死に戻ったら冷淡だった夫が離れてくれないので今度こそ幸せになるためやり直します

倉桐ぱきぽ

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『ざまぁみやがれ』

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 ホリーは、朝から片付けに追われていた。
 部屋には大小の箱が、山のように高く積まれている。その全てが、昨日、母のグリシーヌから届いた物だった。

 昨日は、ホリーにとって待ちに待った一日だった。
 ジェイク・スピーヤの新刊が出たのである。
 うきうきと出かけた先で、偶然にも、メアリーと遭遇。彼女は、夫人から話を聞いて、ホリーの素性を知っていたのだが。思いがけず、互いにジェイク・スピーヤのファンだと知り、話が弾んでしまった。
 そうして、帰って来たら、部屋がこの有様となっていたのだった。

 ホリーは、一つ一つ、箱を開けて、中身を確かめる。中に入っていたのは、フリルのついた真新しい下着だった。
 箱の中身は下着の他に、カバーやシーツといったリネン類。グリシーヌが用意してくれた嫁入り道具である。

 そのグリシーヌは今、別荘で暮らしていた。
 というのも、昨年、フルフル風邪が王都で猛威を振るうさなかに、義姉あねの妊娠が発覚。義姉の身を案じたグリシーヌは、義姉とともに当分の間、王都から離れることにしたのだった。

 大量の贈り物は、昼前になってようやく、片づけが終わった。
 ホリーが一息ついているところへ。

「お嬢様、事件です!」

 ナニーが、部屋に駆け込んで来た。
 届いた荷物の中には、兄と義姉からの結婚祝いも入っており、そのお礼を送るよう、ナニーにお使いを頼んでいたのだが。

「大変なんですよ!」
「何かあったの?」

 出先で、もめごとが起きたのか。それとも義姉のお気に入りだった菓子店が、潰れていたのか。ナニーの慌てた様子に、ホリーが心配になっていると。

「今、そこで、乳母組合の知り合いに聞いた話なんですけどね」

 ナニーがしゃべりだしたのは、全く関係のない話だった。

「ほら、ハーラングロー家の養女。男爵だか子爵の愛人になって、正妻を追い出し、自分が正妻になった挙げ句、好き放題にしているという話!」

 ほっとしながら、ホリーはうなずく。

「追い出された元妻とご令嬢が、元夫と愛人に慰謝料を求めてるって話で、そりゃあ、ものすごい金額みたいで! しかも愛人が元妻の持参金を、金庫から勝手に持ち出して使い込んでいたみたいなんですよ!」
「まぁ」

 確かに、大変なことだ。
 結婚する際、女性は、少なくはない金額を婚家へ持参する。ただし、これはあくまで妻のもので、夫であっても、妻の承諾なしに使うことは許されない。離縁する時には、全額、妻に返還されるべきもの。
 妻を追い出しておきながら、その持参金を赤の他人である愛人が勝手に使ったとなれば大問題だ。

「これはあくまで噂なんですが、愛人の贅沢三昧のせいで、財政は苦しく、もはや屋敷を売って返済するしかないのだとか」
「それは、大変ね」
「まぁまぁまぁ! お嬢様、それだけじゃないんです。事件は、もう一つあるんです!」

 ナニーは、興奮気味に話を続ける。

「ハーラングロー男爵には愛人に産ませた子供がいて、その子が、どこぞのお屋敷でメイドとして働いていたようなんですが、」

 そう切り出され話に、ホリーはデボラのことだとピンときた。

「大事なお客様に、とんでもない粗相をして、大変なことになっているようなんです。メイド派遣協会の名簿から除名処分されたとか!」
「除名?」
「メイ協で、一番重い処分です。協会の後ろ盾がなくなり、事実上、メイドとしては働けなくなります。フリーで勤め先を探そうにも、こういった噂はすぐに広まりますから、難しいでしょうね」

「そうなの」

 ナニーは大きくうなずいてから「それでですね」と、ホリーを見た。

「聞いたところによると、そのお客様というのが、すらりとして身長が高く、誰もが振り返るような美男子で、年もかなり若かったらしいのですが……」
「もしかして、王室ゆかりの高貴な方かしら?」
「あのぅ……お嬢様、」
「何?」
「リヒト様から、何か聞いてらっしゃいません?」
「そのお客様のこと?」
「いえ、そうではなくて。この話を聞いた時、私は真っ先に、リヒト様のお顔が思い浮かんだんですよ」

 ホリーは、思ってもみないことに、ぱちくりと瞬いて。

「えっ! そのお客様って、リヒトなの⁉」

 知らないわと、首を振った。
 リヒトから、そんな話を聞いたことはない。レイと一緒に、デボラについて調べていた時も、メイドたちからは何もなかった。
 
 ホリーの返答に、ナニーが「……そうですか」と、肩を落としたのもつかの間。

「まぁ、偶然にも、どちらもハーラングロー家の娘の話ですから、父親である男爵も無関係とはいかないでしょうがね」

 ハーラングロー男爵のことを、よく思っていなかったナニーである。

「全く、『ざまぁみやがれ』でございます」

 盛大に、ふんっと、鼻で笑ったのだった。


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