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Lesson2 嫉妬は静かに、夜を焦がす
しおりを挟むタクシーの中、隣に座るレオがみのるの手を強く握った。
「今日は迎え行くからな? ちゃんと一緒に帰ろうな。店で待ってろ」
「……うん」
降り際、CLUB・Aの前でレオは不意に優しい笑みを見せ、頬に軽くキスを落とす。
「じゃあ、あとでな」
「またあとで」
その光景を、歩道を歩くリツが目にしていた。
(……いいよな。幸せそうで)
笑顔の裏で小さく溜め込む劣等感。
みのるは慌ててシャツのボタンを確認する。
鎖骨に刻まれた赤いキスマークが覗かないように――。
「みのるー!」
リツが笑顔で駆け寄ってくる。
「おはよ!」
「おはよ!」
リツはじっとみのるを見て、口角を上げた。
「今日は青のコンタクトか。雰囲気変わるな。……ネックレスも可愛いじゃん」
「え、あ、ありがと……」
「プレゼントってさ、客からもらうこと多いだろ? 何が多いの?」
「んー? たまにだよ?香水。シルバーのバングルとか。ほら、これもそう。……男の人からもらうとさすがにビックリするけどね」
「ふーん……いいね」
リツの瞳が一瞬だけ揺れ、笑顔のまま視線を落とす。
そこへレンジが通りかかる。
「おい、そこのチビ、道塞ぐな」
「……ッ!? ひどくないですか!?」リツが声を荒げる。
レンジは無言のまま通り過ぎ、ちらりとみのるに視線を送った。
「……おはよう」
「おはようございます……(レンジさん、やっぱり掴めない人だ)」
「おはよ、みんな。今日はマサキはAに行ってるから」リュウが淡々と声をかける。
「え~マサキいないの? つまんない!」
青髪をピンで留めたレモンがソファに腰をかけ、唇を尖らせる。
「どうしてつまんないんだい?」
「だって、俺のこと嫌ってるっしょ? ああいう真面目な奴ほど、いじるとゾクゾクすんだよね~」
「……やめなさい」リュウが眼鏡越しに冷たい視線を送る。
みのるは吹き出して笑った。
「レモン、また変なこと言ってる」
「だって本当だもん。みのちゃんは俺のこと嫌わないでね?」
「はいはい……(こいつほんと変態だ)」
21時。
店内は笑い声とグラスの音で賑やかに満ちていた。
本木が控えめに声をかける。
「みのるくん、2番テーブル指名。カクテルのオーダーもらってきて」
「はーい!」
駆け足で向かうみのる。
「はじめまして!」
「キャァ~可愛い!色白!」
「そんなに褒められたら照れちゃうなぁ。何飲みます?」
客席から笑い声と弾んだ声が溢れる。
みのるは相変わらずの人気で、空気ごと華やがせていた。
カウンター。
レモンは常連とふざけ合い、レンジは下ネタで男性客と大盛り上がり。
リュウとリツはカウンター内でグラスを拭いていた。
「……今日もまぁまぁ忙しいな」リュウが低く呟く。
「本当っすね。男の客も増えて、新鮮っすよ」リツが頷いた、そのとき――
「よぉ」
低い声が背後から響いた。
振り返ると、そこにレオ。
「……どうした、急に」リュウが声を落とす。
「みのるに会いに来た。どこだ?」
「今、客についてる」
「……タイミング悪かったな」
その場に微妙な沈黙が落ちる。
リツが笑顔で口を開いた。
「でもみのる、めちゃくちゃモテてますよ? 差し入れも毎回のようにもらって。男からも可愛いって、よく言われてるんです」
口調は軽い。けれど目の奥には滲むような嫉妬が見えていた。
笑顔で口にしながら――リツの胸の奥ではざらついた感情が蠢いていた。
(……なんでだ。俺だって笑顔ぐらい作れる。接客も悪くないはずなのに……)
目の端で、客に囲まれて輝くみのるが映る。
眩しさに目を細めながら、ふっと横目に視線を落とした。
(羨ましい。嫉妬なんてしたくないのに。……でも、止まらない)
「へぇ……」
レオの瞳が細くなる。低く呟いた声には鋭さが滲んでいた。
カウンターの端でレモンが、向こうからじっとリツを見ていた。
「……まぁ」にやりと笑う。
「俺が見てるかぎり、そういう可愛さは……誰にでも見せてるわけじゃないけどな」
リツの顔色がわずかに揺らぐ。
レオは何も言わず、無言のまま踵を返した。
「……あとで迎えに来る」
背中が消えていくまで、カウンター内の空気は張り詰めたまま。
リュウは深く息を吐き、グラスを拭く手を止めなかった。
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