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チートがまったくチートじゃない……
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「へー。古代遺跡でねぇ……」
ハルトは長距離航海用宇宙船登録番号1433339ファーライト号の艦長室にいた。
ハルトはあの後、ビリヤードの球そっくりの管理用端末417番に身体検査をされた後で、この部屋に連れてこられた。
艦長は幼さを残した少女だった。名前をリューフと言うらしい。
彼女の基本的な見た目は地球人と変わらないが、所々違っている。
なんでも長期間宇宙を移動できるように成長速度を落とし、さらに改造を加えているらしい。
髪色も鮮やかな緑色をしているが、それも髪に葉緑素を加えることで光合成して過酷な環境でも生き延びれるようにした結果らしかった。
透き通るような白い肌も、紫外線を含めた有害光線をすべて遮断するように改造されているからだ。
ハルトは彼女を見た瞬間、エルフだと思った。
耳こそ長くないが、それ以外の特徴はハルトの想像していたエルフそのものだった。
聞いた限りだと、この船の船員たちは単一種族で皆同じような外見をしているそうだ。
まだハルトはリューフ艦長しか会っていないが、他の船員と会うのがかなり楽しみだった。
「古代遺跡はやっかいだもんねー。ちゃんと居住可能空間に飛ばしてくれる遺跡でよかったねー」
「はあ……」
古代遺跡うんぬんは、ハルトが咄嗟についた嘘だ。
ハルトは封鎖された古代遺跡にイタズラ心で入り込み、何かのスイッチが入り気付いたらこの船の中に飛ばされた。
誤作動した古代遺跡に飛ばされたせいで、何も分からない……ということにした。
女神に異世界転移されたというよりは信じてもらいやすいと思い、ハルトの少ない海外SFドラマを総動員して考えた嘘の言い訳だ。
しかし、ここまで見事に信じてもらえるとは、ハルトも思ってもみなかった。
多少は疑われると思っていが、ほとんど鵜呑みにして信じてくれた。
どうも古代遺跡が原因のトラブルというのはよくあることらしい。海外SFドラマも捨てた物じゃないと感心した。
こんなにあっさり信じてもらえるなら、女神に異世界転移させられたといっても信じてもらえたかもしれない。
今更言い直すわけにはいかないが。
それにしても、あの女神の見た目はSF的なものだったのかと、ハルトは感心した。
確かにSFではファンタジーの登場人物と変わらないような見た目に衣装の人間が出てくることがある。そういうイメージで作られた外見だったのだろう。
……そう言えば、やたら艶々したロングドレスを着て異様に長いまつ毛の女性を描くSF漫画の大御所がいたな……と、ハルトはどうでもいいことを考えていた。
「それで、えーと、天の川銀河系の地球だっけ?そこに貴方は帰りたいのかなー?」
「え?帰れるんですか?」
「さあ?知らないもの、そんな銀河系。もっとも、こちらでは呼び名が違ってるだけかもしれないけどねー」
「……」
軽い調子で言うと、リューフ艦長は小瓶からピンク色のグミのようなものを摘まんで口に入れる。
天の川銀河の地球と言うのは、出身惑星を質問されてハルトが答えていた。これもSFドラマでそういった呼び方をしてたなという程度の知識で、正式名称なのかすらハルトは知らない。
『艦長。報告があります』
「なに?」
近くに浮かんでいた管理用端末417号が口を挟んだ。
『医療用検査機器での検査結果の詳細が出ました。有害な菌や物質が発見されなかったのは前述したとおりですが……その、彼には各種インプラント、マイクロマシンの類も発見できませんでした』
「えっ?」
『正しくは、原始的な歯の補修金属などはありましたが、それ以外は何も……』
「嘘でしょ!?でも、彼、私たちと会話してるし、私たち用に調整された船の中でも普通に動けてるよね?」
驚く艦長にハルトは首を傾げる。何もないなら、問題ないはずだ。
「なにか問題あるんですか?」
「あるわよ!!貴方、他の銀河系から来たんでしょ?翻訳インプラント無しで、なんで普通に会話できてるの!?それにこの船は高重力惑星出身の私たち用に調整されてるのよ。生体強化されてないと歩くことすらできないはずなのよ?」
「はあ……?」
呆けた声を上げたながらも、ハルトは考えた。
間違いなく、チート能力のおかげだ。翻訳インプラントやらが無くても話せるのは『翻訳スキル』、高重力環境で普通に動けるのも『世界で一番強い人類』のおかげだろう。
元々高重力惑星で生きている人間がいるのなら、それより弱いはずがない。
……というか、『世界で一番強い人類』という能力はどの範囲まで適応されているのだろう?そう考えて、ハルトは悩む。
サイボーグなどは含まれない気がする。ハルトは女神に能力をお願いする時に、そういった概念がある世界だとはまったく想像すらしていなかった。
しかし、エルフのような亜人種は対象だと思っていた。
亜人種が含まれているなら、リューフ艦長のような異星育ちなどはその対象に含まれている可能性が高い。
ということは、ハルトは自然発生した人類そっくりな存在よりは強いが、サイボーグや薬物による強化人間よりは弱いってことになる。
「ひょっとして、生体強化とかある世界なら、オレってあんまりチートじゃないんじゃ……?」
「え?なに?何か言った?」
「いえ、なんにも」
科学的な生体強化やサイボーグ化が当たり前の世界だと、チートがチートにならない可能性が出てきた。
それに翻訳インプラントなんてものがある世界なら、翻訳スキルも無意味だ。
ひょっとすると『病気にならない身体』すら無意味なほど医療が発達しているかもしれない。『肉体の完全自動再生』も医療でなんとかなる。『転移能力』はどうも転送が普通にあるらしい。
『アイテムボックス』も科学的に空間を湾曲させることができれば……。
「チートがまったくチートじゃない……」
とんでもない事実に気付いたハルトは、その場で膝から崩れ落ちたのだった。
ハルトは長距離航海用宇宙船登録番号1433339ファーライト号の艦長室にいた。
ハルトはあの後、ビリヤードの球そっくりの管理用端末417番に身体検査をされた後で、この部屋に連れてこられた。
艦長は幼さを残した少女だった。名前をリューフと言うらしい。
彼女の基本的な見た目は地球人と変わらないが、所々違っている。
なんでも長期間宇宙を移動できるように成長速度を落とし、さらに改造を加えているらしい。
髪色も鮮やかな緑色をしているが、それも髪に葉緑素を加えることで光合成して過酷な環境でも生き延びれるようにした結果らしかった。
透き通るような白い肌も、紫外線を含めた有害光線をすべて遮断するように改造されているからだ。
ハルトは彼女を見た瞬間、エルフだと思った。
耳こそ長くないが、それ以外の特徴はハルトの想像していたエルフそのものだった。
聞いた限りだと、この船の船員たちは単一種族で皆同じような外見をしているそうだ。
まだハルトはリューフ艦長しか会っていないが、他の船員と会うのがかなり楽しみだった。
「古代遺跡はやっかいだもんねー。ちゃんと居住可能空間に飛ばしてくれる遺跡でよかったねー」
「はあ……」
古代遺跡うんぬんは、ハルトが咄嗟についた嘘だ。
ハルトは封鎖された古代遺跡にイタズラ心で入り込み、何かのスイッチが入り気付いたらこの船の中に飛ばされた。
誤作動した古代遺跡に飛ばされたせいで、何も分からない……ということにした。
女神に異世界転移されたというよりは信じてもらいやすいと思い、ハルトの少ない海外SFドラマを総動員して考えた嘘の言い訳だ。
しかし、ここまで見事に信じてもらえるとは、ハルトも思ってもみなかった。
多少は疑われると思っていが、ほとんど鵜呑みにして信じてくれた。
どうも古代遺跡が原因のトラブルというのはよくあることらしい。海外SFドラマも捨てた物じゃないと感心した。
こんなにあっさり信じてもらえるなら、女神に異世界転移させられたといっても信じてもらえたかもしれない。
今更言い直すわけにはいかないが。
それにしても、あの女神の見た目はSF的なものだったのかと、ハルトは感心した。
確かにSFではファンタジーの登場人物と変わらないような見た目に衣装の人間が出てくることがある。そういうイメージで作られた外見だったのだろう。
……そう言えば、やたら艶々したロングドレスを着て異様に長いまつ毛の女性を描くSF漫画の大御所がいたな……と、ハルトはどうでもいいことを考えていた。
「それで、えーと、天の川銀河系の地球だっけ?そこに貴方は帰りたいのかなー?」
「え?帰れるんですか?」
「さあ?知らないもの、そんな銀河系。もっとも、こちらでは呼び名が違ってるだけかもしれないけどねー」
「……」
軽い調子で言うと、リューフ艦長は小瓶からピンク色のグミのようなものを摘まんで口に入れる。
天の川銀河の地球と言うのは、出身惑星を質問されてハルトが答えていた。これもSFドラマでそういった呼び方をしてたなという程度の知識で、正式名称なのかすらハルトは知らない。
『艦長。報告があります』
「なに?」
近くに浮かんでいた管理用端末417号が口を挟んだ。
『医療用検査機器での検査結果の詳細が出ました。有害な菌や物質が発見されなかったのは前述したとおりですが……その、彼には各種インプラント、マイクロマシンの類も発見できませんでした』
「えっ?」
『正しくは、原始的な歯の補修金属などはありましたが、それ以外は何も……』
「嘘でしょ!?でも、彼、私たちと会話してるし、私たち用に調整された船の中でも普通に動けてるよね?」
驚く艦長にハルトは首を傾げる。何もないなら、問題ないはずだ。
「なにか問題あるんですか?」
「あるわよ!!貴方、他の銀河系から来たんでしょ?翻訳インプラント無しで、なんで普通に会話できてるの!?それにこの船は高重力惑星出身の私たち用に調整されてるのよ。生体強化されてないと歩くことすらできないはずなのよ?」
「はあ……?」
呆けた声を上げたながらも、ハルトは考えた。
間違いなく、チート能力のおかげだ。翻訳インプラントやらが無くても話せるのは『翻訳スキル』、高重力環境で普通に動けるのも『世界で一番強い人類』のおかげだろう。
元々高重力惑星で生きている人間がいるのなら、それより弱いはずがない。
……というか、『世界で一番強い人類』という能力はどの範囲まで適応されているのだろう?そう考えて、ハルトは悩む。
サイボーグなどは含まれない気がする。ハルトは女神に能力をお願いする時に、そういった概念がある世界だとはまったく想像すらしていなかった。
しかし、エルフのような亜人種は対象だと思っていた。
亜人種が含まれているなら、リューフ艦長のような異星育ちなどはその対象に含まれている可能性が高い。
ということは、ハルトは自然発生した人類そっくりな存在よりは強いが、サイボーグや薬物による強化人間よりは弱いってことになる。
「ひょっとして、生体強化とかある世界なら、オレってあんまりチートじゃないんじゃ……?」
「え?なに?何か言った?」
「いえ、なんにも」
科学的な生体強化やサイボーグ化が当たり前の世界だと、チートがチートにならない可能性が出てきた。
それに翻訳インプラントなんてものがある世界なら、翻訳スキルも無意味だ。
ひょっとすると『病気にならない身体』すら無意味なほど医療が発達しているかもしれない。『肉体の完全自動再生』も医療でなんとかなる。『転移能力』はどうも転送が普通にあるらしい。
『アイテムボックス』も科学的に空間を湾曲させることができれば……。
「チートがまったくチートじゃない……」
とんでもない事実に気付いたハルトは、その場で膝から崩れ落ちたのだった。
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