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ハーレム作れば良いんじゃない?
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【テンクウノト・コウダイナダイチ・カミガミスムイダイナトチ・スバラシイショクブツトドウブツガクラスサイコウバショ・ユウシャハッショウノトチ・ユウシャノコキョウ】
シュピーン!
太陽に掲げられ光る名刺。
「勇者ハンターもといレッドデータ編集管理課長のラファエルなのだ。これ名刺。」
「えっあっはい。どうも。」
ラファエルに手渡された名刺を慌てて受けるとジェラードはそれをポケットにしまった。
「そもそも何で、どうして名刺を?、、勇者を探すのでは、、それに何でこんなに長い町に、、」
ラファエルはその言葉を聞くと腕を組んで、難しい顔をする。
「フム。そもそも、勇者捜索に限界を感じているのだ。我々はアグレッシブに動き過ぎたのではないのか?それだけ〈野生の勇者〉は警戒心が強いのだと考えたのだ!」
「?」
「おっと!野生の勇者が逃げてしまうのだ。大声は不味かったのだ。」
町中の人々の白い視線を〈言いたいことは分かってている〉と言いたげに受け止めつつ、ラファエルは説明しようと、ジェラードに耳打ちする。
ヒソヒソ。
「ここは勇者発祥の土地なのだ、勇者の伝説が始まった場所なら絶滅危惧種の勇者が沢山生息していてもおかしくはないのだ。」
ジェラードはこめかみをもみほぐす。
「生息って、勇者は野生動物なのですか?」
口をヘの字にして、「うむっ」とラファエルは鷹揚に頷く。
「全く見つからない真の勇者という存在。もう絶滅危惧種の野生動物といったカテゴリーでも構わないのだ。とにかく真の勇者が一匹も見付けられていない状態を打開しなければいけないのだ」
「は、、あ」
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レッドブック
【勇者】
哺乳類、ヒト科ヒト属ヒト。
形態・生態
雄・雌が確認されている。身長は5cmから数メートル。生命力の強さから体の一部(下半身の一部)で活動する個体もある。雑食または偏食、主に薬草、種やグミ、高級な霊薬を好む。人と同程度の知能がある?が言葉は「、、、」「はい/いいえ」など無口な表現が多く、自閉症の疑いがある。
魔王絶対倒すマン。魔王キラー。聖剣・伝説の武器防具に目がなく、金銀財宝を貯め込むドラゴン以上の蒐集癖がある個体も存在する。ドラ◯もんのポケットのような無尽蔵にものを入れられる袋をもっている。特技はパシリ。
生息域
とても幅広く生息可能。毒の沼地やトゲ床、マグマの中、バリアーの内部、巨大生物の胃袋、海中、空中、天空城、地下、魔界、異空間での目撃証言もある。
備考
習性として他人の敷地内に不法侵入し壺や宝箱やタンスを割る・開く。最近の勇者は一人旅をする硬派勇者より、冒険にそぐわない女性を連れた軟派なハーレム系勇者や転生系の勇者が多数存在するという。
↑
ピッ!
「ここなのだ!!」
ジェラードはラファエルが指差した先のレッドブックの端に目を向ける。
〈習性として壺や宝箱やタンスを割る・開く。〉
「それが、、?」
「フフフ。この町は性転換施設以外にも工芸品の壺を作る工房が沢山あるのだ。それらを買い占めて勇者を誘き寄せて餌にし、罠に掛ければ、簡単に勇者を大量に捕獲できるのだ。勇者ハント、略してユウハンなのだ。」
ラファエルは屈みクラウチングスタートの構えをする。
「ジェラードは勇者の好物のグミや薬草を道具屋で沢山買ってその中に入れるのだ、馬糞を入れるのも忘れるな。夕飯は勇者鍋なのだ~!!」
わははははっ。
ドドドドドド。
直ぐに目の前から消えたラファエル、ジェラードは呟く。
「、、ダジャレ、、まさか本当に食べる気?!、、食べちゃ駄目でしょ。」
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大きな屋敷の一室に高級ソファに座りながら、ラファエルは報告を待っていた。
「設置した罠はどうなっているのだ?」
「はい。先日約15箇所の空き地や通路に壺や宝箱を多数設置しました。が、しかし今だに勇者らしき者はおろかヒト一人空き地内に侵入した者はいません。どうやらユウシャノコキョウの人々は高い倫理観を持っているようです。」
「、、、いきなり壺を持ち上げて叩き割る人間はいなかった、ということなのか?」
「はい。(いきなり人様の家に入っての壺を叩き壊すって何処の◯チガイよ、いるわけないでしよーが。)」
「ムムム。やはり、一筋縄ではいかないのだ、、。もう少し勇者について分析するのだ!更なる専門家をここに招くのだ。」
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姓名占い師:ゾゾギ・ガガゴ
「アンタ、魔界に落ちるわよ。」
カッ。
【鋭い眼光ありがとうございます。今回の占う名前は~〈勇者〉です。では先生お願いします。】
「画数最悪ね。」
【成る程。ではどの様な性格・運命を背負っているのでしょうか。】
「これから晩年に掛けて勇者は大殺界にはいるわね、やることなすこと全て不幸の連続よ、改名するべきね。候補を考えてきたの。」
【えっもう??!他のとくちょ──
「先ず〈勇☆者〉よ。これは皆から人気が出る。」
【ですから特──
「次に〈ああああ〉。これはステータスが異常に高い。」
【ちょっ先生とく──
「〈えにく◯〉。これは〈ス◯エア〉より、金運が高い。」
【聞けよ──
「今は〈◯◯太郎〉とかも良いわね。派生で〈イキり◯◯太郎〉もあるけど、邪道ね。」
【ちょっと先生!!勇者の性格はどうなんですか!!】
「、、女好き何じゃない?多分男だし?多分成人だから、女を嫌いな男はいないわよね?」
【、、フワッとしてますね。つまり女好きと。】
「たぶんね。」
【成る程。それではこの辺で──
「他には〈ボロンゴ〉〈ゲレゲレ〉の2大派閥──
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「───という訳で勇者は女好きなのだ。」
「どの話の流れで女好きに?、、、(どこから毒電波受信してるの、この人?)」
「レッドブックにも女好きの記載はある、ここは後宮の様に美人を大量に雇って、勇者を女で誘き寄せるか。髪の毛サラサラ、胸ムチムチを大量に募集するのだ。」
*
*
【新装開店・酒場〈HEROホイホイ〉】
〈真の勇者であれば飲食、指名料金・チャージ料金・延長無料。なんなら持ち帰り可能。〉
だが訪れる客はいなかった。
「、、、女性が一人もいない、、?!」
ジェラードの呟きはもっともだった。
美女募集として集まったのは髭フサフサ、胸ムキムキな漢達だ。身長は高く最低でも180近くもあり、踊り子のような薄着で半裸に近い衣装を着ているため、良くて全員が同性愛者、悪ければ犯罪者予備軍に見えた。
「このユウシャノコキョウでは男は外で働き、女性は家事をするという〈ジェンダーフリー糞食らえ〉を推奨しているらしく。ムキムキマッチョなホルモンMAX漢だけが集まったのだ。」
「あああ、、不味いですよね。あそこの人髭生えてますし、下半身の膨らみが凄いことになってますよ。勇者が特殊な性癖の持ち主で無い限り、見た瞬間回れ右をして去っていきますよ。」
「ふふふ。」
ラファエルが不適な笑いを浮かべる。
「ここは性別変更で有名な都市だという事を忘れてないか。こんなことも有ろうかと、この【チントール】という吸引式の魔法薬を使用すれば12時間だけ、性別を女性にできるのだ。」
ラファエルはスプレー缶の様な魔法道具を懐から取り出す。かなりの量で、もしかしたら町中の魔法薬を集めたのかもしれない。
「そんな凄い薬が有るんですね。」
「うむ。合法な脱法ドラッグで白か黒かの境界は難しいが色的にはチャコールグレーなので安心して欲しいのだ。」
「、、、
、、矛盾、、矛盾しかない、、、、」
ジェラードが言葉を発する前にラファエルはチントールを素早くプシューと筋肉ムキムキな漢たちに嗅がせていく。
「あああ!最高!!」
「待ってましたぁ!」
「ウヒャヒャヒャヒャ!」
「これなしでは、はじまらな~い。」
「汚物は消毒だ~!ぼぉぁ。」
ジェラードは遠くを見る眼をしながらその光景を眺めた。
「これだけいれば、必ず勇者はノコノコとやって来るハズなのだ。そこを逃げられない様に一網打尽にすれば良いのだ。ふはははっ。」
仁王立ちをするラファエルの後ろには、先ほどまで筋肉ムキムキだった漢たちが華麗に美女に変身し、〈ラー○ン店主〉の様に腕組みをして立っていた。
「おに~さ~ん。」
美女と美少女のツーマンセルの客引きに男は立ち止まる。男は2人を値踏みした。一人は透明な顔立ちの美女、髪をポニーテールにして胸はかなり大きい。もう一人は活発そうな美少女で小麦色の肌が印象的だ。
重要なのは服装、半裸に近い格好。男の欲望を刺激するには十分だった。しかし、直ぐさま客引きに付いていくのはカッコ悪い、なのでこの場所で数十回言われた、お決まりの台詞を口にする。
「いかんな。女がそんな格好をするとは、はしたないぞ。しかもこんな店で働くとは両親が悲しむ。」
「よよよ、すいません。しかし、父は病に伏し私どもの家は貧しく、こうして我々自身が日銭を稼がなければいけない日々を送っております。」
「そっそうか、それは大変だな。分かった、俺が力になろう、店は何処だ。」
「あそこでございます。」
酒場〈HEROホイホイ〉に入店する。
ロビーの様な部屋の中央にはスポットライトに照らし出されている剣が地面に突き刺さっていた。剣の隣には燕尾服を着た男が立っている、そして左右にはギャラリーの美女たちが部屋の隅に立ち並んでいた。
「いらっしゃい、なのだ。ドルルルルルジャン、それでは勇者チャレンジなのだ!」
「、、勇者チャレンジ?」
「勇者の──、勇者の為の──、勇者であるという演出──。勇者で有ることの証明を見せて欲しいのだ。簡単にいえばこの剣を抜ければ、はれて〈真の勇者・年間無料パスポート〉を贈呈するのだ。」
「、、床に仕掛けがあるようだが、、」
男は床の部分をコツコツと足先で叩いた。
「手間なので下は休憩所なのだ。即落ちオーケーなのだ。」
「つまり、いきなり本番オーケーということか?!」
「本番?いつだって本番なのだ。すぐにベッドインなのだ。」
「すぐにベットイン!!!ムホホ、フーフーフー、嫌いじゃないぜ、こういう下品な店もよ!」
「それでは張り切ってスタート!」
「おうともよ!!」
話が噛み合わないが、いきなりやる気になった男性客は鼻息を荒くして聖剣の柄を握った。
バルリリ。
「アバババ!」
ドタン。ぶっ倒れる男。
「お客様、ご休憩なのだ~。」
ガコン。
また一人失神した男性が奈落に落ちたのだった。
ヒューン。
*
*
「やはり、聖剣を扱える真の勇者は現れないのだ。」
休憩所がいっぱいになってしまった酒場でラファエルは頭を悩ませる。
「このままではいつもとパターンで同じように失敗するのだ。」
ユウシャノコキョウの男は確かに素質としては平均を大きく上回っているのだがそれでも聖剣を抜けるものは現れない。ラファエルは聖剣に向かって話しかけた。
「まったく面倒な奴なのだ、選り好みをしているとその内勇者が見つかる前に魔王に世界が支配されてしまうぞ。」
そもそも本当に聖剣を扱える勇者は存在するのか?ラファエルの中に疑念が芽生える。
しかしその考えは店員の言葉で霧散する。
「あ、、あれは!伝説の漢!!」
「ムムっ?!」
「滅亡した王国の王で通常攻撃が二回、そして無制限に回復魔法を唱えられると噂される〈パパッス〉さん!」
パパッスは口髭を蓄えた筋肉隆々の鋭い眼光の漢だった、彼の周囲には人だかりが出来、如何にも勇者らしい人物だった。優秀な店員達はすかさず呼び込みを開始する。
「ぱっ、、パパッスさん、あの~うちの店で飲んでいかれませんか?地面に聖刺さった剣が抜けたら無料なんですよ~。」
「聖剣?なんの事だ?邪魔だ。この最強の俺をそんなもので試そうなどと片腹痛いわ。」
いきなり現れた美女に顔を赤くするが、パパッスは無視して通りすぎようとする。それをラファエルは店の壁に背中を預けながらパパッスをせせら笑った。
「ふふふ、〈パパッス〉といったか?店にあるのは〈真の勇者〉にしか抜けない聖剣なのだ。だがやめておくのだ、パパッスに抜けるとは思えないのだ。それともパパッスは試練をやる度胸はあるのか?恥をかくだけなのだ。」
「このユウシャコキョウで一番の強者の俺をコケにしているのか?やっても良いが条件を付けよう、抜けた場合はこの店を貰う。おっと、店と言っても建物じゃなく店員を含めた全てだ。今なら許してやる、土下座しろ小僧。」
ただならぬ雰囲気を纏ったパパッスに周りにいる人間は恐怖のあまり身を震わせるが、ラファエルは動じない。
「構わないのだ(ニッコリ)。」
「?えっいいの?!」
あまりに素早い返事にパパッスは驚く。だがさらに彼は条件を付けた。
「ふふっ条件が低すぎたな、、なら抜けた場合貴様の命を貰う。この俺を怒らせたんだ、そのぐらいは当然だ。怖いか?怖いだろう?怖いよな?この筋肉見ろよ、キレてるだろ?キレッキレの筋肉で殴られたら痛いぞぉ~。」
「構わないのだ(ニッコリ)」
「あわわ、くそ何だ。何なんだ。」
混乱するパパッス。ラファエルはスススッとパパッスに近付くと手にした壺をパパッスに握らせた。
パパッスはその行動に唖然としたが、みるみる怒りが頂点に達し、壺を地面に叩き付けた!
ガシャン!
「何だこの壺は~!!!」
パチパチパチ。
「お~、壺を叩き割ったのだ、見るのだジェラードこれは期待が高まるのだ。」
「まぁ叩き割りましたけれども、けれどもね~。」
店内に招かれるパパッス。
中央に置かれた聖剣を見る。その聖剣は古めかしいがまさしく聖剣に相応しいオーラを放っていた。間違いなく本物だった。
もし抜けずに失敗したら、皆が何というだろうとパパッスは不安になった。
「イタタ、腹が腹が痛くなってきたな。今日は日が悪いな、ちょっと外に──」
「待つのだ」
ガシッ。
肩を異様な力で押さえ付けられる。逃げられない、パパッスがどんなに力を込めてもまるで枷の様に外せないラファエルの手。脂汗がパパッスの顔をつたう。ラファエルがまるで怪談を語る様に薄暗く静かに耳元で囁く。ラファエルの顔が怖い。
「大丈夫なのだ。違ってもちょっと、落雷に撃たれる程度ですむのだ~。」
「あの~、、いゃ、実はぁ噂の内容は私が広めた嘘でして~、体格と威勢が良いだけの一般人なんです~。」
「、、、自信を持つのだ。自分と私が信じるレッドブックと自分のキレッキレの筋肉を信じるのだ。」
「いやぁ~、意味が分からない!!」
バリバリバリ。
「いやぁ~~!!」
酒場〈HEROホイホイ〉の外にまでパパッスの悲鳴は響き渡ったのだった。
*******************
酒場〈HEROホイホイ〉建設・設備費用。
30,850,000ピコ
人件費。
820,000ピコ
治療費。
1,000,500ピコ
(パパッス要介護につきムキムキの男に戻った店員に付きっきり介護。)
シュピーン!
太陽に掲げられ光る名刺。
「勇者ハンターもといレッドデータ編集管理課長のラファエルなのだ。これ名刺。」
「えっあっはい。どうも。」
ラファエルに手渡された名刺を慌てて受けるとジェラードはそれをポケットにしまった。
「そもそも何で、どうして名刺を?、、勇者を探すのでは、、それに何でこんなに長い町に、、」
ラファエルはその言葉を聞くと腕を組んで、難しい顔をする。
「フム。そもそも、勇者捜索に限界を感じているのだ。我々はアグレッシブに動き過ぎたのではないのか?それだけ〈野生の勇者〉は警戒心が強いのだと考えたのだ!」
「?」
「おっと!野生の勇者が逃げてしまうのだ。大声は不味かったのだ。」
町中の人々の白い視線を〈言いたいことは分かってている〉と言いたげに受け止めつつ、ラファエルは説明しようと、ジェラードに耳打ちする。
ヒソヒソ。
「ここは勇者発祥の土地なのだ、勇者の伝説が始まった場所なら絶滅危惧種の勇者が沢山生息していてもおかしくはないのだ。」
ジェラードはこめかみをもみほぐす。
「生息って、勇者は野生動物なのですか?」
口をヘの字にして、「うむっ」とラファエルは鷹揚に頷く。
「全く見つからない真の勇者という存在。もう絶滅危惧種の野生動物といったカテゴリーでも構わないのだ。とにかく真の勇者が一匹も見付けられていない状態を打開しなければいけないのだ」
「は、、あ」
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レッドブック
【勇者】
哺乳類、ヒト科ヒト属ヒト。
形態・生態
雄・雌が確認されている。身長は5cmから数メートル。生命力の強さから体の一部(下半身の一部)で活動する個体もある。雑食または偏食、主に薬草、種やグミ、高級な霊薬を好む。人と同程度の知能がある?が言葉は「、、、」「はい/いいえ」など無口な表現が多く、自閉症の疑いがある。
魔王絶対倒すマン。魔王キラー。聖剣・伝説の武器防具に目がなく、金銀財宝を貯め込むドラゴン以上の蒐集癖がある個体も存在する。ドラ◯もんのポケットのような無尽蔵にものを入れられる袋をもっている。特技はパシリ。
生息域
とても幅広く生息可能。毒の沼地やトゲ床、マグマの中、バリアーの内部、巨大生物の胃袋、海中、空中、天空城、地下、魔界、異空間での目撃証言もある。
備考
習性として他人の敷地内に不法侵入し壺や宝箱やタンスを割る・開く。最近の勇者は一人旅をする硬派勇者より、冒険にそぐわない女性を連れた軟派なハーレム系勇者や転生系の勇者が多数存在するという。
↑
ピッ!
「ここなのだ!!」
ジェラードはラファエルが指差した先のレッドブックの端に目を向ける。
〈習性として壺や宝箱やタンスを割る・開く。〉
「それが、、?」
「フフフ。この町は性転換施設以外にも工芸品の壺を作る工房が沢山あるのだ。それらを買い占めて勇者を誘き寄せて餌にし、罠に掛ければ、簡単に勇者を大量に捕獲できるのだ。勇者ハント、略してユウハンなのだ。」
ラファエルは屈みクラウチングスタートの構えをする。
「ジェラードは勇者の好物のグミや薬草を道具屋で沢山買ってその中に入れるのだ、馬糞を入れるのも忘れるな。夕飯は勇者鍋なのだ~!!」
わははははっ。
ドドドドドド。
直ぐに目の前から消えたラファエル、ジェラードは呟く。
「、、ダジャレ、、まさか本当に食べる気?!、、食べちゃ駄目でしょ。」
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大きな屋敷の一室に高級ソファに座りながら、ラファエルは報告を待っていた。
「設置した罠はどうなっているのだ?」
「はい。先日約15箇所の空き地や通路に壺や宝箱を多数設置しました。が、しかし今だに勇者らしき者はおろかヒト一人空き地内に侵入した者はいません。どうやらユウシャノコキョウの人々は高い倫理観を持っているようです。」
「、、、いきなり壺を持ち上げて叩き割る人間はいなかった、ということなのか?」
「はい。(いきなり人様の家に入っての壺を叩き壊すって何処の◯チガイよ、いるわけないでしよーが。)」
「ムムム。やはり、一筋縄ではいかないのだ、、。もう少し勇者について分析するのだ!更なる専門家をここに招くのだ。」
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姓名占い師:ゾゾギ・ガガゴ
「アンタ、魔界に落ちるわよ。」
カッ。
【鋭い眼光ありがとうございます。今回の占う名前は~〈勇者〉です。では先生お願いします。】
「画数最悪ね。」
【成る程。ではどの様な性格・運命を背負っているのでしょうか。】
「これから晩年に掛けて勇者は大殺界にはいるわね、やることなすこと全て不幸の連続よ、改名するべきね。候補を考えてきたの。」
【えっもう??!他のとくちょ──
「先ず〈勇☆者〉よ。これは皆から人気が出る。」
【ですから特──
「次に〈ああああ〉。これはステータスが異常に高い。」
【ちょっ先生とく──
「〈えにく◯〉。これは〈ス◯エア〉より、金運が高い。」
【聞けよ──
「今は〈◯◯太郎〉とかも良いわね。派生で〈イキり◯◯太郎〉もあるけど、邪道ね。」
【ちょっと先生!!勇者の性格はどうなんですか!!】
「、、女好き何じゃない?多分男だし?多分成人だから、女を嫌いな男はいないわよね?」
【、、フワッとしてますね。つまり女好きと。】
「たぶんね。」
【成る程。それではこの辺で──
「他には〈ボロンゴ〉〈ゲレゲレ〉の2大派閥──
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
「───という訳で勇者は女好きなのだ。」
「どの話の流れで女好きに?、、、(どこから毒電波受信してるの、この人?)」
「レッドブックにも女好きの記載はある、ここは後宮の様に美人を大量に雇って、勇者を女で誘き寄せるか。髪の毛サラサラ、胸ムチムチを大量に募集するのだ。」
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【新装開店・酒場〈HEROホイホイ〉】
〈真の勇者であれば飲食、指名料金・チャージ料金・延長無料。なんなら持ち帰り可能。〉
だが訪れる客はいなかった。
「、、、女性が一人もいない、、?!」
ジェラードの呟きはもっともだった。
美女募集として集まったのは髭フサフサ、胸ムキムキな漢達だ。身長は高く最低でも180近くもあり、踊り子のような薄着で半裸に近い衣装を着ているため、良くて全員が同性愛者、悪ければ犯罪者予備軍に見えた。
「このユウシャノコキョウでは男は外で働き、女性は家事をするという〈ジェンダーフリー糞食らえ〉を推奨しているらしく。ムキムキマッチョなホルモンMAX漢だけが集まったのだ。」
「あああ、、不味いですよね。あそこの人髭生えてますし、下半身の膨らみが凄いことになってますよ。勇者が特殊な性癖の持ち主で無い限り、見た瞬間回れ右をして去っていきますよ。」
「ふふふ。」
ラファエルが不適な笑いを浮かべる。
「ここは性別変更で有名な都市だという事を忘れてないか。こんなことも有ろうかと、この【チントール】という吸引式の魔法薬を使用すれば12時間だけ、性別を女性にできるのだ。」
ラファエルはスプレー缶の様な魔法道具を懐から取り出す。かなりの量で、もしかしたら町中の魔法薬を集めたのかもしれない。
「そんな凄い薬が有るんですね。」
「うむ。合法な脱法ドラッグで白か黒かの境界は難しいが色的にはチャコールグレーなので安心して欲しいのだ。」
「、、、
、、矛盾、、矛盾しかない、、、、」
ジェラードが言葉を発する前にラファエルはチントールを素早くプシューと筋肉ムキムキな漢たちに嗅がせていく。
「あああ!最高!!」
「待ってましたぁ!」
「ウヒャヒャヒャヒャ!」
「これなしでは、はじまらな~い。」
「汚物は消毒だ~!ぼぉぁ。」
ジェラードは遠くを見る眼をしながらその光景を眺めた。
「これだけいれば、必ず勇者はノコノコとやって来るハズなのだ。そこを逃げられない様に一網打尽にすれば良いのだ。ふはははっ。」
仁王立ちをするラファエルの後ろには、先ほどまで筋肉ムキムキだった漢たちが華麗に美女に変身し、〈ラー○ン店主〉の様に腕組みをして立っていた。
「おに~さ~ん。」
美女と美少女のツーマンセルの客引きに男は立ち止まる。男は2人を値踏みした。一人は透明な顔立ちの美女、髪をポニーテールにして胸はかなり大きい。もう一人は活発そうな美少女で小麦色の肌が印象的だ。
重要なのは服装、半裸に近い格好。男の欲望を刺激するには十分だった。しかし、直ぐさま客引きに付いていくのはカッコ悪い、なのでこの場所で数十回言われた、お決まりの台詞を口にする。
「いかんな。女がそんな格好をするとは、はしたないぞ。しかもこんな店で働くとは両親が悲しむ。」
「よよよ、すいません。しかし、父は病に伏し私どもの家は貧しく、こうして我々自身が日銭を稼がなければいけない日々を送っております。」
「そっそうか、それは大変だな。分かった、俺が力になろう、店は何処だ。」
「あそこでございます。」
酒場〈HEROホイホイ〉に入店する。
ロビーの様な部屋の中央にはスポットライトに照らし出されている剣が地面に突き刺さっていた。剣の隣には燕尾服を着た男が立っている、そして左右にはギャラリーの美女たちが部屋の隅に立ち並んでいた。
「いらっしゃい、なのだ。ドルルルルルジャン、それでは勇者チャレンジなのだ!」
「、、勇者チャレンジ?」
「勇者の──、勇者の為の──、勇者であるという演出──。勇者で有ることの証明を見せて欲しいのだ。簡単にいえばこの剣を抜ければ、はれて〈真の勇者・年間無料パスポート〉を贈呈するのだ。」
「、、床に仕掛けがあるようだが、、」
男は床の部分をコツコツと足先で叩いた。
「手間なので下は休憩所なのだ。即落ちオーケーなのだ。」
「つまり、いきなり本番オーケーということか?!」
「本番?いつだって本番なのだ。すぐにベッドインなのだ。」
「すぐにベットイン!!!ムホホ、フーフーフー、嫌いじゃないぜ、こういう下品な店もよ!」
「それでは張り切ってスタート!」
「おうともよ!!」
話が噛み合わないが、いきなりやる気になった男性客は鼻息を荒くして聖剣の柄を握った。
バルリリ。
「アバババ!」
ドタン。ぶっ倒れる男。
「お客様、ご休憩なのだ~。」
ガコン。
また一人失神した男性が奈落に落ちたのだった。
ヒューン。
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「やはり、聖剣を扱える真の勇者は現れないのだ。」
休憩所がいっぱいになってしまった酒場でラファエルは頭を悩ませる。
「このままではいつもとパターンで同じように失敗するのだ。」
ユウシャノコキョウの男は確かに素質としては平均を大きく上回っているのだがそれでも聖剣を抜けるものは現れない。ラファエルは聖剣に向かって話しかけた。
「まったく面倒な奴なのだ、選り好みをしているとその内勇者が見つかる前に魔王に世界が支配されてしまうぞ。」
そもそも本当に聖剣を扱える勇者は存在するのか?ラファエルの中に疑念が芽生える。
しかしその考えは店員の言葉で霧散する。
「あ、、あれは!伝説の漢!!」
「ムムっ?!」
「滅亡した王国の王で通常攻撃が二回、そして無制限に回復魔法を唱えられると噂される〈パパッス〉さん!」
パパッスは口髭を蓄えた筋肉隆々の鋭い眼光の漢だった、彼の周囲には人だかりが出来、如何にも勇者らしい人物だった。優秀な店員達はすかさず呼び込みを開始する。
「ぱっ、、パパッスさん、あの~うちの店で飲んでいかれませんか?地面に聖刺さった剣が抜けたら無料なんですよ~。」
「聖剣?なんの事だ?邪魔だ。この最強の俺をそんなもので試そうなどと片腹痛いわ。」
いきなり現れた美女に顔を赤くするが、パパッスは無視して通りすぎようとする。それをラファエルは店の壁に背中を預けながらパパッスをせせら笑った。
「ふふふ、〈パパッス〉といったか?店にあるのは〈真の勇者〉にしか抜けない聖剣なのだ。だがやめておくのだ、パパッスに抜けるとは思えないのだ。それともパパッスは試練をやる度胸はあるのか?恥をかくだけなのだ。」
「このユウシャコキョウで一番の強者の俺をコケにしているのか?やっても良いが条件を付けよう、抜けた場合はこの店を貰う。おっと、店と言っても建物じゃなく店員を含めた全てだ。今なら許してやる、土下座しろ小僧。」
ただならぬ雰囲気を纏ったパパッスに周りにいる人間は恐怖のあまり身を震わせるが、ラファエルは動じない。
「構わないのだ(ニッコリ)。」
「?えっいいの?!」
あまりに素早い返事にパパッスは驚く。だがさらに彼は条件を付けた。
「ふふっ条件が低すぎたな、、なら抜けた場合貴様の命を貰う。この俺を怒らせたんだ、そのぐらいは当然だ。怖いか?怖いだろう?怖いよな?この筋肉見ろよ、キレてるだろ?キレッキレの筋肉で殴られたら痛いぞぉ~。」
「構わないのだ(ニッコリ)」
「あわわ、くそ何だ。何なんだ。」
混乱するパパッス。ラファエルはスススッとパパッスに近付くと手にした壺をパパッスに握らせた。
パパッスはその行動に唖然としたが、みるみる怒りが頂点に達し、壺を地面に叩き付けた!
ガシャン!
「何だこの壺は~!!!」
パチパチパチ。
「お~、壺を叩き割ったのだ、見るのだジェラードこれは期待が高まるのだ。」
「まぁ叩き割りましたけれども、けれどもね~。」
店内に招かれるパパッス。
中央に置かれた聖剣を見る。その聖剣は古めかしいがまさしく聖剣に相応しいオーラを放っていた。間違いなく本物だった。
もし抜けずに失敗したら、皆が何というだろうとパパッスは不安になった。
「イタタ、腹が腹が痛くなってきたな。今日は日が悪いな、ちょっと外に──」
「待つのだ」
ガシッ。
肩を異様な力で押さえ付けられる。逃げられない、パパッスがどんなに力を込めてもまるで枷の様に外せないラファエルの手。脂汗がパパッスの顔をつたう。ラファエルがまるで怪談を語る様に薄暗く静かに耳元で囁く。ラファエルの顔が怖い。
「大丈夫なのだ。違ってもちょっと、落雷に撃たれる程度ですむのだ~。」
「あの~、、いゃ、実はぁ噂の内容は私が広めた嘘でして~、体格と威勢が良いだけの一般人なんです~。」
「、、、自信を持つのだ。自分と私が信じるレッドブックと自分のキレッキレの筋肉を信じるのだ。」
「いやぁ~、意味が分からない!!」
バリバリバリ。
「いやぁ~~!!」
酒場〈HEROホイホイ〉の外にまでパパッスの悲鳴は響き渡ったのだった。
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酒場〈HEROホイホイ〉建設・設備費用。
30,850,000ピコ
人件費。
820,000ピコ
治療費。
1,000,500ピコ
(パパッス要介護につきムキムキの男に戻った店員に付きっきり介護。)
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