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ハーラングロー家の企み
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レイが帰ってから、ホリーはナニーにもハーラングロー家の調査を頼んだ。
昼すぎに屋敷を出ていったナニーが戻って来たのは、おやつ前。
「お嬢様。調べて来ました」
「もう?」
「えぇ。王都乳母組合の情報網を駆使すれば、楽勝ですよ」
ナニーはドヤ顔で笑う。
ただ、ハーラングロー家についての、彼女の第一声は「実に、うさん臭い」だった。
「そもそも、ハーラングロー家の現当主は貧しい農家の生まれで、商いで財を成した人物です。その功績を認められ、十年ほど前に陛下から爵位を賜った新興貴族。俗に言う、成り上がりと言うやつですね。商売人ですから、外面はすこぶるいいみたいですが、屋敷で働く使用人たちの評判は最悪。ケチで傲慢な人物だと、みな、口をそろえております」
バクッと、お茶うけの焼き菓子を食べて、ナニーは続ける。
「このハーラングロー家ですが、あちこちに縁談を持ちかけていたようです。名家の姻戚となって、ハーラングロー家の家柄を上げることが目当てなんでしょう。それで、シュトラール家にも度々、縁談を持ちかけていたと」
「度々?」
「リヒト様だけでなく、ご弟妹へも、しつこく縁談を持ちかけていたようなんです」
しかもと、続けたナニーの眉間には、嫌悪感があらわに、深いシワが刻みこまれる。
「しかもですよ! リヒト様もご弟妹も、縁談のお相手は、養子だというじゃありませんか!」
「養子?」
「ハーラングロー家の子供たちは、長男以外、みんな養子なんだそうです。親類縁者から次々に養子を迎え入れては、そこそこの家と縁組させてるんですよ!」
徐々にヒートアップするナニー。
落ち着いてと、ホリーはお茶を差し出した。ナニーは、それを一気に飲み干し、ついでに茶菓子をバクバクっと平らげ、一息入れてから、またしゃべり始める。
「そりゃあ、貴族の子女となれるなら、喜んで自分の子供を養子に差し出す親の気持ちも、分からなくはないですが。それにしても、です!」
ナニーが吠えた。茶菓子では、彼女の怒りは鎮められなかったらしい。
「養女の一人は、父親ほど年の離れた子爵の愛人となって、そこから正妻を追い出し、自分が妻の座に収まったというじゃありませんか! それで妻になったら、やりたい放題の贅沢三昧。最初っから財産目当ての結婚だったんです! んまぁ、とんでもない腹黒一家です! リヒト様の家へ縁談を持ちかけていたのも、財産目当てかもしれませんよ! まぁまぁまぁまぁ!」
奇声をあげながら憤るナニーを、ホリーはなんとか落ち着かせ、充分に労った。
その後、一人になったホリーは、あれこれと考える。
十年後、ヴァイオラがホリーの前に現れた時、彼女はすでにハーラングロー家の娘だった。養女となった彼女もまた、ナニーが言うように財産目当てで、リヒトに近づいてきたのだろうか。
もし、そうだとしても……。
ホリーは、カップを手に取り、すっかり冷めたお茶を飲んだ。温かいうちは、それほど気にならなかった苦味が口の中に広がっていく。
それに顔をしかめながら、ホリーはため息をついた。
例え、ヴァイオラが財産目当てで、リヒトに近づいたのだとしても。
──彼女を受け入れたのは、リヒト。
自分の考えに、胸がきゅうと締めつけられる。
三十手前の中身が、どんなに結婚したくないと考えていても、十代の身体は違うらしい。
結婚を控えたこの時期は、夢と希望に満ちていた頃。つまり、今は人生で一番、リヒトが大大大大大好きだと言える。
『ホリー様は、本当に、この結婚を破談になさるおつもりで?』
今ここで、もう一度、聞かれても、ホリーは『はい』と答えるだろう。しかし、それを考えると、胸がとても苦しかった。
昼すぎに屋敷を出ていったナニーが戻って来たのは、おやつ前。
「お嬢様。調べて来ました」
「もう?」
「えぇ。王都乳母組合の情報網を駆使すれば、楽勝ですよ」
ナニーはドヤ顔で笑う。
ただ、ハーラングロー家についての、彼女の第一声は「実に、うさん臭い」だった。
「そもそも、ハーラングロー家の現当主は貧しい農家の生まれで、商いで財を成した人物です。その功績を認められ、十年ほど前に陛下から爵位を賜った新興貴族。俗に言う、成り上がりと言うやつですね。商売人ですから、外面はすこぶるいいみたいですが、屋敷で働く使用人たちの評判は最悪。ケチで傲慢な人物だと、みな、口をそろえております」
バクッと、お茶うけの焼き菓子を食べて、ナニーは続ける。
「このハーラングロー家ですが、あちこちに縁談を持ちかけていたようです。名家の姻戚となって、ハーラングロー家の家柄を上げることが目当てなんでしょう。それで、シュトラール家にも度々、縁談を持ちかけていたと」
「度々?」
「リヒト様だけでなく、ご弟妹へも、しつこく縁談を持ちかけていたようなんです」
しかもと、続けたナニーの眉間には、嫌悪感があらわに、深いシワが刻みこまれる。
「しかもですよ! リヒト様もご弟妹も、縁談のお相手は、養子だというじゃありませんか!」
「養子?」
「ハーラングロー家の子供たちは、長男以外、みんな養子なんだそうです。親類縁者から次々に養子を迎え入れては、そこそこの家と縁組させてるんですよ!」
徐々にヒートアップするナニー。
落ち着いてと、ホリーはお茶を差し出した。ナニーは、それを一気に飲み干し、ついでに茶菓子をバクバクっと平らげ、一息入れてから、またしゃべり始める。
「そりゃあ、貴族の子女となれるなら、喜んで自分の子供を養子に差し出す親の気持ちも、分からなくはないですが。それにしても、です!」
ナニーが吠えた。茶菓子では、彼女の怒りは鎮められなかったらしい。
「養女の一人は、父親ほど年の離れた子爵の愛人となって、そこから正妻を追い出し、自分が妻の座に収まったというじゃありませんか! それで妻になったら、やりたい放題の贅沢三昧。最初っから財産目当ての結婚だったんです! んまぁ、とんでもない腹黒一家です! リヒト様の家へ縁談を持ちかけていたのも、財産目当てかもしれませんよ! まぁまぁまぁまぁ!」
奇声をあげながら憤るナニーを、ホリーはなんとか落ち着かせ、充分に労った。
その後、一人になったホリーは、あれこれと考える。
十年後、ヴァイオラがホリーの前に現れた時、彼女はすでにハーラングロー家の娘だった。養女となった彼女もまた、ナニーが言うように財産目当てで、リヒトに近づいてきたのだろうか。
もし、そうだとしても……。
ホリーは、カップを手に取り、すっかり冷めたお茶を飲んだ。温かいうちは、それほど気にならなかった苦味が口の中に広がっていく。
それに顔をしかめながら、ホリーはため息をついた。
例え、ヴァイオラが財産目当てで、リヒトに近づいたのだとしても。
──彼女を受け入れたのは、リヒト。
自分の考えに、胸がきゅうと締めつけられる。
三十手前の中身が、どんなに結婚したくないと考えていても、十代の身体は違うらしい。
結婚を控えたこの時期は、夢と希望に満ちていた頃。つまり、今は人生で一番、リヒトが大大大大大好きだと言える。
『ホリー様は、本当に、この結婚を破談になさるおつもりで?』
今ここで、もう一度、聞かれても、ホリーは『はい』と答えるだろう。しかし、それを考えると、胸がとても苦しかった。
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