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★sideリヒト:好きな人が好きなもの
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リヒトは、自室で頭を抱えていた。
ホリーに婚約破棄の一件を考え直してもらうため、ありったけの思いを詰め込んで、手紙を書いた。そこへ贈り物を添えようと思ったのだが。何を贈ればいいのか、分からずに悩んでいるのだった。相談しようにも、レイは朝から出かけている。
一体、何を贈れば、ホリーは喜んでくれるだろう。
真っ先に、アクセサリーが浮かんだものの、リヒトは自ら首を振った。以前、プレゼントしたものは、一度も身につけているのを見たことがなかった。どうやら、ホリーの好みではなかったらしい。あるいは、あまりにも、センスが悪かったのかもしれない。
ドレス……も、ダメだ。先日、レイからダメ出しを食らったばかり。
だとしたら香水か、それとも靴か。
リヒトがうなっているところへ、
「どうした。腹でも痛いのか?」
レイがお茶のセットを携えて、部屋に入ってきた。ようやく出先から戻ったらしい。
リヒトは、一息つきながら、説明する。
「よくよく、考えてみれば、僕はホリーが好きなものをあまり知らない」
「だったら、何を知ってるんだ?」
「ホリーが好きなのは、クリームレトリバーのマックスとジェイク・スピーヤ……あとは、」
そういえば、ホリーは子供の頃から、甘いものが好きだった。ティータイムには、流行りのお菓子がリヒトに振る舞われるることもあった。
考え込んだリヒトの脳裏に、ある日のティータイムが思い出された。
「……そうだ、カヌレ!」
「カヌレ?」
リヒトは、こくんとうなずく。ホリーがフルフル風邪にかかる前、口にしたのだ。
「カヌレを食べてみたいと、言っていた!」
「無理だな。人気がありすぎて、今は入手困難だ」
「だったら……」
次にリヒトの脳裏に現れたのは、金塊を模した黄金色の焼き菓子。
「フリアン!」
今度こそ、贈り物は決まりだと、リヒトは思いかけていたが。
「で、どこの店のフリアンだ?」
レイのその一言に、ぽかんとした顔で、「え?」と聞き返す。
「有名な店が二つあるだろ。アンリーシャル菓子店と、パティスリー・パンテイエン。フリアン好きの間じゃ、このどちらかの派閥に分かれるらしいぞ」
「……いや、そこまでは分からない」
「お前、今まで何を見てたんだ」
「僕はホリーしか見てない!」
「本当にホリー様の顔に見とれてただけか?」
レイは、大げさなほど大きなため息をついて、「そうだな」つぶやくと、
「ホリー様の好みなら、お茶には砂糖が二つ。ミルクは入れない。スコーンは、クロテッドクリームを塗ってからジャムを塗る派。ジャムなら黒スグリよりもマーマレード。ドレスだったら、今、流行りのクリノリンよりも、伝統的なエンパイアスタイル。暖色系よりも寒色系がお好きだろ」
すらすら言ってみせた。
「お前。僕の知らないところで、いつ、ホリーとそんな話を」
リヒトはカッと目を見開き、レイに詰め寄ったが、グイッと額を押し返されてしまう。
「あのな、この程度、見てるだけでも分かるんだよ」
額をこづかれたところで、ぐうの音も出ない。
先日もレイには、ホリーの気持ちを考えてないと、言われたばかりで……。
リヒトはガクンと、うなだれた。
「つまり、僕はホリーのことが、何も見えてなかったってことだな」
これではホリーに婚約破棄を言い出されるのも、当然なのかもしれない。
「まぁ、これまでのことは仕方がない。問題はこれからだろ。お前の誠意が伝われば、ホリー様も思い直してくれるかもな」
「……誠意か」
リヒトはつぶやいて、棚の小さな木箱へ目を向けた。宝物を入れてある、まさに宝箱であった。それを見つめたまま、彫像のように固まっていたリヒトは、おもむろに立ち上がる。
「出かける。レイ、馬車の用意を」
「どこへ?」
「ナニーに会いに行く。彼女なら、ホリーのことは、何でも知ってるだろう? 話を聞いてくる」
すぐに出ようとしたリヒトだったが、「ちょっと待て」と、レイに引き止められた。
「ナニーに話を聞くのはいいと思うが、その前に、この書類の束は何だ?」
レイが指差したのは、テーブルの上。リヒトが三時間かけて書いた手紙だった。
「ホリーへの気持ちを、書き綴ったものだ」
七十八枚にも及ぶ大作である。本当はまだまだ書き足らないのだが、その前に、紙が尽きてしまった。
「あぁ、そうだ。出かけるついでに紙も買い足そう」
いいアイディアだと、内心、リヒトが自画自賛していると。
「待て待て待て! ナナ、ジュウ? 長えよ! 見ただけで読む気が失せるわ!」
書き直せと、一蹴されてしまった。
ホリーに婚約破棄の一件を考え直してもらうため、ありったけの思いを詰め込んで、手紙を書いた。そこへ贈り物を添えようと思ったのだが。何を贈ればいいのか、分からずに悩んでいるのだった。相談しようにも、レイは朝から出かけている。
一体、何を贈れば、ホリーは喜んでくれるだろう。
真っ先に、アクセサリーが浮かんだものの、リヒトは自ら首を振った。以前、プレゼントしたものは、一度も身につけているのを見たことがなかった。どうやら、ホリーの好みではなかったらしい。あるいは、あまりにも、センスが悪かったのかもしれない。
ドレス……も、ダメだ。先日、レイからダメ出しを食らったばかり。
だとしたら香水か、それとも靴か。
リヒトがうなっているところへ、
「どうした。腹でも痛いのか?」
レイがお茶のセットを携えて、部屋に入ってきた。ようやく出先から戻ったらしい。
リヒトは、一息つきながら、説明する。
「よくよく、考えてみれば、僕はホリーが好きなものをあまり知らない」
「だったら、何を知ってるんだ?」
「ホリーが好きなのは、クリームレトリバーのマックスとジェイク・スピーヤ……あとは、」
そういえば、ホリーは子供の頃から、甘いものが好きだった。ティータイムには、流行りのお菓子がリヒトに振る舞われるることもあった。
考え込んだリヒトの脳裏に、ある日のティータイムが思い出された。
「……そうだ、カヌレ!」
「カヌレ?」
リヒトは、こくんとうなずく。ホリーがフルフル風邪にかかる前、口にしたのだ。
「カヌレを食べてみたいと、言っていた!」
「無理だな。人気がありすぎて、今は入手困難だ」
「だったら……」
次にリヒトの脳裏に現れたのは、金塊を模した黄金色の焼き菓子。
「フリアン!」
今度こそ、贈り物は決まりだと、リヒトは思いかけていたが。
「で、どこの店のフリアンだ?」
レイのその一言に、ぽかんとした顔で、「え?」と聞き返す。
「有名な店が二つあるだろ。アンリーシャル菓子店と、パティスリー・パンテイエン。フリアン好きの間じゃ、このどちらかの派閥に分かれるらしいぞ」
「……いや、そこまでは分からない」
「お前、今まで何を見てたんだ」
「僕はホリーしか見てない!」
「本当にホリー様の顔に見とれてただけか?」
レイは、大げさなほど大きなため息をついて、「そうだな」つぶやくと、
「ホリー様の好みなら、お茶には砂糖が二つ。ミルクは入れない。スコーンは、クロテッドクリームを塗ってからジャムを塗る派。ジャムなら黒スグリよりもマーマレード。ドレスだったら、今、流行りのクリノリンよりも、伝統的なエンパイアスタイル。暖色系よりも寒色系がお好きだろ」
すらすら言ってみせた。
「お前。僕の知らないところで、いつ、ホリーとそんな話を」
リヒトはカッと目を見開き、レイに詰め寄ったが、グイッと額を押し返されてしまう。
「あのな、この程度、見てるだけでも分かるんだよ」
額をこづかれたところで、ぐうの音も出ない。
先日もレイには、ホリーの気持ちを考えてないと、言われたばかりで……。
リヒトはガクンと、うなだれた。
「つまり、僕はホリーのことが、何も見えてなかったってことだな」
これではホリーに婚約破棄を言い出されるのも、当然なのかもしれない。
「まぁ、これまでのことは仕方がない。問題はこれからだろ。お前の誠意が伝われば、ホリー様も思い直してくれるかもな」
「……誠意か」
リヒトはつぶやいて、棚の小さな木箱へ目を向けた。宝物を入れてある、まさに宝箱であった。それを見つめたまま、彫像のように固まっていたリヒトは、おもむろに立ち上がる。
「出かける。レイ、馬車の用意を」
「どこへ?」
「ナニーに会いに行く。彼女なら、ホリーのことは、何でも知ってるだろう? 話を聞いてくる」
すぐに出ようとしたリヒトだったが、「ちょっと待て」と、レイに引き止められた。
「ナニーに話を聞くのはいいと思うが、その前に、この書類の束は何だ?」
レイが指差したのは、テーブルの上。リヒトが三時間かけて書いた手紙だった。
「ホリーへの気持ちを、書き綴ったものだ」
七十八枚にも及ぶ大作である。本当はまだまだ書き足らないのだが、その前に、紙が尽きてしまった。
「あぁ、そうだ。出かけるついでに紙も買い足そう」
いいアイディアだと、内心、リヒトが自画自賛していると。
「待て待て待て! ナナ、ジュウ? 長えよ! 見ただけで読む気が失せるわ!」
書き直せと、一蹴されてしまった。
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