死に戻ったら冷淡だった夫が離れてくれないので今度こそ幸せになるためやり直します

倉桐ぱきぽ

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★sideリヒト:ただいま、尾行中

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 なぜだ?
 リヒトは門柱の影から、こっそりと二人を眺めていた。
 突然、予定が空いたので、ホリーに会いに来てみれば。自分より先にレイが来ていて、示し合わせたように、並んで歩き始めたのだった。
 もちろん、リヒトは二人の後をつけた。

 二人で一緒に、どこへ行こうというのか。
 なぜ、ホリーとレイが!
 なぜだーーーー‼
 
 往来の片隅、頭を抱えるリヒトの前で、二人は馬車に乗り込んだ。すぐさま、リヒトも流しの馬車を捕まえ、前の馬車を追いかけるよう頼む。
 そういえば、昨日もレイは用事あると出かけていた。
 午後から会いに行ったホリーも、また留守だった。どこへ行ったのか、その行き先はナニーも知らなかった。

 ……そういうことなのか?
 自分の知らないところで、二人が?

 リヒトの頭の中では、ほわわ~んと、あらぬ妄想が膨れ上がっていく。

 だめだだめだ、だめだーー!

 頭を抱えていると、ドアが開いて、御者が顔をのぞかせた。

「若様、つきましたぜ」

 その瞬間、リヒトはすっと紳士の顔に戻って、「ありがとう」と代金を支払った。
 馬車を降りたリヒトは、そろりと二人の後を追う。そうしてたどり着いたのは、王都の外れの屋敷。

 二人は裏口で何人かのメイドを捕まえ、話をしたあと、その場を離れていった。
 それをずっと隠れて見ていたリヒトも、すぐに後を追う。二人が建物の角を曲がった。姿が見えなくなって、リヒトは歩く速度を早めた。
 そこへ。
 突如、裏口の扉が開いて、メイドが出てきたかと思ったら、桶の水を大きくまき散らした。裏路地とはいえ、全くの予想外こと。
 
「うわっ!」

 避ける間もなく、リヒトは、その水を頭から浴びせられたのだった。しかも桶の水は、きれいなものではなかったようで。髪から滴り落ちるのは、灰色の水。そのうえ、大きな綿ぼこりが、ぺったりと顔に張りついていた。

「デボラ! 何してるの!」
「でも、今日は風が少し強いから、道に水をまいておけって!」
「だからって、掃除に使った水を撒くバカがどこにいるのよ?」
「あー、もう、それどころじゃないでしょ! 謝るのが先!」

 裏口から次々にメイドたちも出てきて、すぐさま、リヒトへ駆け寄ってきた。

「申し訳ございません!」

 メイドが、必死の形相で頭を下げる。
 そんなことより、リヒトはホリーとレイが気になっていた。今すぐにでもあとを追いかけたかったが、ついにはメイド長まで現れ、屋敷の中へと連れ込まれた。

 顔や髪をきれいに拭われ、応接間に通される。濡れた上着はお預かりしますと、半強制的に持っていかれてしまった。
 そこでしばらく待っていると、中年の男性がメイドを引き連れ、入ってきた。男性は、リヒトの顔を見た途端、あんぐりと口を大きく開ける。

「リっリリ、リヒト様ぁーー! あぁ、なんてことだ!」

 男性はそのまま滑り込むように、リヒトの足元へひざまずいた。

「リヒト様。わたくし、前に一度、パーティーでご挨拶を、」

 ちょび髭で小太り、ちょっと困ったような下がり眉。すぐにリヒトも思い出した。

「ああ。コマンタレ男爵ですね」
「申し訳ございません! 当家の使用人が、」

 お気になさらずと、リヒトは微笑む。

「誰にでも失敗はあります。しかし、もう少し教育をされた方がよろしいですね。君も次から水をまくときは、辺りを注意した方がいい」
「あんな裏通り、歩いてるなんて、誰も、」
「デボラ! 謝りなさい」
「……すみませんでしたぁ」

 メイド長に注意され、メイドは不満げな顔で謝った。自分は悪くない。まるであそこを歩いていたリヒトが悪いのだと、言わんばかり。
 これにはリヒトも、態度が悪いと感じたが。

 ぶっちゃけ、他家のメイドのことなど、どうだっていい。さっさと終らせて、ホリーを探しに行きたかった。あの二人が、今どこで何をしているのか。まさかとは思うが、気が気でなかった。

 続けてリヒトは「上着を、」返してもらって、そのまま辞するつもりだったのだが。
 男爵がすさまじい形相で、メイドに詰め寄っていたのだった。

「デボラ! 何だ、その態度は! あぁ、あぁ。もういい、お前はクビだ!」
「旦那様、お忘れですか。私は、」
「こちらは、侯爵家のご子息だ! この際だから言っておく。仕事はサボるし、客人への礼儀もなってない。先日の、家宝の壺が割れた一件も、実はお前がやったことだったらしいな。年下の新入りに罪をなすりつけて、恥ずかしくないのか!」
「でも、それは……」
「言い訳は結構だ! 荷物をまとめて、今すぐ出て行け‼ それと、この件も含め、男爵へ抗議させてもらうからな! 覚悟しておけ!」

 その後、リヒトは改めて、コマンタレ男爵から丁重なもてなしを受けた。あのメイドは男爵の方でも扱いに困っていたらしく、それはそれは感謝されてしまった。
 そして、邸宅を出た時には、当然、ホリーとレイの姿はどこにもなかった。 

 もやもやしながら、とぼとぼと屋敷に帰ったリヒトだったが。
 レイが待ちかまえていて。

「お前、俺とホリー様のあとを、つけていただろう?」

 どういうことだと、問いただされたリヒトは、そっくりそのまま聞き返した。

「お前こそ、ホリーと何をしていた! まさかまさか! ホリーの唇は僕のものだーー!!」

 よからぬ妄想が、リヒトの頭の中で膨らんでいく。そこへ、

「正気に戻れ!」

 容赦ないチョップが、脳天に叩き込まれた。

「うぼぁ」
 
 うめき声を上げながら、崩れ落ちたリヒトの頭上から、さらにレイが言う。

「ホリー様は、ハーラングロー家のことが気になっているらしい」
「また、ハーラングローか……」

 リヒトはムクリと立ち上がり、大きくため息をついた。 
 何度も縁談を持ちかけられていたことは、父からも聞いていた。リヒトにはホリーがいたので、父は相手にしなかったらしいが。
 これ以上、ホリーを煩わせるくらいなら。

「……ぶっ潰すか」
 
 思わず、本音がこぼれてしまった。すかさず、レイから「おい!」と、ツッコミが入る。ぼそっとつぶやいたことなのに、耳聡い。

「冗談に決まってるだろう」

 リヒトは笑いながらすっとぼけ、その一方で思案する。
 ハーラングロー男爵のことは、問題になり始めている。迎えた養子を手駒に、あちこちに縁談を持ちかけているようだ。中には高額な持参金に、目がくらむ者もいると言う。その結果、事実上、家を乗っ取られるということも起きていた。

 とりあえず……。

 今日、自分の身に起きたことを、言いふらしておこうか。
 ゴシップ好きで、しかも口が軽い、適任の人物がいる。明日、彼のところへ行って話しておけば、明後日には王都中に話が広まっていることだろう。


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