無能チートで冒険者! ~壁魔法も使いよう~

白鯨

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 1章.無能チート冒険者になる

22.無能チートと新型鎧

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 鎧製作をはじめて3日目に突入。


「鎧、完成……!」
「おお~! ……早くね?」
「そお? ドワーフ、これ位、普通」


 まだ作りはじめて3日ですよ? 改造とかではなく、インゴットから作りはじめて、3日で鎧を作る。私でもこれが異常な事だとわかる。
 ドワーフぱねぇ。


「で、どんな鎧ができたんですか?」
「ワタシの新しい鎧、その名も、『ビッグ・セヨン2号』!」
「センス! ネーミングセンス! セヨンさん、センスない!」
「ガーン!」


 私のツッコミに、自分で擬音を言ってしまう程、ショックを受けたセヨンさん。
 まさかの、作ったものに自分の名前つけちゃう系の人だった。


「そこまで言うなら、トンボ、考える!」
「えぇ……ちょっと文句言っちゃいましたけど、セヨンさんが作ったんだから、ビッグ・セヨンでいいじゃないですか、カッコいいですよ?」
「ビッグ・セヨンじゃない! ビッグ・セヨン“2号”!」


 どっちでもいいわっ!
 しかし、セヨンさんは余計にヘソを曲げてしまった。 


「センスない、言われた。今後、ビッグ・セヨン2号、呼ぶ度、ワタシ、センスない、気にすること、なる。だからトンボ、名前付ける」


 不貞腐れ、いじけたセヨンさんは、とても面倒くさかった。
 でも、原因は私にあるのだし、セヨンさんが誇れるようなカッコいい名前を付けようじゃないか!


「わかりました! 私がカッコいい名前を付けましょう!」
「ん、格好悪かったら、トンボも、センスない認定、する」
「いいでしょう。先に悪く言ってしまったのは、私ですしね。その位のペナルティは甘んじて受けましょう!」
「じゃあ、鎧、見せる!」


 そう言うとセヨンさんは、マジックバッグの中から、ミスリル製の白銀に輝く物体を取り出した。


「えっ、鎧? セヨンさん、これで完成品なんですか?」


 現れたのは、巨大な手甲だった。
 セヨンさん1人なら、手中に収められる位、巨大な手甲が、右手と左手の2つ分。
 そして、同じ様な意匠で、サイズが小さい手甲が2つ。
 合計4つの、大小と2種類の手甲だ。
 小さい手甲ですら、フィレオのおっちゃんが使いそうなサイズだった。

 手甲以外には、スカート状の“草ずり”のような装甲と、胸部を守る装甲、すね当てから下の装甲の3種類のみで、それらは全て生セヨンさんに合わせ、作られているみたいだった。


「これ、どうやって使うんですか?」


 それが、正直な感想だった。
 実は、セヨンさんは本気を出すと、腕が4本になるとか、そんな事が起きなければ、使う事なんて出来ないと思う。


「ん? 装備して見せる?」
「あっはい、武器防具は装備しないと意味がないぞ! って偉い人も言ってましたもんね」
「そんな人、知らない。けど装備する」


 セヨンさんはそう言うと、鎧を身に付けはじめた。

 セヨンさんの普段着である、肩から先がないタイプのハイネックインナーに、ポケット沢山の半袖ジャケットと、ショートパンツの作業着のような姿から、ジャケットだけを脱ぎ、胸の装甲を着て、腰から脚を守るように、スカート状の装甲をベルトで腰に固定し、足の装甲を履いて完成だ。

 肌の露出というか、今までのセヨンさんの全身鎧姿からすると、随分と装甲が薄い。
 防御面積は、どう見ても半分以下になっている。
 
 セヨンさんは最後に、巨大手甲の中から、小さい手甲を身に付けた。
 小さいと言っても巨人サイズ。セヨンさんの小柄な体躯からすると、あまりにアンバランスに映った。
 某ランドで、マスコットキャラの手を身に付けている、小学校低学年みたいな感じだ。


「うん、カッコいい」


 セヨンさんは手をニギニギしたり、足を上げて鎧の着心地を確認すると、確信したように呟いた。
 鎧姿だけなら、ゲームやアニメに出てくるドレスみたいな鎧に、見えなくもない。
 しかし、剣とかならまだしも、手甲があまりにもアンバランスだ。
 おしい! 色々とおしい!
 そして、まだ最大の疑問は残ったままだった。


「その残った巨大手甲は、どうするんですか?」


 そう、まだ手甲は残っているのだ。

 私の疑問に、セヨンさんはニヤリと笑ってみせると、高らかにその名を呼んだ。


「装着! 弐式!」


 その言葉に応えるように、弐式と呼ばれた超大型手甲が、紫色の光を帯びて動き出した。
 重そうな見た目に反して、軽やかに浮かび上がり、踊るように舞い、最後はゆっくりと、セヨンさんの左右に別れ、付き従い、命令を待つかのように漂っている。
 
 なんと超巨大な手甲は、身に付けず、セヨンさんの『念動』で動かす鎧だったのだ。
 そして、弐式と和風な名前を言っているのに、ビッグ・セヨン“2号”と言ってしまう、セヨンさんのセンスよ。でも。


「……凄い」
「ミスリル、魔力流す、その人のマナの色、輝く」


 それしか感想が出なかった。
 あの手甲は、セヨンさんなりに、防御と攻撃の両立を図った結果なのだろう。
 紫に淡く光る装備は、神々しくも映った。


「でも、そんな大きな手を浮かせていて、魔力は切れないんですか?」
「なに言ってる。ワタシ、普段から、全身鎧動かしてる。魔力、毎日鍛えているようなもの。それに、魔力流れやすくなる、魔方陣刻んだ」


 そうだった。セヨンさんって歩くのも、走るのも、道具を使うのも、鎧着ていた時は『念動』を使ってるんだった。ごく自然に動いてたから、勘違いしちゃってたよ。


「じゃあ、生身の部分が増えましたけど、セヨンさん自身が危なくなってませんか?」
「『念動』使う分、初動遅れる。今までは1人、だったから、防御固める優先。これからは、トンボも守る、速さ必要、だから生身。攻撃、着けた手甲で弾く、動きやすいのが、安全」


 なるほど、完全防御型から、パリィ型にチェンジするって事か、いざとなったら弐式手甲を盾代わりにして防ぐと。


「そう言えば『念動』って、どれぐらいの出力でるんですか? 重さ制限とかって、あるんですか?」
「自分の、腕力位の力、出る」
「セヨンさんの腕力……」


 見た目だけだと、私の方が力強そうなんだよなぁ。


「フィー、片手で、持ち上がる」
「なにその馬力。リアルアンパ◯マンかよ!」
「ドワーフ、力持ち、楽勝」
「ドワーフ、スゲー!」


 久しぶりに出た、セヨンさんのドワーフ自慢で盛り上がる。実は私、密かにドワーフも人外認定しはじめている。


「で、名前は?」
「うっ、覚えてましたか……うーん」


 セヨンさんが見定めるように、キツめの視線をぶつけてくる。ドワーフからは逃げられない。
 私は改めてセヨンさんの鎧姿を見る。
 腕が4本の鎧かぁ。
 こういう時って、よく神話とか、伝説から名前を持ってくるよね。
 私が知ってる4本腕のキャラなんて、宇宙大戦争のグ◯ーヴァス将軍ぐらいだよ。しかし、それは色々マズイしなぁ。
 他に4本の腕と言えば、なんかインドの神様にいたような。名前なんだっけ?
 ヴィ……ヴィシュ……。


「ヴィッシュ?」


 だっけ? なんか違うような。なんか、もう少し呼びづらい名前だったような?


「……カッコいい」
「へ?」
「ヴィッシュ。強そうだし、気高い感じする響き……悔しいけど、いい名前。トンボ、言うだけ、ある」
「お、おう、せやろ?」


 ごめんセヨンさん。モトネタの名前すらわからないんだ、それ。


「この鎧の名前、『ヴィッシュ2号』!」
「何故2号?! 2号はいらないんだよ! ヴィッシュは初代でしょ!」
「ヴィッシュ……1号?」
「号から離れよう?! そのままのヴィッシュが好きだなぁ、私は!」
「むぅ、まったく、トンボは仕方ない、『ヴィッシュ』でいい」
「おかしいなー、私が我が儘言ったみたいになってるぞぉ?」


 セヨンさんの謎センスに振り回されつつも、セヨンさんの新型鎧『ヴィッシュ』の御披露目は終わった。





ーーーーーーーーーー

 名前の元ネタは、インドの守護神ヴィシュヌ様でした。

 しかし、どう見ても手甲という名のロケットパンチ。
 
 ナレーション「次回、『装甲戦姫セヨン』「無能チート暁に死す」」
 セヨン「トンボの仇はワタシが討つ!」

 という嘘予告やりたくなった。
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