死に戻ったら冷淡だった夫が離れてくれないので今度こそ幸せになるためやり直します

倉桐ぱきぽ

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新居の下見へ行こう

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 昼食のあと、約束していたリヒトが屋敷が来た。

「ホリーを連れて行きたいところがある」
「どこに?」

 ホリーは尋ねた。
 何かあっただろうか。
 新居の下見は、結婚式の数日前のばす。そう思っていたら、リヒトの答えは、そのまさかだった。

 二人の新居となるのは、リヒトの祖母、ポローニアが暮らしていた屋敷だ。ポローニアは、二人の結婚を前に、郊外へと引っ越していた。

 屋敷は山の手の、少し高台にある。馬車で向かう、その道中。
 ホリーは、先ほどナニーから聞いた話を尋ねてみようかと思う。屋敷を出る際も、ナニーが『聞いてみてください』と言わんばかりに、しきりにウィンクを送ってきた。

 ホリーも決して、気にならない訳じゃない。話を聞いてみたい気持ちもある。
 もしナニーの推測通り、デボラが粗相をした大事なお客様がリヒトだとするなら。いつ、あのお宅へ行ったのかとか。どういう状況で、デボラに粗相をされることになったのかとか。
 ホリーも色々と知りたい。その一方で。

 ──何でもかんでも聞き出すことが、必ずしも正しいわけではない。

 劇場で、リヒトにサプライズを暴露させてしまった時、反省したことだった。
 どうしようかと、ホリーが悩んでいると。不意にリヒトが振り向いて。

「何か用?」

 悩んでいるうちに、リヒトの顔をじっと見つめていたらしい。

「何でもない」

 ホリーは首を振る。
 大切なことなら、リヒトから話してくれるだろう。

「キスして欲しいのかと思った」
「そんなわけないでしょう」
「誰も見てないよ?」

 確かに、馬車の中は二人っきりで。

「してもいい?」

 なんて、甘い声で迫られると、ホリーも嫌とは言えなかった。



 三十分ほどして、見慣れた屋敷についた。
 ホリーにとっては、十年もの間、鬱々と過ごした場所。それも今は状況が違うからだろうか、懐かしく思えた。

「さあ、行こう」

 リヒトに続いて、ホリーは屋敷に入った。
 もちろん、下見などしなくても、屋敷の中がどんな様子なのかは知っていた。しかし、実際、エントランスホールに足を踏み入れると。ホリーの頭の中にあった光景とは、違っていた。そこに並んでいたのは、見たことのない調度品ばかり。
 
「もしかして、ポローニア様が使われていた家具?」
「あぁ。おばあ様には気に入らなければ、処分しろと言われている。それで、新しいものに入れ替えるか、悩んでいるんだ。ただ、いい品であることは間違いないし、あとは好みの問題なんだけど……ホリーの意見を聞いてみたくて。どう思う?」

 一度目の時は、リヒトに全部、任せていた。彼もまた、ホリーに意見を求めることなんてなかった。

「そうねぇ……」

 ホリーは、エントランスを見回した。
 使い込まれて飴色になった花瓶台。同じく、色の変わった猫脚のイス。細かい装飾の入ったロウソク立て。少し古めかしくはあるけれど、大切に使われてきたらしく、大きな傷もない。

「どれも素敵。できれば、このまま使わせてもらいたいわ」
「じゃあ、そうしよう」

 ホリーは、リヒトに促され歩き出した。指先が触れて、どちらからともなく手をつなぐ。いつの間にか、二人でいる時には、自然とそうなっていた。
 一階、二階と順番に見て回り、次に案内されたのは。

「ここが僕たちの部屋だ」

 十年後では、リヒトが自室として使っていた三階の部屋だった。

「家具は、これから揃えるところなんだけど」

 リヒトの言った通り、この部屋はまだガランとしていた。一度目の時、二人の間にしこりを残りた、例の宝箱もない。

「僕に任せてもらってもいいかな?」

 一度目の時とは、色々と変わってきている中で、ここだけは同じ。リヒトには何かこだわりがあるのかもしれない。
 ホリーはうなずいて「楽しみだわ」と、答えた。

 二人は並んで、窓の外の景色を眺める。

「今度、親戚の知り合いの知り合いの親戚のところで、クリームレトリバーの子犬が生まれるらしい。一匹、譲ってもらおうかと思ってる。結婚したら、僕とホリーとクリームレトリバーと、一緒に暮らしたい」
「あ、」

 そこで、記憶の海から、ぷかりと小さな思い出が浮かんできた。

 あれは、まだまだ子供で、簡単に『大好き』を無限に連発できた頃の約束。
 リヒトと遊んでいて、いつの間にか、二人の結婚の話になって。
 ホリーは夢を語った。
 
『大きいお家に、広いお庭があって、お花がいっぱいあって、もちろん、マックスも一緒!』

「覚えていてくれたのね」
「あの日から、ホリーの夢は、僕の夢にもなったんだよ」
「ありがとう、リヒト」

 ホリーは、少し背伸びをして、軽くキスをした。


 一通り見終わって、屋敷から出ると、庭師の親方が作業をしていた。シュトラール家で働く彼とは、ホリーも面識があった。
 花の盛りを過ぎたムスカリを、掘り上げるようだ。

「植え替えるのか?」

 リヒトが声をかける。

「えぇ。先日、大奥様がいらっしゃいまして、植え替えるようにと」
「おばあ様が?」
「このムスカリは、大奥様がお好きで植えていたんですがね、何でも新婚夫婦には似つかわしくない、悪い花言葉があるんだそうで」
「花言葉?」
「はい。『失意』と『絶望』なんだとか」

 その言葉を聞いて、リヒトも「それはだめだ!」と、声を荒げる。

「そんな不吉な花、全部、引っこ抜いてくれ!」

 リヒトが言うのを、ホリーは「待って」と、止める。リヒトと庭師が、同時に振り向いた。

「ホリー?」
「おや。もしかして、ホリー様もムスカリがお好きでしたか?」
「大好きというわけじゃないんだけど、」

 答えて、ホリーは青い花へと目を向ける。
 あの日もムスカリが咲いていた。
 リヒトがヴァイオラと出かけて行くのを、ただ見ているしかなかった、あの日。夢見るばかり、嘆くばかりで、何の努力もしなかった日々。
 そんな自分への戒めとしたい。

「半分、残しておいてくれる? それで、もう半分は鉢に植え替えて、ポローニア様の所へ持って行ってほしいのだけど、ご迷惑に思われるかしら?」
「大奥様なら、お喜びになられると思いますよ」
「では、そうしてくれる?」
「それじゃあ、空いたところには、せっかくなんで、ホリー様のお好きな花を植えましょうか?」

 庭師の提案に、ぱっと思い浮かんだのは、前にリヒトからもらった桃色のチューリップ。

「チューリップとか、かわいらしいと思うけど、もう、時期は過ぎてるし」
「いや、ホリーがお好きでしたら、時期になったら球根を植えますよ。それまで、ここは空けておきましょう」
「じゃあ、その時は私も手伝うわ」

 約束をして、屋敷を出た。


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