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メイド長を探せ1
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翌日、レイが一人で屋敷に来た。彼には、リヒトには内緒で調べたいと伝えてある。
「こちらが、結婚後、お二人の新居で、新しく雇うことになっている使用人の名簿の写しです」
差し出された名簿に、ホリーはさっと目を通す。デボラの名前はなかった。
「念のため、もう一度、調べてみたんですが、気になる人物がいました」
レイが一覧から「彼女です」と、その名前を指差した。
メアリー・メドー。
彼女の名前は、微かにホリーの記憶にも残っていた。
結婚してすぐのこと。よからぬ経歴を隠していたとして、辞めさせられた人物がいた。そのメイドの名前が、確かメアリーだったはずだ。
「彼女は、メイ協からの応募組なんですが」
「メイキョー?」
「メイド派遣協会です」
自分の知らない組織が色々あるものだ。ホリーうなずいて「それで」と、話を促す。
「三ヶ月前までハーラングロー家で働いていて、しかも、『旦那様のお手つき』なんて噂があったようです。どういたしましょう?」
ホリーは、名簿から顔を上げた。
もしも、このメアリーがハーラングロー家の関係者なら、デボラへの手がかりとなるかもしれない。
「彼女は今、どこかで働いているの? 彼女に会うことはできるかしら?」
「調べて参ります。しばし、お時間を」
お願いねと、ホリーが見送ってから一時間。レイが戻ってきた。
「随分と早いのね」
「ええ、全執協の力をお借りしました」
「ゼンシッキョー?」
「全こ、」
レイが答えようとしたのを、ホリーは「ちょっと待って」と、止める。
「全、執、協、つまり、全国執事協会ね⁉」
答えたホリーに、レイは「惜しい」と、笑う。
「正解は、全国執事協同組合です」
ちなみにと、ホリーは興味本位で尋ねてみた。
「王都乳母組合は、何と言うの?」
「王乳組ですね」
「そう」
自分が知らないことは、まだまだあるようだ。ホリーは、レイに話の続きを促した。
「メアリー・メドーは現在、グェンカーク伯爵夫人の所で働いているようです」
「まぁ」
この王都で、彼女の名前を知らない者はいないだろう。
グェンカーク夫人といえば、伝説の家庭教師である。
どんなにじゃじゃ馬な娘でも、立派なレディにしてみせる。一方、その教育は、それはそれは、厳格だと言われ、年頃の娘たちからは恐れられていた。もちろん、ホリーもその一人。
「夫人は、確か、二年ほど前にご主人が急逝して……」
「それをきっかけに家庭教師を辞め、今は郊外の邸宅で、静かに暮らしてらっしゃると。使用人もごく少数、メイドは彼女だけのようです」
幸い、夫人とは何度か顔を合わせている。ホリーはレイを伴い訪ねた。
突然の訪問にも関わらず、夫人は二人をもてなしてくれた。あいにく、メアリーは買い物に出ているとのこと。その間に、メアリーのことを尋ねてみると、夫人の評価は上々だった。
事実、彼女の仕事ぶりは、家の中を見れば分かった。部屋はこざっぱりとして、きれいに整えられている。
そんな彼女をなぜ手放すのかと問えば、夫人は田舎に引っ越すのだと答えた。
「あの子は若いけれど、とても優秀よ。だから手放すの。あの子にとっても、それが一番でしょう? 田舎で、偏屈ババァと暮らすよりはね」
夫人はそう言って、ほほほっと笑った。
しばらくして、メアリーが帰ってきた。
年はホリーと同じくらいだろうか。少しつり上がった猫のような目に、ホリーは気が強そうな印象を持った。
「あなたに話があるそうよ」
夫人は最低限の説明をして、部屋を出ていった。
「あなたたち、誰?」
「私は、レイ・ユージーン。シュトラール家からの遣いで、この度の使用人雇用の件で、身元の調査をしています」
レイがまずは自己紹介をして、ホリーへと手のひらを向ける。
「こちらは、ホリー。同じく調査を」
「それはご苦労さま。それで、あなたたちが聞きたいのは、ハーラングロー男爵についての話かしら?」
メアリーの顔に、冷ややかな笑みが浮かぶ。それでいて、その眼差しは、にらみつけるように鋭い。
それに負けないよう、ホリーも正面から彼女を見つめて、問いかける。
「三ヶ月前まで、ハーラングロー男爵のところで働いていたのよね」
「えぇ。お給金は、あんまりだったけどね。かと言って、いい家は、あたしみたいな田舎者を雇ってくれないから」
「単刀直入に聞くけど、男爵のお手つきという噂は本当?」
「でまかせよ。これは言ってみれば、報復なの」
「報復?」
「メイドにもランクがあって、」
「知ってるわ。レディースメイドに、ハウスメイド、キッチン、」
口を挟んだホリーに、メアリーは「そうじゃない」と首を振る。
「生まれによるランクよ。私は、ど田舎の貧しい農家の娘でね、言ってみれば最下層。それがいきなりレディースメイドに抜擢されて、他のメイドたちは面白くなかったみたい。特に、次は自分がレディースメイドになれると思っていた先輩たちにはね」
「それで、あなたに報復を」
メアリーは、小さくうなずく。
「さんざん嫌がらせされて、自分からやめるように仕向けられて、最後にはデマまで流された。『旦那様のお手つき』なんてレッテルをはられたメイドは、他のところではそうそう雇ってくれないの」
「つまり、肉体関係はなかったということですか?」
改めて尋ねたレイを、メアリーがギロリとにらみつける。
「しつこいな、当ったり前じゃろが!」
いきなり飛び出た方言に、ホリーはレイと目を丸くした。一方のメアリーは、絶え間なくしゃべり続ける。
「そもそも、誰が、あんなケチケチ豚野郎に抱かれるか! 相手がイケメンなら、まだ考えんこともないがの! 大金積まれたってなぁ、指一本たりともお断りじゃあ!」
最後に一際大きく叫んだメアリーは、すぐさま、はっと目を見開いた。握り締めていた拳をゆっくりと下ろすと、小さく咳払いをして。
「……まぁ、そういうことです」
すっと、元の態度に戻る。
「こちらが、結婚後、お二人の新居で、新しく雇うことになっている使用人の名簿の写しです」
差し出された名簿に、ホリーはさっと目を通す。デボラの名前はなかった。
「念のため、もう一度、調べてみたんですが、気になる人物がいました」
レイが一覧から「彼女です」と、その名前を指差した。
メアリー・メドー。
彼女の名前は、微かにホリーの記憶にも残っていた。
結婚してすぐのこと。よからぬ経歴を隠していたとして、辞めさせられた人物がいた。そのメイドの名前が、確かメアリーだったはずだ。
「彼女は、メイ協からの応募組なんですが」
「メイキョー?」
「メイド派遣協会です」
自分の知らない組織が色々あるものだ。ホリーうなずいて「それで」と、話を促す。
「三ヶ月前までハーラングロー家で働いていて、しかも、『旦那様のお手つき』なんて噂があったようです。どういたしましょう?」
ホリーは、名簿から顔を上げた。
もしも、このメアリーがハーラングロー家の関係者なら、デボラへの手がかりとなるかもしれない。
「彼女は今、どこかで働いているの? 彼女に会うことはできるかしら?」
「調べて参ります。しばし、お時間を」
お願いねと、ホリーが見送ってから一時間。レイが戻ってきた。
「随分と早いのね」
「ええ、全執協の力をお借りしました」
「ゼンシッキョー?」
「全こ、」
レイが答えようとしたのを、ホリーは「ちょっと待って」と、止める。
「全、執、協、つまり、全国執事協会ね⁉」
答えたホリーに、レイは「惜しい」と、笑う。
「正解は、全国執事協同組合です」
ちなみにと、ホリーは興味本位で尋ねてみた。
「王都乳母組合は、何と言うの?」
「王乳組ですね」
「そう」
自分が知らないことは、まだまだあるようだ。ホリーは、レイに話の続きを促した。
「メアリー・メドーは現在、グェンカーク伯爵夫人の所で働いているようです」
「まぁ」
この王都で、彼女の名前を知らない者はいないだろう。
グェンカーク夫人といえば、伝説の家庭教師である。
どんなにじゃじゃ馬な娘でも、立派なレディにしてみせる。一方、その教育は、それはそれは、厳格だと言われ、年頃の娘たちからは恐れられていた。もちろん、ホリーもその一人。
「夫人は、確か、二年ほど前にご主人が急逝して……」
「それをきっかけに家庭教師を辞め、今は郊外の邸宅で、静かに暮らしてらっしゃると。使用人もごく少数、メイドは彼女だけのようです」
幸い、夫人とは何度か顔を合わせている。ホリーはレイを伴い訪ねた。
突然の訪問にも関わらず、夫人は二人をもてなしてくれた。あいにく、メアリーは買い物に出ているとのこと。その間に、メアリーのことを尋ねてみると、夫人の評価は上々だった。
事実、彼女の仕事ぶりは、家の中を見れば分かった。部屋はこざっぱりとして、きれいに整えられている。
そんな彼女をなぜ手放すのかと問えば、夫人は田舎に引っ越すのだと答えた。
「あの子は若いけれど、とても優秀よ。だから手放すの。あの子にとっても、それが一番でしょう? 田舎で、偏屈ババァと暮らすよりはね」
夫人はそう言って、ほほほっと笑った。
しばらくして、メアリーが帰ってきた。
年はホリーと同じくらいだろうか。少しつり上がった猫のような目に、ホリーは気が強そうな印象を持った。
「あなたに話があるそうよ」
夫人は最低限の説明をして、部屋を出ていった。
「あなたたち、誰?」
「私は、レイ・ユージーン。シュトラール家からの遣いで、この度の使用人雇用の件で、身元の調査をしています」
レイがまずは自己紹介をして、ホリーへと手のひらを向ける。
「こちらは、ホリー。同じく調査を」
「それはご苦労さま。それで、あなたたちが聞きたいのは、ハーラングロー男爵についての話かしら?」
メアリーの顔に、冷ややかな笑みが浮かぶ。それでいて、その眼差しは、にらみつけるように鋭い。
それに負けないよう、ホリーも正面から彼女を見つめて、問いかける。
「三ヶ月前まで、ハーラングロー男爵のところで働いていたのよね」
「えぇ。お給金は、あんまりだったけどね。かと言って、いい家は、あたしみたいな田舎者を雇ってくれないから」
「単刀直入に聞くけど、男爵のお手つきという噂は本当?」
「でまかせよ。これは言ってみれば、報復なの」
「報復?」
「メイドにもランクがあって、」
「知ってるわ。レディースメイドに、ハウスメイド、キッチン、」
口を挟んだホリーに、メアリーは「そうじゃない」と首を振る。
「生まれによるランクよ。私は、ど田舎の貧しい農家の娘でね、言ってみれば最下層。それがいきなりレディースメイドに抜擢されて、他のメイドたちは面白くなかったみたい。特に、次は自分がレディースメイドになれると思っていた先輩たちにはね」
「それで、あなたに報復を」
メアリーは、小さくうなずく。
「さんざん嫌がらせされて、自分からやめるように仕向けられて、最後にはデマまで流された。『旦那様のお手つき』なんてレッテルをはられたメイドは、他のところではそうそう雇ってくれないの」
「つまり、肉体関係はなかったということですか?」
改めて尋ねたレイを、メアリーがギロリとにらみつける。
「しつこいな、当ったり前じゃろが!」
いきなり飛び出た方言に、ホリーはレイと目を丸くした。一方のメアリーは、絶え間なくしゃべり続ける。
「そもそも、誰が、あんなケチケチ豚野郎に抱かれるか! 相手がイケメンなら、まだ考えんこともないがの! 大金積まれたってなぁ、指一本たりともお断りじゃあ!」
最後に一際大きく叫んだメアリーは、すぐさま、はっと目を見開いた。握り締めていた拳をゆっくりと下ろすと、小さく咳払いをして。
「……まぁ、そういうことです」
すっと、元の態度に戻る。
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