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1章.無能チート冒険者になる
25.無能チートの居場所
しおりを挟む冒険者ギルドに戻ると、フィレオのおっちゃんが待っていた。
道具屋はどうした。
「いくら閑古鳥が鳴いてるからって、こんな所で油を売ってていいの?」
「馬鹿者! 俺様はポーションの納品に来たのだ! 油など売っておらん!」
腕を組み憤慨するおっちゃん。
なんだ、偶々か。
そう思って納得しかけた私に、背後から待ったの声がかかった。
「そりゃ嘘だぜ! 納品しに来たのは本当だけどよ、職員が忙しくなる、冒険者が帰ってくる時間帯に、態々納品に来て、延々無駄話しながらチラチラ入口気にしてよ。誰かを待ってるのが丸わかりだっての!」
「「「「ぎゃはははは!!」」」」
声の方を見ると、ギルド併設酒場の一角から、赤ら顔のロジャーが、こちらにコップを突きだし、彼の仲間が下品な笑い声をあげていた。
「そうだそうだ! お前の照れた姿なんざ、気持ち悪くて見てらんねーぞ!」
「わははははっ! フィレオさんの過保護は健在だなー!」
「トンボちゃんが可愛いからって、あんま構いすぎると嫌われるわよ!」
「ヤメロー! それは最近娘に、お父さん嫌い! って言われてる俺に効く!」
「お前はさっさと家に帰れ!」
「そりゃそうだ?!」
「「「「ははははははっ!」」」」
そこから野次と笑いが波紋のように広がった。
私の名前が知られていた事にも、可愛いと言われた事にも、とても驚いた。
散々騒ぎを起こした私は、他の冒険者には、あまり好かれていないと思っていたからだ。
「貴様ら! 俺様に喧嘩を売るとはいい度胸だ! そんなに捻り潰されたいなら、そうしてやろう! 特に『獅子のたてがみ』! 貴様らは徹底的に潰すぞ!」
「ぎゃー!! なんでだよ!」
「笑い声がムカつくからだー!!」
「おお! 久しぶりに『豪腕の僧侶』の勇姿が見られるぞ!」
「ちくしょー!! 来んじゃねー!!」
「「「「わはははっ!」」」」
ズンズンと歩いて酒場の方に向かうおっちゃん。ロジャー達は気の毒だけど、自業自得だね。後から聞いたけど、ここでの禁酒が言い渡されなかったのは、他の酒場で暴れるより、目の届く所で飲ませた方が安全だかららしい。
てかおっちゃん、あの性格で僧侶だったの? 似合わねー。絶対破戒僧じゃん。
野次が飛び交い、賭けもはじまりだし、途端に騒がしくなる酒場の中。
本当に楽しそうに騒ぎ、笑う冒険者の姿に、どこか憧れを覚えた。
「私、受け入れられてたのかな……」
「皆様、トンボ様に話しかけたそうにしていましたよ?」
「えっ?」
カウンターの向こうから、エルティスさんが話しかけてきた。
穏やかな笑顔で、酒場の方を眺めながら私の疑問に応えてくれる。
「薬草採取の依頼を受けた日は、コツや良く取れる場所を教えようとしていましたよ。後ろの方が睨みを利かせていましたので、近づけたのはロジャー様達だけでしたが……」
私は咄嗟にセヨンさんの方を見た。
はじめは目をそらし、吹けていない口笛を吹きながら、誤魔化そうとしたが、見続けていると、観念したのかもごもごと喋り出した。
「トンボに、先輩風吹かす、ワタシ。他の人、余計なこと、しようと、するから」
「ふふっ、薬草採取から帰ってきた時は、オークの件がありましたからね。森に入るのが禁止になって、少しの間、トンボ様達がお休みになられていた時は、冒険者が嫌になったのかと、心配の声も出ていましたよ。なのに、今日久しぶりに顔を出したトンボ様を、フィレオ様に取られて、皆様残念がっていましたから、あれはその八つ当たりでしょう」
意外と器のちっちゃいセヨンさんを、微笑ましく思いながら、受付に座って全てを見聞きしてきた、エルティスさんの話を聞いた。
「なんでそこまで……」
「あら、以前ギルマスが言っていたじゃありませんか、冒険者からは好意的に見られるって……皆様、久々に活きのいい新人が入ったと、喜んでいましたよ」
ぽつりと漏れた私の呟きに、エルティスさんはイタズラっぽく返した。
そっか、そうだったんだ。
異世界に来て、セヨンさんに助けられて、私は頭のどこかで、信頼できる冒険者はセヨンさんだけだと、思い込んでいた。
でも、それは違ったんだ。
依頼をこなすだけじゃない。
飲んで騒いで、新人を気にしたり、先輩風を吹かせようとしたり、楽しそうに日々を過ごすのも、冒険者なんだ。
だから、喧嘩をしても笑い飛ばされるし、馬鹿なことをすれば野次られる。
信頼なんて重く考えない、軽い関係で、でもどこかちゃんと繋がっている。
冒険者という大きな仲間。
「これが冒険者……」
なんだか目の前のばか騒ぎが、妙に眩しく感じられた。
私もここに居ていいんだ。
異世界に来て、ふわふわとしていた私の居場所が、やっと決まったんだ。
「あはっ!」
知らず知らず、笑みが零れた。
「よっしゃー!! 私も混ぜろー!! ロジャーぶっ飛ばーす!」
だから、思いのままに、その中に飛び込んだ。
「ぎゃー! トンボの嬢ちゃんまで、来んじゃねー!」
「さんを付けろ、ロジャー! トンボさんだろー!」
「がっはっはっ! いいぞ、娘っ子!」
「やっちまえー! トンボちゃん!」
「トンボちゃんの参戦だ! オッズはどうなるんだ?!」
「「「「わはははっ!」」」」
私達のどんちゃん騒ぎは、依頼の報告をせずに騒いだ私が、セヨンさんに怒られるまで続いた。
セヨンさんが「トンボが、不良なった」とぼやいていたが、私は楽しかった。
久しぶりに、思いっきり笑った気がした。
ーーーーーーーーーー
ちょっと短め回でした。
書き留め分の進行で、そろそろ1章が終わるんですが、その後、2章を書きはじめるまで、別キャラ視点で外伝みたいなものを書こうかと思っております。ですが、誰を書くか悩んでいます。
まだ登場キャラは少ないですが、リクエストとかありませんかね?
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