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1章.無能チート冒険者になる
24.無能チートとスライム狩り
しおりを挟む「パンチだ! ロボ!」
「……ちぇりゃ」
「いけー! ロボ!」
「……ちぇりゃ」
「そこだ! ロボ!」
「……ちぇりゃ」
ロボ(セヨンさん)が私の指示に従い、その巨大な拳を振るう。
その度に、青色の粘液が飛び散り、私は床に落ちた石のような物を拾っていく。
ここは地の底下水道。
そして、戦いが終わる度、2人の間に重い沈黙が落ちる。
原因は、下水道の臭いにあった。
遡ること数時間前。
私達『グル・グルヴ』は下水道に入口に立っていた。しかし。
「セヨンさん、ここ臭いヤバいです」
「トンボ、冒険者なら、これくらい、我慢する」
さすが下水道。入口ですら想像以上の臭いが漂っている。
鼻を押さえる私を尻目に、セヨンさんはなんでもないように、表情を変えなかった。
これがベテラン冒険者の余裕か、凄い。
「じゃあ、ワタシ、着替える」
「は?」
そう言って、セヨンさんはマジックバッグから、前の全身鎧『ビッグ・セヨン1号』を取り出した。
何故? と思い、首をかしげた私に、ある天啓が降りた。
あの全身鎧に入ろうとするセヨンさんを見て、思ったのだ。鎧を着るというより、入り込むといった方が正しいその姿は、まるで潜水服のようだと。
「セヨンさんその鎧って、外気の一部を遮断なんてことは、してませんよね……臭いとか」
「な、なんのことか、わからない」
ギクリと身体を硬直させるセヨンさん。おいおい、まさか。
私の無感情の視線を受け、汗をかき、目が泳ぎはじめるセヨンさん。
や、やっぱり、コイツやってやがる!
「白状しろー! その鎧、どんな機能が付いてるんだ?!」
「くっ、離す! 別にこの鎧、風の魔方陣刻んでない! 温度調整、防臭機能、付いてない!」
「語るに落ちたなセヨンさん! 嘘が嫌いとか言ったくせに! 1人だけそんな快適空間に逃がすか!」
予想以上に多機能な鎧だった。
鎧に入ろうとするセヨンさんに抱きつき、動きを封じる。
「こんな臭い所、生身で入る、あり得ない!」
「お前ー! そのあり得ないのを、私はしようとしてたんだぞ!」
「新人通る道、ワタシもうベテラン、抜け道しても、いい!」
「開き直った?! でも、ヴィッシュの試運転も兼ねてるんだから、その鎧は禁止します!」
「嫌! 下水道狭い、きっと、ヴィッシュ、使いづらい!」
「そんなこと言わず、一緒に地獄に落ちようぜぇ、セヨンさん!」
その後暫く、抵抗するセヨンさんと格闘し、なんとかヴィッシュ装備のまま、下水道に入れることに成功した。
ただ、だからといって下水道の臭いがマシになる訳でもなく、入る前から疲れるだけの、不毛すぎる争いだった。
そんなこんなで冒頭に戻り、お互いに布で口を覆い、スライムを退治しながら下水道を進んでいた訳だ。
戦いの時はテンションで押しきり、それ以外では息を極力しないように、話さず沈黙しながらね。
しかも今回に限り、壁魔法が活躍したので、出てくるスライム自体は余り脅威ではなかったのも、緊張感に欠け、臭いに気が行ってしまう一因になっていた。
様々な物語で最弱と呼ばれている魔物。
スライム。
この世界では、核と呼ばれる石に、不定形の粘液が取り付いている姿で、可愛い系ではなく、キモい系のスライムだった。
その強さは、力は弱く、新人でも簡単に倒せる程度の魔物だ。
酸性の液体を浴びたり、顔などにまとわりつかれると危険だが、大抵の防具には防酸の加工が施されているし、気をつけていれば問題にならない。
街の地下にスライムが居るのは、危険じゃないのかと思ったが、暗く湿った場所を好むスライムが街に出てこないのと、定期的に狩って素材にするため、数が増えすぎないから、こちらも問題にはならないらしい。
スライムの核は小石サイズで、マナを集めて粘液の体を作り出すため、自身を構成する粘液の90%を失うと、マナを集めるのが追い付かず、再生される事なく核だけが残されるようになっている。
核だけでも、長い時間放置すると再生するが、それには1ヵ月以上掛かるらしい。
そして核の、マナを集める効果を利用したのが、魔力ポーションなのだという。
うーん、下水道のスライムの核を使ったポーションとか、飲みたくないな。
そしてこのスライム。先に言った通り、力が弱いため、私の壁魔法を破れないのだ。更に酸性の液体も、魔力で作られた壁を溶かすことはできず、大きくしたトンボ式アイテムボックスに、入って移動するだけで、スライムは手も足も出ないのだ。
逆にセヨンさんのパンチ一発で、弾け飛ぶスライム達。
この下水道において、グル・グルヴは、その役割を交替していた。
セヨンさんが殴り、私が守る。臭いを我慢しながら、会話もなく、スライムの核を回収する作業が淡々と続くだけ。
それは生気も失うわ!
「……あ、スライム」
「……スライム、殴る」
「がんばれー! ロボ!」
「……ちぇりゃ」
そしてまた、新たな犠牲者がやってきた。
弐式手甲がスライムを殴るのを見て、この地獄の様な作業を改善させる方法を思いつく。
手甲の内側に刻まれた魔方陣、私が考えていた新たな攻撃手段。
セヨンさんに内緒で練習して、あまり使えない事実に絶望したが、今の状況を変えるのになら、使えるかもしれない。
そう思い、私は壁魔法を発動させた。
「ん~~~~、見よ新たな力。壁魔法『マジックカード』!」
言葉と伴に、私の手の中に小さな壁が出現する。ポイントカードぐらいの大きさで、壁の表面を走る細い溝が、風の魔方陣を象った。
私は作り出したマジックカードを掴み、そこに魔力を流した。
途端、風が吹いた。
カードから吹き出した風が、周りの臭いを吹き飛ばす。
「そう思っていた時期が、私にもありました」
「トンボ、これ、臭いが撹拌されて、キツイ」
くさい臭いが充満した空間で風を吹かせても、余計に鼻に臭いが突き刺さるだけで、無意味だった。
私は手の中のカードを消し、風を止めた。
セヨンさんは布越しに、大きな手甲で器用に鼻を摘まみ、私を睨んできた。
「トンボ、今の、なに?」
「か、壁魔法『祟り風』……なんちゃって」
「……トンボ」
「はい、すみません。壁魔法で火種の魔道具を再現できないか練習しまして、今のは魔方陣を風に置き換えたものです」
「昨日、隠れてこそこそしてたの、それか」
うわ、ばれてた。セヨンさんに隠し事はできないね。
「まぁ、かなり繊細な形を作るので、これ以上大きくするのは、私の魔力量だと難しいんですけどね。だから、攻撃には力が弱くて使えません」
「日常生活には、便利?」
「発動させるまでに、頭の中で魔方陣をしっかりとイメージしないといけないので、溜めが必要なんですよ。だったら魔道具取り出した方が速いですね。魔道具が手元に無いなら使えるかもです」
「ん~、微妙、使えない?」
辛辣な評価を下され、私はガックリと肩を落とした。まぁ、私も同じ評価なんですがね。他人に言われるとショックというね。
「くそー! こうなったら、スライムどもに八つ当たりだぁ!」
「トンボ、女の子、くそ言わない。それにトンボ、壁魔法、スライム倒す、使えない」
「ガーン!」
そうなのだ、私の壁魔法だと、スライムを倒す場合、核を蜻蛉切りで切断するしかないのだ。しかし、そうすると核が素材として使えなくなってしまう為、この依頼において、スライムは壁魔法の天敵なのだ。
スライムすら倒せないチートとは。
「無能チートのバカヤロー! 行けー! ロボ! スライムを根切りにしろー!」
「……ちぇりゃ」
私の無念の叫びが、よく響く下水道に木霊し、私の八つ当たりを、セヨンさんが代行する。
結局、スライムの核が、大きめの段ボールサイズのアイテムボックス、2つ分満杯になるまで、スライムの乱獲は続いた。
ーーーーーーーーーー
セヨンさんの鎧無双を書くはずだったのに、何故こうなった?
これじゃあ、ロボしか印象に残らないぞ!
ちなみに、トンボが命令している時は、ちゃんと手首を口元にもってきて叫んでいます。
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