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2度目のサプライズ
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これからは我慢しない。
そう決めて、リヒトとやり直すことにしたホリー。しかしそれで、何もかもがうまく行くわけでもなかった。
不満も文句も疑問も、全部、言うようにしたら、ケンカが増えた。今までほとんど、ケンカなんてしなかったのに。些細なことで、ケンカになったりもした。ただ、ケンカしたからこそ、気づいたこともある。
我慢していたのは、自分だけではなかった。
リヒトも色々と我慢していたのだ。彼から言われて、初めて知ったことも多い。小さなことだけど、それで彼をもっと好きになることもあった。例えば、ホリーの前では平気な顔をしていたけど、ニンジンが大嫌いとか。
『子供っぽく見られるのが、嫌だったんだ』
その告白には、胸がキュンとした。
彼のことは何でも知っている。
ホリーはそう思っていた。その実、知ったつもりで何も知らなかった。そう思えば、結婚生活がうまく行かなかったのも当然かもしれない。
知ったつもりになって、知ろうともしなかったのだから。
我慢しないことで、ケンカは増えてしまった。けどケンカして仲直りする度、ホリーは二人の距離が縮まっていくように感じていた。前の時よりも、ずっと。
五月初旬。
結婚まで一ヶ月半となった、この日。
「ホリー、君に贈り物がある」
リヒトが手を後ろに隠しながら、言ってきた。
「何かしら?」
そう返しつつも、ホリーは薄々、感づいていた。リヒトの顔は、サプライズ感が満載で。そういえばと、思い出してしまったのだ。彼の手にあるのは、新しくできたガルミエ劇場の招待状だと。
「はい。開けてみて。ホリーが好きなものだ」
ホリーは表情に出ないよう、顔面を少しも動かさぬようこらえながら、封筒を受け取った。素早く中身を確認する。
中には、やはり、こけら落とし公演のチケットが入っていた。
「きゃぁああ! ジェイク・スピーヤの舞台ね! 信じられない! リヒト、ありがとう‼」
予想はついていたものの、実物を手にすれば、うれしさが爆発した。あの伝説となった、ガルミエ劇場での初演をもう一度、見ることができるのだから。
「あぁ、もう! 最高の気分だわ!」
チケットを高く掲げ、ピョンピョン飛び跳ねたホリー。そこへ「ウェッホン」と、おかしな咳払いが響いて。
「お嬢様。リヒト様の前で、はしたのうございますよ」
ナニーからたしなめられる。しかし、当のリヒトはといえば、声を立てて笑っていた。
「そんなに喜んでくれると、僕も贈ったかいがあるよ」
満面の笑みを浮かべ、うれしそうだ。そんなリヒトを見て、ホリーもまたうれしくなった。
──優雅に、おしとやかに。
淑女とは、そういうものだと教育された。ホリーもまた、立派なレディになるため、そうしてきた。
どんなにうれしいことも楽しい時も、リヒトの前でだってすましていた。大笑いしたいほど面白くても、うふふっと笑うだけ。口に出して伝えることもなかった。それでは、本当の気持ちが伝わるはずもない。
「本当は、屋敷中を走り回りたいくらい、うれしいわ!」
ホリーはつけ足した。
「あぁ、そうだわ! ドレスも新調しなくちゃ!」
ガルミエは他よりも格式の高い、王立の劇場。盛装するのがマナー。
どの店へ行こうか。どんなドレスにしようか。アクセリーは……。
ホリーがウキウキと頭の中で、予定を組んでいると。リヒトがいきなり、ホリーの手を掴んだ。
「だったら、今すぐに行こう!」
「え⁉ 今から?」
戸惑うホリーだったが、リヒトにグイグイ引っ張られて。
気がつけば、洋品店にいた。
そう決めて、リヒトとやり直すことにしたホリー。しかしそれで、何もかもがうまく行くわけでもなかった。
不満も文句も疑問も、全部、言うようにしたら、ケンカが増えた。今までほとんど、ケンカなんてしなかったのに。些細なことで、ケンカになったりもした。ただ、ケンカしたからこそ、気づいたこともある。
我慢していたのは、自分だけではなかった。
リヒトも色々と我慢していたのだ。彼から言われて、初めて知ったことも多い。小さなことだけど、それで彼をもっと好きになることもあった。例えば、ホリーの前では平気な顔をしていたけど、ニンジンが大嫌いとか。
『子供っぽく見られるのが、嫌だったんだ』
その告白には、胸がキュンとした。
彼のことは何でも知っている。
ホリーはそう思っていた。その実、知ったつもりで何も知らなかった。そう思えば、結婚生活がうまく行かなかったのも当然かもしれない。
知ったつもりになって、知ろうともしなかったのだから。
我慢しないことで、ケンカは増えてしまった。けどケンカして仲直りする度、ホリーは二人の距離が縮まっていくように感じていた。前の時よりも、ずっと。
五月初旬。
結婚まで一ヶ月半となった、この日。
「ホリー、君に贈り物がある」
リヒトが手を後ろに隠しながら、言ってきた。
「何かしら?」
そう返しつつも、ホリーは薄々、感づいていた。リヒトの顔は、サプライズ感が満載で。そういえばと、思い出してしまったのだ。彼の手にあるのは、新しくできたガルミエ劇場の招待状だと。
「はい。開けてみて。ホリーが好きなものだ」
ホリーは表情に出ないよう、顔面を少しも動かさぬようこらえながら、封筒を受け取った。素早く中身を確認する。
中には、やはり、こけら落とし公演のチケットが入っていた。
「きゃぁああ! ジェイク・スピーヤの舞台ね! 信じられない! リヒト、ありがとう‼」
予想はついていたものの、実物を手にすれば、うれしさが爆発した。あの伝説となった、ガルミエ劇場での初演をもう一度、見ることができるのだから。
「あぁ、もう! 最高の気分だわ!」
チケットを高く掲げ、ピョンピョン飛び跳ねたホリー。そこへ「ウェッホン」と、おかしな咳払いが響いて。
「お嬢様。リヒト様の前で、はしたのうございますよ」
ナニーからたしなめられる。しかし、当のリヒトはといえば、声を立てて笑っていた。
「そんなに喜んでくれると、僕も贈ったかいがあるよ」
満面の笑みを浮かべ、うれしそうだ。そんなリヒトを見て、ホリーもまたうれしくなった。
──優雅に、おしとやかに。
淑女とは、そういうものだと教育された。ホリーもまた、立派なレディになるため、そうしてきた。
どんなにうれしいことも楽しい時も、リヒトの前でだってすましていた。大笑いしたいほど面白くても、うふふっと笑うだけ。口に出して伝えることもなかった。それでは、本当の気持ちが伝わるはずもない。
「本当は、屋敷中を走り回りたいくらい、うれしいわ!」
ホリーはつけ足した。
「あぁ、そうだわ! ドレスも新調しなくちゃ!」
ガルミエは他よりも格式の高い、王立の劇場。盛装するのがマナー。
どの店へ行こうか。どんなドレスにしようか。アクセリーは……。
ホリーがウキウキと頭の中で、予定を組んでいると。リヒトがいきなり、ホリーの手を掴んだ。
「だったら、今すぐに行こう!」
「え⁉ 今から?」
戸惑うホリーだったが、リヒトにグイグイ引っ張られて。
気がつけば、洋品店にいた。
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