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大好きが生んだ誤解
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「ホリー。こういうのは?」
リヒトがホリーのところへ、ドレスを持ってきた。
彼が自分の服を見立ててくれるなんて。こんなことは、前の時には一度だってなかった。
ただ、リヒトが持ってきたのは、フリフリヒラヒラのワンピース。ホリーはこういうデザインを、ほとんど着ないのだが。
「似合うと思う」
リヒトにそう言われれば、まんざらでもない気持ちになる。
鏡の前、体に当ててみたところで。不意に、彼女の姿が脳裏に浮かんできた。
そういえば、あの時……。
特別公演に行くと、はしゃいでいたヴァイオラが、似たようなものを着ていた。
「リヒトは、こういう服が好きなの?」
ホリーが尋ねると、リヒトは返事に困ったように少しはにかんだ。そのあとで「うん」と答える。
「子供の頃、ホリーがよく着ていたからかな。ひらひらして、かわいいなと思う。もちろん、今、ホリーがこういう服を好まないのは知ってるけど」
「嫌いってわけじゃないんだけど。何だか、子供っぽく見えるかと思って、着なくなったの」
「ホリーは、何を着ても似合う」
そういうことじゃない。ホリーは苦笑とともに、リヒトを見上げた。
……あんなにチビだったのに。
リヒトの身長はぐんぐん伸びて、あっという間にホリーを追い越してしまった。それとともに、顔つきも男らしくなって、ホリーは少し焦った。
立派なレディにならなければ、と。自分が好きなものよりも、シックで落ち着いた装いを求めた。
見た目でもリヒトに釣り合うように。
「そうねぇ」
ホリーは改めて店内を見回り、一着、手に取った。ライトブルーの自分好みのドレス。それでいて胸元にはフリルがあって、子供っぽくないデザインのもの。
「これは、どう?」
ホリーはリヒトの前で、体に服をあてがった。
「うん。きれいだ。ホリーの美しさが引き立つ」
「お世辞はいいから、正直に言って」
そういう約束と、ホリーはリヒトを軽くにらみつけた。
「本当にそう思ってる。ホリーは立派なレディで、だから、」
「だから?」
「僕は、どうあがいても年下だから、せめて紳士らしく、ホリーに見合うように、僕も努力しているところで……」
まさか、リヒトも自分と同じことを思っていたなんて。ホリーは思わず笑っていた。
「どうして、そこで笑うんだよ」
ちょっとすねた顔のリヒトに、ホリーもまた正直に話す。フリフリの服を着なくなった訳を。それから、これもまた正直な気持ちを口にする。
「リヒトも素敵な紳士になった。とっても、かっこ……きゃぁ!」
言い終わらないうちにホリーは、リヒトに抱きしめられていた。
「リヒト。人がいる前では、」
「誰も見てない」
言われて、ホリーは気がついた。今までいたはずの女主人が、姿を消していた。
さらに、
「ホリーが褒めてくれたから、うれしいんだ。少しだけ、抱きしめさせて」
耳元でささやかれて、ホリーは観念する。
「……少しだけよ」
ホリーが、バカップルという言葉を知るのは、もう少し、あとのこと。
そして、観劇当日。
ホリーは目一杯、おしゃれをした。
アップにした髪には、銀細工の髪飾りを。ライトブルーのドレスには、サファイアのアクセサリーを合わせる。このネックレスとイヤリングとブローチのセットは、大切にしまってあったものだ。
やがて時間になって、リヒトが迎えに来てきてくれた。テイルコートに銀のウエストコート、白のタイ。いつもはおろしている前髪を上げて。その、いつもとは違う装いに、ホリーはつかの間、見とれてしまう。
「お嬢様」
ナニーに背中を押され、ようやく、ホリーはリヒトの元へ歩いていった。
「ホリー! 今日は一段ときれいだ」
手袋に包まれたホリーの指先に、キスを落として、それから、ぱちくりと瞬いた。
「……あれ、そのアクセサリーのセット」
「リヒトが社交界デビューのお祝いに、贈ってくれたものよ」
気づいてくれたことに、ホリーはうれしくなったが。リヒトの方は、いまいちパッとしない表情で。
「でも、ホリーは気に入らなかったんじゃないのか?」
なんて言うのだった。
ホリーは、とんでもないと、すぐさま首を振る。
「その逆。大切な物だから、気軽にはつけられなかったの。落としでもしたら大変でしょう? 私、よく、物をなくすし」
「てっきり、僕のセンスが悪くて、気に入らなかったんだと思ってた。なんだ、僕の勘違いか」
ほっとした顔のリヒトに、ホリーは再び首を振った。
「……リヒトに勘違いをさせたのは、私だわ」
大事なものだから、とっておきの場面で身に着けよう。そう思いつつ、結局、大事にしすぎて、今日までしまい込んでいた。
それがまさか、真逆のことに思われていたなんて。
つまり……。
一度もつけなかった一度目の世界では、リヒトは誤解したままだったという訳だ。あちらのリヒトは、ホリーがこっそり眺めてはニヤニヤしていたことなど、知らないだろう。
「ごめんなさい」
謝ったホリーに、リヒトもまた首を振る。
「気になりながら、尋ねなかった僕も悪い」
誤解がとけたところで、二人は馬車に乗り、劇場に向かった。
リヒトがホリーのところへ、ドレスを持ってきた。
彼が自分の服を見立ててくれるなんて。こんなことは、前の時には一度だってなかった。
ただ、リヒトが持ってきたのは、フリフリヒラヒラのワンピース。ホリーはこういうデザインを、ほとんど着ないのだが。
「似合うと思う」
リヒトにそう言われれば、まんざらでもない気持ちになる。
鏡の前、体に当ててみたところで。不意に、彼女の姿が脳裏に浮かんできた。
そういえば、あの時……。
特別公演に行くと、はしゃいでいたヴァイオラが、似たようなものを着ていた。
「リヒトは、こういう服が好きなの?」
ホリーが尋ねると、リヒトは返事に困ったように少しはにかんだ。そのあとで「うん」と答える。
「子供の頃、ホリーがよく着ていたからかな。ひらひらして、かわいいなと思う。もちろん、今、ホリーがこういう服を好まないのは知ってるけど」
「嫌いってわけじゃないんだけど。何だか、子供っぽく見えるかと思って、着なくなったの」
「ホリーは、何を着ても似合う」
そういうことじゃない。ホリーは苦笑とともに、リヒトを見上げた。
……あんなにチビだったのに。
リヒトの身長はぐんぐん伸びて、あっという間にホリーを追い越してしまった。それとともに、顔つきも男らしくなって、ホリーは少し焦った。
立派なレディにならなければ、と。自分が好きなものよりも、シックで落ち着いた装いを求めた。
見た目でもリヒトに釣り合うように。
「そうねぇ」
ホリーは改めて店内を見回り、一着、手に取った。ライトブルーの自分好みのドレス。それでいて胸元にはフリルがあって、子供っぽくないデザインのもの。
「これは、どう?」
ホリーはリヒトの前で、体に服をあてがった。
「うん。きれいだ。ホリーの美しさが引き立つ」
「お世辞はいいから、正直に言って」
そういう約束と、ホリーはリヒトを軽くにらみつけた。
「本当にそう思ってる。ホリーは立派なレディで、だから、」
「だから?」
「僕は、どうあがいても年下だから、せめて紳士らしく、ホリーに見合うように、僕も努力しているところで……」
まさか、リヒトも自分と同じことを思っていたなんて。ホリーは思わず笑っていた。
「どうして、そこで笑うんだよ」
ちょっとすねた顔のリヒトに、ホリーもまた正直に話す。フリフリの服を着なくなった訳を。それから、これもまた正直な気持ちを口にする。
「リヒトも素敵な紳士になった。とっても、かっこ……きゃぁ!」
言い終わらないうちにホリーは、リヒトに抱きしめられていた。
「リヒト。人がいる前では、」
「誰も見てない」
言われて、ホリーは気がついた。今までいたはずの女主人が、姿を消していた。
さらに、
「ホリーが褒めてくれたから、うれしいんだ。少しだけ、抱きしめさせて」
耳元でささやかれて、ホリーは観念する。
「……少しだけよ」
ホリーが、バカップルという言葉を知るのは、もう少し、あとのこと。
そして、観劇当日。
ホリーは目一杯、おしゃれをした。
アップにした髪には、銀細工の髪飾りを。ライトブルーのドレスには、サファイアのアクセサリーを合わせる。このネックレスとイヤリングとブローチのセットは、大切にしまってあったものだ。
やがて時間になって、リヒトが迎えに来てきてくれた。テイルコートに銀のウエストコート、白のタイ。いつもはおろしている前髪を上げて。その、いつもとは違う装いに、ホリーはつかの間、見とれてしまう。
「お嬢様」
ナニーに背中を押され、ようやく、ホリーはリヒトの元へ歩いていった。
「ホリー! 今日は一段ときれいだ」
手袋に包まれたホリーの指先に、キスを落として、それから、ぱちくりと瞬いた。
「……あれ、そのアクセサリーのセット」
「リヒトが社交界デビューのお祝いに、贈ってくれたものよ」
気づいてくれたことに、ホリーはうれしくなったが。リヒトの方は、いまいちパッとしない表情で。
「でも、ホリーは気に入らなかったんじゃないのか?」
なんて言うのだった。
ホリーは、とんでもないと、すぐさま首を振る。
「その逆。大切な物だから、気軽にはつけられなかったの。落としでもしたら大変でしょう? 私、よく、物をなくすし」
「てっきり、僕のセンスが悪くて、気に入らなかったんだと思ってた。なんだ、僕の勘違いか」
ほっとした顔のリヒトに、ホリーは再び首を振った。
「……リヒトに勘違いをさせたのは、私だわ」
大事なものだから、とっておきの場面で身に着けよう。そう思いつつ、結局、大事にしすぎて、今日までしまい込んでいた。
それがまさか、真逆のことに思われていたなんて。
つまり……。
一度もつけなかった一度目の世界では、リヒトは誤解したままだったという訳だ。あちらのリヒトは、ホリーがこっそり眺めてはニヤニヤしていたことなど、知らないだろう。
「ごめんなさい」
謝ったホリーに、リヒトもまた首を振る。
「気になりながら、尋ねなかった僕も悪い」
誤解がとけたところで、二人は馬車に乗り、劇場に向かった。
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