死に戻ったら冷淡だった夫が離れてくれないので今度こそ幸せになるためやり直します

倉桐ぱきぽ

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とあるメイドによる逆恨み事件

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 この日、ホリーはリヒトとともに、ポローニアの屋敷を訪れることになっていた。
 その前に、二人は手土産を買うため、数多くの店が立ち並ぶエリアを訪れた。

 先日、ポローニアから大瓶の蜂蜜酒が届いた。夫婦で飲むと子宝に恵まれると言われ、結婚の祝いには定番の代物だ。
 思えば、小さな頃からポローニアにはかわいがってもらったのに。一度目など、結婚した後は、顔を合わせることもなく、すっかり不義理をしていた。

 結婚を間近に控え、ホリーは幸せについてよく考える。
 リヒトがいれば、それだけで幸せなのか。
 前回、孤立したのは、他の人々をないがしろにしていたからじゃないのか。
 自分の家族はもとより、リヒトの家族や使用人たちだって、大事にしなくてはならなかったのでないか。
 
 せっかくやり直せるのだから、目指すは大大大大ハッピーエンド。とことん、やり直さなくては。
 そんなふうに思い直していた。

 それで、今回の訪問も、ホリーから言い出したのだった。
 ポローニアが毎晩飲むというワインとチーズ、それにお気に入りのお菓子。あれもこれもと買っているうち、大荷物となっていた。

「行こうか、ホリー」

 そろそろ迎えの馬車が来る時間。そのままピックアップしてもらって、ポローニアの家へ向かうことになっている。

「そうね」

 一旦はうなずいたホリーだったが、ふと、この近くにある店のことを思い出した。急いで買い物すれば、数分で戻って来れるはず。

「リヒト、少し待っていて。ポローニア様へ、もう一つ、お土産を買ってくるわ」

 言いながら、ホリーは店へと歩き出す。大通りから、脇道へ入って少し行った先。目当ての店を見つけ、ホリーは缶に入った飴を買った。蜂蜜を使って作られたグリゼット飴は、美容にも健康にもいいとされている。

 欲しかったものを手に入れ、急いでホリーは戻った。大通りへと出る、その少し手前。

 見知った顔が、ホリーの前を右から左へと横切って行った。髪はボサボサで、顔はやつれ、ホリーが知っているよりも、かなり若い。けれど、間違いはなかった。

 デボラだ。

 彼女の名前が頭に浮かんだ直後。今度はナニーの話が、ふっと、頭をよぎる。
 デボラは働いていた屋敷で何やら大きな失敗をして、そこにリヒトが関わっていたとか。
 なんだか、不安になって、ホリーはあとを追った。何より彼女が歩いていった方に、リヒトが待っている。

 往来は人々でにぎわっていた。
 デボラしか見ていなかったホリーは、すれ違いざま老婦人にぶつかってしまった。ホリーは慌てて謝罪する。

 その間にも、デボラは歩いて行く。リヒトに気づいているのか、いないのか。ずんずん、ずんずん歩いて行く。そのスピードは変わらない。

 何事もなく通り過ぎるのかと思った、その時。
 デボラがリヒトを振り向いた。そこでリヒトも気づいたらしい。驚いた顔になる。
 その後方から、車道を馬車が走ってくる。
 デボラが両手を胸の高さまで持ち上げ、その両手を……。
 
「やめてぇーーーー!」

 デボラがリヒトを突き飛ばしたのと同時。ホリーは叫んで、持っていた紙袋を馬車に向かって投げつけていた。ホリーの腕力では、馬車までは届かなかったけど。
 結果的に、御者が倒れたリヒトに気づいて、とっさに馬を操り、事なきを得た。
 往来の人々に助けられ、リヒトが体を起こす。そこへホリーは抱きついた。

「リヒト!」

 デボラの方も、通りすがりの男性に取り押さえられていた。

「あ~はっはっ!」

 笑い声が辺りに響く。デボラは、ひどく歪んだ顔で笑っていた。

 その後、駆けつけた憲兵によって、デボラは連行された。ホリーとリヒトも聴取に応じ、ポローニアにところへは日を改めることになった。

 デボラは屋敷をやめさせられたのを、リヒトのせいだと逆恨みして、衝動的に殺そうとしたらしい。
 やはり、デボラが怒らせたお客様というのは、リヒトだったのだ。

 往来のど真ん中で、一介のメイドが侯爵家の御曹司を殺そうとした衝撃的な事件は、世間を大いに賑わせた。彼女の父であるハーラングロー男爵も矢面に立たされ、それは彼の商売にも多大なる影響を及ぼした。


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