君と僕の関係は罰ゲーム

くすのき

文字の大きさ
6 / 9

(6)

しおりを挟む

「へ~、久貫君ここで飯食ってったのか」
「そうですけど。それより今朝のアレは何ですか。僕、彼に先輩とそういう関係なのかって訊かれたんですよ」

 先輩の後姿を追いかけて抗議した僕は頬を膨らませた。これでは逆効果ではないかと怒りを露にするが、先輩はそんなことはないと否定する。そのあまりの堂々たる姿に少し戸惑う。

「いいか、ナツ。ナツは久貫君と出来る限り接点を持ちたくない、もしくは顔見知り程度の関係になりたいんだろう?」
「そりゃあ、まあ」
「だろう。なら俺の取った行動は間違いじゃない。そうだな。例えば俺がある日突然、男の体から女に変わって現れたらナツはどうする?」
「先輩がですか?――ちょっと戸惑うかも、です」
「そう。人間ってのはな、基本変化に弱いんだよ。そしてそれをうまく受け入れられない。大抵は距離を置くか、排除するかのどちらかだ」
「僕は先輩と距離置いたりしないですよ?」
「んんんんん。と、ともかく今回はそれを狙ってのことだ」
「なるほど。じゃあ現時点では何の問題もないって事ですね」

 先輩は黙って、僕から視線を逸らした。
 静かな空気が流れ、違うのかと不安になった僕はじっと見上げる。そして彼の袖口に触れた。

「ま、まぁ問題ないと思うぞ。……多分」
「それならいいんですけど」

 先輩を信じつつ、僕はキッチンへと踵を返し、夕食の配膳を始めた。

「今日の飯は何?」
「ネギトロ丼と鶏のさっぱり煮、マカロニサラダです」
「ナツは良い嫁になるぞ」
「? 僕は男ですよ?」

 それに今は男も女も料理する時代だ。
 僕の疑問に先輩は、うんうんと頷きながら配膳を手伝う。そして昨日と同じく向かい合って僕達は食卓についた。

「今日は他に何かあったか?」
「っ、」

 その問いに忘れかけていた事故チューを思い出す。

「その顔は何かあったな」
「……ューです」
「ん?」
「だから事故チューですよ」

 赤い顔のままやけっぱちで叫ぶ。

「ナツ。その話詳しく」
「~~っ。先輩のその顔腹立つ!」

 ぺちぺちと食卓を叩きながら、僕は彼に今日の出来事を掻い摘んで話した。
 すると最初は(・∀・)ニヤニヤとしていた顔が最終的にププ━(〃>З<)━ッッ!!!になっていた。くっそ腹立つ。

「……先輩、明日の朝ご飯とお弁当抜きでいいですか?」
「わー! 悪かった。俺が悪かったから」
「分かりました。明日の朝ご飯は椎茸を重点的に入れます」
「誠に申し訳ございませんでした」

 一転して平身低頭となった先輩は、それだけは勘弁してくれと頭を下げる。

「……ゴミ出ししてくれたら許します」
「飯終わったら直ぐ行ってきます!」

 どんだけ椎茸嫌いなんだろう。
 食い気味に被った返事に溜飲を下げた僕は、さっぱり煮の卵を口に入れた。

「……先輩。暫く泊まりに来ません?」
「何で?」
「その、朝は」
「顔合わせづらいなら時間ずらして行けばいいんじゃないか?」
「そ、れはそうなんですけど」

 嫌いではないと口にした手前、あからさまに避けるような行為は正直よろしくない。
 かといってあの満員電車で至近距離は僕の心臓が保ちそうにない。

「可愛い後輩の頼みだから良いぞって言ってやりたいが、俺にも都合があるからな」
「そう、ですか……わっ!」

 俯いた僕の頭を先輩の大きな手が乱暴にわしわしする。

「そう悲観するなって。つうか久貫君に頼らない、ちゃんとした大人になるんじゃなかったのか?」
「先輩に頼らないとは言ってません」
「お前なぁ……まぁそれがナツだな」
「えっへん」
「褒めてねーよ。はい、ごちそうさん。片付けよろしく。俺、ゴミ出し行ってくるな」
「はーい」

 軽やかに腰を上げた先輩は、収納棚から取り出した指定ごみ袋の中にゴミを入れていくと、あっという間に回収し終え、玄関を出ていった。




 エレベーターを降り、回収指定位置に到着した暁人は、その前で話題の久貫凌の姿を視認した。
 上着のコートのみ部屋着だろうカーディガンに変えたラフな姿。後輩曰くモデルをしていたとあって自分の魅せ方をよく分かっている着こなしだ。
 同じ男ながら格好いいと思う。
 彼は暁人を視界に入れるなり、わずかに眉根を寄せた。そこには明確に忌避の感情が乗っている。
 随分と嫌われたものだ。
 彼とは対照的に表情を明るくした暁人は、気安く声をかける。

「やぁ、久貫君」
「……どうも」

 声の調子も距離がある。

「君もゴミ出しかい」
「ええ、まぁ」
「そうか。俺もナツに頼まれてね」

 そう言うと久貫の顔が一層歪む。
 暁人はそれに気付かない振りをして通り過ぎ、指定場所に袋を置いた。

「よし、ミッション完了。良ければ一緒に戻らないかい?」
「あの」
「ん?」
「あんまりナツに近づかないでもらえますか?」

 突然の申し出に暁人の動きが止まる。
 驚き、久貫を見やれば真剣な表情。
 それに暁人はにやりと笑った。

「何で?」
「っ、何でってそれは……」
「別に君には関係ないだろう」
「――ナツは貴方をただの先輩と見てる。だから」
「離れろって? そんなの百も承知だよ。というかただの隣人である君には口を挟む権利はないだろう」
「それはっ」

 言葉に詰まった久貫は、自らの拳を強く握った。

「ナツの事、本気なんですか?」
「さて、どうだろうね」
「アンタっ!」
「おお、怖いなぁ」
「首裏にあんなキスマークつけておいて」
「そっか。あれに気付いたんだ」

 にんまりと笑う暁人に、久貫の表情が一層険しくなった。

「個人の恋愛に口出しは野暮だよ。けどまぁ君がナツを好きだって言うなら話は別だけどさ」
「好き?」
「おや、違うのかい?」
「俺はナツの親友として」
「じゃあ俺達に構わないでくれ。ナツももう大学生だ。自分の事は自分で決めるよ」

 それじゃあ、と久貫の横を通り過ぎた。
 そんな暁人の背中を、彼は鋭い眼差しで睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ真に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

アイドルグループ脱退メンバーは人生をやり直す 〜もう芸能界とは関わらない〜

ちゃろ
BL
ひたすら自分に厳しく練習と経験を積んできた斎川莉音はアイドルグループResonance☆Seven(レゾナンスセブン)のリオンとして活動中。 アイドルとして節目を迎える年に差し掛かる。 しかしメンバーたちとの関係はあまり上手くいってなかった。 最初は同じ方向を見ていたはずなのに、年々メンバーとの熱量の差が開き、莉音はついに限界を感じる。 自分が消えて上手く回るのなら自分はきっと潮時なのだろう。 莉音は引退を決意する。 卒業ライブ無しにそのまま脱退、莉音は世間から姿を消した。 しばらくはゆっくりしながら自分のやりたいことを見つけていこうとしていたら不慮の事故で死亡。 死ぬ瞬間、目標に向かって努力して突き進んでも結局何も手に入らなかったな…と莉音は大きな後悔をする。 そして目が覚めたら10歳の自分に戻っていた。 どうせやり直すなら恋愛とか青春とかアイドル時代にできなかった当たり前のことをしてみたい。 グループだって俺が居ない方がきっと順調にいくはず。だから今回は芸能界とは無縁のところで生きていこうと決意。 10歳の年は母親が事務所に履歴書を送る年だった。莉音は全力で阻止。見事に防いで、ごく普通の男子として生きていく。ダンスは好きだから趣味で続けようと思っていたら、同期で親友だった幼馴染みやグループのメンバーたちに次々遭遇し、やたら絡まれる。 あまり関わりたくないと思って無難に流して避けているのに、何故かメンバーたちはグイグイ迫って来るし、幼馴染みは時折キレて豹変するし、嫌われまくっていたやり直し前の時の対応と違いすぎて怖い。 何で距離詰めて来るんだよ……! ほっといてくれ!! そんな彼らから逃げる莉音のやり直しの日常。 やり直し編からでも読めます。 ※アイドル業界、習い事教室などの描写は創作込みのふんわりざっくり設定です。その辺は流して読んで頂けると有り難いです。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

処理中です...