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第一章 グリマルディ家の娘
14,心の変化
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「──ふーん。レイのダンス、なかなかの迫力ね」
俺が夢中になってステージを眺めていると、突然メイリーが隣にやって来た。俺はレイを見続けながら答える。
「そうだな。練習以上のパフォーマンスだ」
「ヒルス、ずっと練習に付き合ってたわよね」
「まあ、妹だからな」
「妹、ねえ……」
なぜだかメイリーは、一瞬だけ面白くなさそうな声になった。急に俺の前に立つと、ぐっと顔を近づけてくるんだ。
「この後あたしも本番なの。応援してくれる?」
「ああ、そうだったな。頑張れよ」
「今回も入賞できる思う?」
「メイリーはいつもいい踊りをするし大丈夫だろ」
「もしも三位以内に入賞できたら……ご飯に連れていってくれない?」
「えっ。俺が?」
「いいでしょう?」
メイリーは絶えず俺の目をじっと見てくる。カラーコンタクトで今日は赤い瞳の色をしていて、濃いめの化粧のせいもあってか目力がものすごい。長く視線を合わせていると、圧にやられそうだ。
飯に連れていく、ということは奢らないといけないのか……?
俺の懐は寂しい。ご馳走してやる金もそんなにない。どうにか断る口実を考える。
「飯なら……そうだ、あいつに。ライクに連れていってもらえよ」
「ええ? どうしてライク⁉」
「あいつなら洒落たレストランを知ってるらしいぞ。俺なんかその辺のパブしか連れていってやれないしな……」
「パブでもバーガーショップでもなんでもいいわ! あたしはヒルスとご飯を食べに行きたいの」
「勘弁してくれ。そもそも俺にはガールフレンドがいるんだ」
「全然会ってないのよね? ご飯くらい平気よ。打ち上げみたいなものだし!」
全く引く様子も見せないメイリーに、俺は困り果てる。
そんな中、ステージには最大級の大歓声が浴びせられていた。曲が終盤を迎え、レイが美しくポージングを決めているところであった。胸に右手を当て、左手を天に向かって掲げる。レイの表情は晴れやかで、達成感に満ち溢れていた。
俺は目を見張った。心臓が高く鳴る。
「……ごめん、メイリー」
「なに?」
「飯には連れていけない。あいつに……レイにご馳走してやりたいから。今日の褒美にな」
自然と出た言葉だった。
最高のダンスを披露したレイに、何かしてやりたい。心からそう思ったんだ。
拍手喝采、スタンディングオベーションが送られる中、ステージはゆっくりと暗転していった。
レイは汗だくになりながら、舞台袖に戻ってくる。
「レイ!」
俺はたまらず笑顔で彼女を迎える。
「お疲れ。よくやったな!」
「ありがとう。ちょっと緊張しちゃった」
「緊張した? そんな風に見えなかったぞ。最高にクールなダンスだったよ」
「ヒルスのおかげで頑張れたよ」
満足げに話すレイに、俺は汗拭き用のタオルをさりげなく手渡した。本当はバカみたいに撫で回してやりたかった。周囲にメイリーや他のダンサーたちがいる手前、さすがに我慢するが。それほど今日のダンスは最高すぎたんだ。
「ちょっと、レイ」
「あ……メイリー。この後本番だよね。頑張ってね」
「あなたにそんなこと言われなくてもしっかりと成果は出すから。今日のステージでちょっといい踊りをしたからって調子に乗らないでよねっ!」
「え……?」
レイは戸惑った顔になる。
なんだ、その言いかたは?
俺は思わず眉間に皺を寄せる。メイリーが急に不機嫌な態度を取る理由が全く分からない。
怪訝な表情をしたまま、メイリーはその場から立ち去ってしまった。
「なんなんだ、あいつ?」
「……本番前だから、きっとピリピリしてるんだよ。メイリー、いつも人一倍頑張ってるし」
寂しそうな口調で、レイは不貞腐れるメイリーの後ろ姿を暫く眺めているようだった。
そんな彼女の頭にそっと触れ、俺は優しく髪を撫でてみせた。
「俺はレイのダンス好きだよ」
「えっ?」
驚いたように顔を上げると、レイの頬はほんのり桃色に染まった。
「正直、お前がスクールに通い始めた頃はすぐに辞めていくと思った。だけど違ったな。二年でここまで踊れるようになって、本当に凄いよ」
「ヒルス……私のこと褒めてる?」
レイはたちまち満面の笑みになる。
いつもなら俺は恥ずかしくなって顔を背けるが、今日は少しだけ違った。自分の本心を彼女に伝えたいと思ったんだ。
「……褒めてるよ」
「嬉しいなぁ。ねえ、もっと言って!」
「これ以上は嫌だよ。でも……よく頑張ったからな。今度飯でも行くか?」
「え、いいの?」
「いいよ、高い店は連れていけないけどな」
「やった! それじゃあ、ケーキが美味しいお店に行きたいな!」
「おい、まさかスウィーツ狙いか。メインディッシュはどうするんだよ?」
「いいの。ヒルスもケーキが好きでしょう? 一緒に甘いもの食べて紅茶飲んで、お疲れさまパーティーしたい!」
楽しそうにプランを話すレイを見ていると、俺も自然と笑みが溢れる。
ツインテールに結われた髪は踊った後で乱れていたが、そんなの気にならないくらい今の彼女は輝いていた。
行きたいところがあれば、俺がどこへでも連れていってやる。
俺が夢中になってステージを眺めていると、突然メイリーが隣にやって来た。俺はレイを見続けながら答える。
「そうだな。練習以上のパフォーマンスだ」
「ヒルス、ずっと練習に付き合ってたわよね」
「まあ、妹だからな」
「妹、ねえ……」
なぜだかメイリーは、一瞬だけ面白くなさそうな声になった。急に俺の前に立つと、ぐっと顔を近づけてくるんだ。
「この後あたしも本番なの。応援してくれる?」
「ああ、そうだったな。頑張れよ」
「今回も入賞できる思う?」
「メイリーはいつもいい踊りをするし大丈夫だろ」
「もしも三位以内に入賞できたら……ご飯に連れていってくれない?」
「えっ。俺が?」
「いいでしょう?」
メイリーは絶えず俺の目をじっと見てくる。カラーコンタクトで今日は赤い瞳の色をしていて、濃いめの化粧のせいもあってか目力がものすごい。長く視線を合わせていると、圧にやられそうだ。
飯に連れていく、ということは奢らないといけないのか……?
俺の懐は寂しい。ご馳走してやる金もそんなにない。どうにか断る口実を考える。
「飯なら……そうだ、あいつに。ライクに連れていってもらえよ」
「ええ? どうしてライク⁉」
「あいつなら洒落たレストランを知ってるらしいぞ。俺なんかその辺のパブしか連れていってやれないしな……」
「パブでもバーガーショップでもなんでもいいわ! あたしはヒルスとご飯を食べに行きたいの」
「勘弁してくれ。そもそも俺にはガールフレンドがいるんだ」
「全然会ってないのよね? ご飯くらい平気よ。打ち上げみたいなものだし!」
全く引く様子も見せないメイリーに、俺は困り果てる。
そんな中、ステージには最大級の大歓声が浴びせられていた。曲が終盤を迎え、レイが美しくポージングを決めているところであった。胸に右手を当て、左手を天に向かって掲げる。レイの表情は晴れやかで、達成感に満ち溢れていた。
俺は目を見張った。心臓が高く鳴る。
「……ごめん、メイリー」
「なに?」
「飯には連れていけない。あいつに……レイにご馳走してやりたいから。今日の褒美にな」
自然と出た言葉だった。
最高のダンスを披露したレイに、何かしてやりたい。心からそう思ったんだ。
拍手喝采、スタンディングオベーションが送られる中、ステージはゆっくりと暗転していった。
レイは汗だくになりながら、舞台袖に戻ってくる。
「レイ!」
俺はたまらず笑顔で彼女を迎える。
「お疲れ。よくやったな!」
「ありがとう。ちょっと緊張しちゃった」
「緊張した? そんな風に見えなかったぞ。最高にクールなダンスだったよ」
「ヒルスのおかげで頑張れたよ」
満足げに話すレイに、俺は汗拭き用のタオルをさりげなく手渡した。本当はバカみたいに撫で回してやりたかった。周囲にメイリーや他のダンサーたちがいる手前、さすがに我慢するが。それほど今日のダンスは最高すぎたんだ。
「ちょっと、レイ」
「あ……メイリー。この後本番だよね。頑張ってね」
「あなたにそんなこと言われなくてもしっかりと成果は出すから。今日のステージでちょっといい踊りをしたからって調子に乗らないでよねっ!」
「え……?」
レイは戸惑った顔になる。
なんだ、その言いかたは?
俺は思わず眉間に皺を寄せる。メイリーが急に不機嫌な態度を取る理由が全く分からない。
怪訝な表情をしたまま、メイリーはその場から立ち去ってしまった。
「なんなんだ、あいつ?」
「……本番前だから、きっとピリピリしてるんだよ。メイリー、いつも人一倍頑張ってるし」
寂しそうな口調で、レイは不貞腐れるメイリーの後ろ姿を暫く眺めているようだった。
そんな彼女の頭にそっと触れ、俺は優しく髪を撫でてみせた。
「俺はレイのダンス好きだよ」
「えっ?」
驚いたように顔を上げると、レイの頬はほんのり桃色に染まった。
「正直、お前がスクールに通い始めた頃はすぐに辞めていくと思った。だけど違ったな。二年でここまで踊れるようになって、本当に凄いよ」
「ヒルス……私のこと褒めてる?」
レイはたちまち満面の笑みになる。
いつもなら俺は恥ずかしくなって顔を背けるが、今日は少しだけ違った。自分の本心を彼女に伝えたいと思ったんだ。
「……褒めてるよ」
「嬉しいなぁ。ねえ、もっと言って!」
「これ以上は嫌だよ。でも……よく頑張ったからな。今度飯でも行くか?」
「え、いいの?」
「いいよ、高い店は連れていけないけどな」
「やった! それじゃあ、ケーキが美味しいお店に行きたいな!」
「おい、まさかスウィーツ狙いか。メインディッシュはどうするんだよ?」
「いいの。ヒルスもケーキが好きでしょう? 一緒に甘いもの食べて紅茶飲んで、お疲れさまパーティーしたい!」
楽しそうにプランを話すレイを見ていると、俺も自然と笑みが溢れる。
ツインテールに結われた髪は踊った後で乱れていたが、そんなの気にならないくらい今の彼女は輝いていた。
行きたいところがあれば、俺がどこへでも連れていってやる。
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