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情報量が多い!⑥
しおりを挟む食後はレオに支えてもらい、屋敷の庭園にお邪魔した。
広さは昔訪れた千葉のバラ園ほど。
よく手入れされたもみの木が等間隔に立ち並び、花壇には赤・白・黄・緑・青といった色とりどりの花々が咲き乱れている。
一陣の風が吹き抜け、俺の髪をぱさぱさと揺らす。見上げた空は青く、雲一つない。明日も良く晴れそうだ。
「綺麗な一円玉天気……」
「一円玉天気?」
「あ、ごめん。これ前世の喩えなんだ。一円玉はこっちでいう1ルピーでね。それ以上崩れようがない事を、天気に当て嵌めて表現した単語なの」
「へぇ、面白いね」
「ね。でもこれからは1ルピー天気って訂正しないと」
「あははっ。あ、東屋が見えてきたね。彼処で一回休憩にしようか」
指差した先は庭園中央の白の東屋。
可愛らしいデザインの建物に、これまた可愛らしい机と椅子が置かれている。支部長の好みだろうか。
引いてもらった椅子に腰掛け、軽く汗を拭う。
「大丈夫?」
「平気、って言いたいとこだけど、ちょっとしんどいかな。ずっと寝てた所為か結構体力が落ちてるみたい」
「仕方ないよ。帰りは俺が抱っこするから、ゆっくり休もう」
「有難う。あ~、風が気持ちいいね」
少し甘い香りを含んでいるが、熱を冷ますには丁度いい。
「? そんなにじっと見てどうしたの。もしかして何かついてる?」
「ううん。花を見て風にそよがれてるユニも可愛いなぁって思ってただけ」
「なっ、……ありがと」
「どういたしまして」
落ち着きかけていた鼓動がまた忙しなく動き、俺は誤魔化すように手で顔を扇いだ。
「あ、そうだ。そういえば俺の話し聞きたいって言ってたよね。あんまり楽しいものではないけど、今話そうか」
「! 聞きたい聞きたい!」
「了解。じゃあまずは出身。ヒューリ村のずっとずっと先にあったビア村っていうしがない農村だよ。家は農家で下に三つ離れた弟がいたんだ」
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レオを見る限り、きっと家族全員、美形な顔立ちなのだろう。
頭の中で想像していると、ふと違和感に気付く。
「あ、あのさ、レオ。どうして全部過去形なの?」
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ひゅっ、と息が詰まる。
どう声をかけるか考え倦ねる内に、レオは更に壮絶な半生を語り始める。
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その後は、お使いで難を逃れたオズ同様、親戚の家に厄介となり、復讐心を胸に独学で剣を振るったそうだ。
そんなある日、凄腕の剣士の来訪を聞き、彼に弟子入りしたと言う。
最初は渋っていたその師匠も、レオの境遇を聞き、がらりと態度を変え、自分の知る全てを叩きこんだそうだ。
そうして皆伝までいった時、レオは師匠こそが村を滅ぼした貴族の元騎士であった事を知らされた。
信じられなかったが、その師は最終試験として、自身と生死を賭けた戦いを強要し、レオはこの日初めて人殺しをしたとのこと。
そんな筆舌に尽くしがたい経験を、レオはまるで他人事であるかのように淡々と話す。
「――とまぁ、大体こんな感じで冒険者になったんだ。ってユニ、大丈夫!?」
「全然大丈夫じゃないよぉ」
俺は泣いた。
今まで知らなかった、知ろうとしなかった後悔と優しいレオにこんな過去を設定した制作陣への怒りが綯い交ぜとなって滂沱の涙が止まらない。
「あぁ、ごめんね。泣かないで」
「なんでレオが謝るのぉ」
「いやだって俺が話したから」
「違う。俺が今泣いてるのは何も知ろうとしなかった自分に対する苛立ちとこのゲームの制作陣への怒りとあと気狂い貴族と元騎士のクソ師匠の所為なの!」
酷い、酷い、酷い。
こんなのあんまりだ。
レオが何したって言うんだよ。
産みの親だからって、貴族だからって、剣の師匠だからってどいつもこいつも俺のレオを傷つけやがって。
「俺のレオを傷つける奴は全員嫌い!!」
もはや子供の癇癪が如く、泣き暴れる俺を、席を立ったレオが抱き締める。
「ごめん」
「だからレオは一ミリも悪くないの。謝んなぁ!」
「……うん」
「ぶっ殺してやる。皆、皆、皆!」
「……ありがとう。ユニ」
より一層腕に力が籠もる。
鼓膜に揺れた小さなその声は、涙で少しだけ掠れていた。
そんな俺達を慰めるように、また風が吹く。
「おーい、お前等。ここに居たか」
「? どうしたんダ。二人とモ」
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