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瑛の不満
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御前から色々と教わった帰り。
奥御殿を出たところで、瑛は珍しい人物に呼び止められた。あとを追ってきた、紫苑だ。
「あなたに話があるんだけど、少しいいかしら?」
続けて、紫苑は大事な話だから、侍女を下がらせてくれと言う。瑛は分かったと答え、ツナ子とタイ子を先に部屋に戻らせた。
奥御殿から少し場所を移動し、紫苑は話を始めた。
「龍姫は恋をすると変態する。そう言われてる。でも、あなたはまだ、変態してない。それって、つまり、あなたはトキのことが、好きでも何でもないってことよね?」
「トキのことは、好きだよ」
「でも、実際、あなたは変態してないんだから、その好きは恋じゃない。違う?」
そう言われれば、その通りだから。瑛は、うなずくしかなかった。だったらと、紫苑が、こちらを見る。にらみつけるような眼差しで。
「トキを解放してあげて」
「解放?」
「トキには理子がいるの。トキは、理子のことが好きなのよ。だから、龍王には、別の誰かを選んでくれないかしら」
「ねぇ、紫苑さん。恋って、永遠なの?」
瑛は真剣に問う。考えても考えても、さっぱり分からないのだ。
「トキに好きな人がいたら、あたしは好きになっちゃ、いけないの? トキは、もう、リコさん以外の人を好きにならないの?」
「それは……」
紫苑は、黙り込んでしまった。しばらく待ってみても答えがない。
「じゃあ、トキに聞いてみる」
行こうとした瑛だったが。
「やめて!」
と、紫苑に腕を掴まれた。
「何で?」
「トキの気持ちを考えて」
「んー……でも、あたし、トキのこと、よく分かんないし。ここでトキの気持ちを考えてるより、本人に聞いた方が早いよね?」
瑛は、思ったことを素直に言った。しかし、紫苑はますます顔を険しくする。
「あなた、傲慢だわ。龍姫だからって、何をしても許されると思ってるの?」
「だって、気になるんだもん」
「それが、傲慢だって、言ってるのよ!」
「ごーまんでも、知りたい!」
「あなたは、トキの心に土足で踏み込んで、踏み荒らそうとしてるのよ。それも分からない?」
そんなこと、言われたって。瑛は口をとがらせる。
「分かるわけないよ。トキとリコさんのことだって……」
知りたいのに。もっと、トキのことが知りたいのに……。
トキは何も言わないし、誰に聞いても教えてくれない。それでどうやって、分かれと言うのか。
「あたしが、知るわけないでしょ!」
瑛の中で、積もりに積もった小さな不満が、爆発したた。
その直後。
空気が、ビリビリとして。
「勝手なことを言うな!」
トキの低い声が響いた。
体が締めつけられるような、攻撃的な気配に瑛の足はすくむ。
「瑛」
呼ばれただけで、体がビクリと震えた。顔は見れない。だって、怖い。
「人のものを勝手に盗み見るのは、やめろ。気分が悪い!」
「…………」
瑛は、何も言えなかった。ただただ、立ち尽くす。トキがその場を去っても、紫苑がトキを追って行っても、動けなかった。
その場に誰もいなくなって、足音すら聞こえなくなって、静かになって、涙があふれてきた。
「おっ、瑛! 今さー、シンに、いーもんもらったんだー。瑛にも半分、」
能天気なリュークの声。瑛は、そちらを見た。ギロっと、にらみつけたつもりだったが、ボロボロ、涙が流れる。
「瑛⁉ お、お前、どうしたんだよ!」
ぎょっとした顔で近づいて来るリュークに、瑛は叫ぶ。
「リュークの嘘つきっ‼」
「何だよ、いきなり」
「トキは怒らせても怖くないって、言ったのに!」
「は? いつ、俺様が、」
「言った! ずーっと前に、トキを怒らせても、メグムさんだけは怒らせるなって!」
「そーいや、言ったっけな」
「言った! リュークのバカぁー!」
悪いのは自分だと、瑛も分かっている。これは八つ当たりだ。それでも、リュークは。
「悪かった。悪かったから、泣くなよ」
おろおろしながらも、くしゃくしゃの手ぬぐいを差し出してくれて。
瑛は、わんわん泣いてしまった。
奥御殿を出たところで、瑛は珍しい人物に呼び止められた。あとを追ってきた、紫苑だ。
「あなたに話があるんだけど、少しいいかしら?」
続けて、紫苑は大事な話だから、侍女を下がらせてくれと言う。瑛は分かったと答え、ツナ子とタイ子を先に部屋に戻らせた。
奥御殿から少し場所を移動し、紫苑は話を始めた。
「龍姫は恋をすると変態する。そう言われてる。でも、あなたはまだ、変態してない。それって、つまり、あなたはトキのことが、好きでも何でもないってことよね?」
「トキのことは、好きだよ」
「でも、実際、あなたは変態してないんだから、その好きは恋じゃない。違う?」
そう言われれば、その通りだから。瑛は、うなずくしかなかった。だったらと、紫苑が、こちらを見る。にらみつけるような眼差しで。
「トキを解放してあげて」
「解放?」
「トキには理子がいるの。トキは、理子のことが好きなのよ。だから、龍王には、別の誰かを選んでくれないかしら」
「ねぇ、紫苑さん。恋って、永遠なの?」
瑛は真剣に問う。考えても考えても、さっぱり分からないのだ。
「トキに好きな人がいたら、あたしは好きになっちゃ、いけないの? トキは、もう、リコさん以外の人を好きにならないの?」
「それは……」
紫苑は、黙り込んでしまった。しばらく待ってみても答えがない。
「じゃあ、トキに聞いてみる」
行こうとした瑛だったが。
「やめて!」
と、紫苑に腕を掴まれた。
「何で?」
「トキの気持ちを考えて」
「んー……でも、あたし、トキのこと、よく分かんないし。ここでトキの気持ちを考えてるより、本人に聞いた方が早いよね?」
瑛は、思ったことを素直に言った。しかし、紫苑はますます顔を険しくする。
「あなた、傲慢だわ。龍姫だからって、何をしても許されると思ってるの?」
「だって、気になるんだもん」
「それが、傲慢だって、言ってるのよ!」
「ごーまんでも、知りたい!」
「あなたは、トキの心に土足で踏み込んで、踏み荒らそうとしてるのよ。それも分からない?」
そんなこと、言われたって。瑛は口をとがらせる。
「分かるわけないよ。トキとリコさんのことだって……」
知りたいのに。もっと、トキのことが知りたいのに……。
トキは何も言わないし、誰に聞いても教えてくれない。それでどうやって、分かれと言うのか。
「あたしが、知るわけないでしょ!」
瑛の中で、積もりに積もった小さな不満が、爆発したた。
その直後。
空気が、ビリビリとして。
「勝手なことを言うな!」
トキの低い声が響いた。
体が締めつけられるような、攻撃的な気配に瑛の足はすくむ。
「瑛」
呼ばれただけで、体がビクリと震えた。顔は見れない。だって、怖い。
「人のものを勝手に盗み見るのは、やめろ。気分が悪い!」
「…………」
瑛は、何も言えなかった。ただただ、立ち尽くす。トキがその場を去っても、紫苑がトキを追って行っても、動けなかった。
その場に誰もいなくなって、足音すら聞こえなくなって、静かになって、涙があふれてきた。
「おっ、瑛! 今さー、シンに、いーもんもらったんだー。瑛にも半分、」
能天気なリュークの声。瑛は、そちらを見た。ギロっと、にらみつけたつもりだったが、ボロボロ、涙が流れる。
「瑛⁉ お、お前、どうしたんだよ!」
ぎょっとした顔で近づいて来るリュークに、瑛は叫ぶ。
「リュークの嘘つきっ‼」
「何だよ、いきなり」
「トキは怒らせても怖くないって、言ったのに!」
「は? いつ、俺様が、」
「言った! ずーっと前に、トキを怒らせても、メグムさんだけは怒らせるなって!」
「そーいや、言ったっけな」
「言った! リュークのバカぁー!」
悪いのは自分だと、瑛も分かっている。これは八つ当たりだ。それでも、リュークは。
「悪かった。悪かったから、泣くなよ」
おろおろしながらも、くしゃくしゃの手ぬぐいを差し出してくれて。
瑛は、わんわん泣いてしまった。
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