、オレより断然早かったしなぁ」
感心したようにクリストフが言う。
すると、双子はクリストフの方に頭を向けてまた胸を張った。
「それは……たぶん、オレの匂いを追っただけだと思いますけど……」
「ああ、匂いか……そもそも魔獣だと匂いとか本能で索敵してるから、比べようもないのか」
クリストフは双子の魔狼が魔法を使っていたことから、索敵の魔法でロアの居場所を調べたのかと思っていた。だが、ロアに指摘され、そもそも動物や魔獣は匂いなどで敵の存在を感じていることを思い出した。
しかし、実のところ最初の考えも間違いではなかった。
グリフォンに教育された双子の魔狼は、グリフォンと同じように、魔力を広げて周囲の探索をすることができる。もちろん、グリフォンほどではないが、魔狼独自の強い嗅覚、聴覚などを併用することで、かなりの広さを調べることができた。
「クリストフの索敵魔法はどういうものなんですか? 今も使ってますよね? 実はどんなものか気になってたんですけど、オレでは分からなくて……」
魔術師の中には、目の前で使われた魔法の魔法式を、分析や解読することができる者がいる。
詠唱魔法の場合は、詠唱内容から予測がつくが、クリストフの索敵魔法のように詠唱なしの場合は特定がかなり困難だった。
「ん? 調べようとしたのか?」
「……すみません。気になって」
詠唱がない場合は、起こった現象から、その現象を起こすための魔法式を分析し、逆算して解読する方法がある。魔法にもある程度の定型が存在しているため、手慣れた者なら推定できる。
また、それができるということは、新しい魔法を独自に作れるということでもあった。
先ほどベルンハルトが、双子の魔狼に魔法式が解読できるようにゆっくり使うように言ったのも、この才能を持っているからだ。
もちろん、魔法の発動には魔力の量や適性が関わってくるため、魔法式が分かったからと言って、その魔法を使えるかどうかはまったくの別問題なのだが。
「いや、別に秘密の魔法とかじゃないから気にしないでくれ……そうか、魔法の分析ができるのか。まあ、ロアならできて当たり前だよな。錬金術師はそういうのが得意な連中ばかりだもんなぁ……」
既存の作成方法通りに魔法薬を作るのと違い、新しい魔法薬を作る場合、作る過程で起こった変化を分析し、それに合わせて調合したり、変質させるための魔法を組み直したりする作業が発生する。
それを考えると、好き勝手に魔法薬を作っているロアは、間違いなくそういった分析と魔法の組み立てのエキスパートと言っていい。
クリストフはそう考え納得すると、ちょっと申し訳なさそうな雰囲気を漂わせながらも好奇心に目を輝かせているロアを見つめた。
控えめながらも、ロアもある意味ベルンハルトと同類なのだろう……。
純粋で断りづらいだけ、ベルンハルトよりも質が悪いかもしれない。
「この魔法は『水中探知魔法』という海中用の魔法を、地上でも使えるようにベルンハルトに改良してもらったもんだよ。元々は海の中の地形や、魚の群れを調べたりする、漁師が使う魔法なんだ」
「漁師ですか?」
「そう、漁のための魔法だ。漁師なんて魔力の少ないやつばっかりだからな、魔力の消費も少なくて、広い範囲も調べられるようになってる。索敵魔法に一応含まれてるが、魔法と呼ぶにはかなりお粗末なもんだぞ。魔力を一定間隔で波紋みたいに広げてるだけだからな」
クリストフはそう言って、真っ直ぐに見つめてくるロアの頭を照れ隠しに軽く叩いた。
「魔力の波紋に何かが当たると、分かるようになってるんだよ。分かるのは物の大きさと数くらいで、魔獣と人間の区別もあまりつかない。オレがよく言ってる嫌な感じってのも、実際は魔力が広がり切って、ちゃんと感知できなくなるくらい薄くなったところに、何かがあるのを微妙に感じてただけだしな」
確かに移動中、クリストフは度々嫌な感じがすると言っていた。
望郷のメンバーはそれを素直に信じ、行動していたのをロアは覚えている。経験からの直感のようなものかと思っていたが、ある程度は裏付けがあるものだと知って納得した。
「調べられる範囲は……」
グルルルッ!
ロアが質問をしようとしたところで、双子が同時に唸りを上げる。そして、青い毛並の魔狼が駆け出した。
駆ける姿は風のようで、ロアが声をかける間もなく森の奥へと消えて行った。赤い毛並の魔狼は、シッポをピンと立て、警戒姿勢でロアの前に立つ。
「……やっぱり、魔狼の方が索敵範囲は広いようだな。オレはまだ何も感じてない……」
クリストフが少し寂しそうに呟いた。
青い魔狼が走り出してからしばらく経ち……。
「オレの索敵範囲にも入った。一体だけだ。しかし……」
クリストフの表情が曇る。
重い呟きに、他の者たちは微動だにせず彼を見つめ、次の言葉を待った。
「……これは、デカいな。ゴーレムの倍くらいありそうだ……」
その言葉を切っ掛けに緊張が走り、一瞬で空気が変わる。
クリストフの索敵ではそれがどんな魔獣なのかは分からない。
魔狼が向かった以上、ゴーレムであれば今までと同じように、瞬殺してくれるかもしれない。しかし、他の魔獣だった場合、魔狼一匹では倒せずこちらまで襲ってくる可能性があった。
ゴーレムの倍というのが気になる。
例外はあるものの、魔獣の強さと大きさは比例する。
「なあロア」
問いかけたのは、ディートリヒだ。
先ほどまでの気の抜けた感じはまったくなく、その表情は歴戦の勇士のものだった。先ほどまであれほど痛がっていたのに、今は傷を負ってる様子すらない。
「ゴーレムはお前を追いかけてたよな? あれは何だったんだ?」
「匂いです。ゴーレムはグリフォンの匂いを追っていました。暁の光と戦ったんでしょう。その時に、グリフォンのことを脅威に感じたんだと思います。それで、生き残ったゴーレムが敵を倒すために増殖して、グリフォンの匂いを追って来てたんです」
ロアは問いかけの意味をすぐに理解し、自分の予想を話した。
「そうか、それでやつらはお前を追いかけていたのか……」
ディートリヒはロアがゴーレムを引き寄せるためにした行動を思い出した。
匂いのきつい煙の出る縄を焼き、煙を望郷のメンバーの周りに満たした後で走り出したのだ。
グリフォンの匂いを追っていたゴーレムたちは、煙の匂いで望郷の存在が分からなくなり、唯一強くグリフォンの匂いのするロアだけを追って行ったのだろう。まさしくそれは、ロアの予想を裏付けする行動だった。
「クリストフ。その一体はこっちに向かってきてるか? 魔狼はどうなった?」
「こっちに真っ直ぐ向かってきている。グリフォンの匂いを追ってるなら、たぶん、ゴーレムだろう。魔狼は……今、遭遇したみたいだ」
誰のものかは分からないが、緊張を解すためだろうか、軽く息を吐く音が聞こえた。
「……ダメだ、こっちに向かってくる速度が変わらない……」
クリストフの報告に、衝撃が走る。
向かってくる魔獣の速度が変わらない。それはつまり、魔狼一匹では対応し切れなかったということだ。不安が一気に膨らんでいく。
「あ!」
もう一匹、赤い毛並の魔狼も駆け出す。
双子の魔狼はロアと合流してからは交代でゴーレムを倒し、必ず一匹はロアのことを守っていた。それなのに二匹共向かって行ったということは、そうでないと対応し切れない強大な敵ということだ。
駆けて行く魔狼の姿を見つめ、ロアは露骨に不安な表情を浮かべた。
それはロア自身に命の危険が迫っているからではなく、双子の魔狼の身を案じて出た表情だった。
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