誰よりも優しく抱いたのに、その優しさが君を傷つけた

氷月

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Lesson12 あの夜だけ、心が揺れた

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──朝。

カーテンの隙間から、初夏の光が差し込んでいた。

隣にはレオ。いつものように腕枕のまま眠っている。

その腕の重みが、日常の印。

香りはほんのりとしたレオの甘い香水。

(やっぱり落ち着くな……)

みのるは静かに目を閉じる。

レオの腕が動き、ふと後ろから抱きしめられた。

何も言わずに、ただ温もりだけが伝わる。

(僕には、やっぱり和希がいいのかな……

リュウは僕を終わった遊びって言っていた。

それでも、好きーーー

──夜。

CLUB A、21時。

照明が落ち、フロアのシャンデリアの光を帯びる。

支配人が駆け寄ってくる。

「レオさん、来栖さんが来てます」

「……来栖が?」

フロア死角の場所ー


「レオ、久しぶり~。お願いがあるの。リツをうちでもらえない?」

「リツ?」

「ひとり体調不良で入院したの。戻れそうにないのよ」(僕がリツを面倒見たいのよ)

「いちごをこっちにヘルプで移籍させたし、

リツはCloverとこっちとの行き来させていたからな……Nightにか…。まぁ、いいよ」

「ありがと。いちご、すごいでしょ?」
(あら、随分と素直ね…)

「……あぁ、人気だな。しかも綺麗だ」

「惚れちゃダメよ? あの子、見た目と違って根は真面目なんだから」

「綺麗だけど、惚れねぇよ」

そう言いながらも、レオの目は自然とフロアへ向かう。

照明の光の下で笑ういちご。

その笑顔が、眩しくて。

(……いい顔だ。誰もが惹かれてしまう)

──23時。

フロアを歩くいちごに、レオは声をかけた。

「いちご、今日終わったら、飲みに行かないか?」

「どういうつもりですか? まぁ、いいですけど」

──深夜1時、BAR karin。

「いらっしゃい」

マスターの声が響く。

「こっちだ」

いちごがカウンター席に座る。

「何飲む?」

「ビール、ください」

「マスター、ビールを二つ」

カチン、と乾杯の音が響いた。

レオはグラス越しにいちごを見つめる。

「……なんですか? 俺、男には興味ないですよ」

苦笑しながらビールを口にする。

「ハッキリ言うな、おまえ」

「本音です」

少し沈黙が流れ、氷の音だけが響く。

「Nightに比べて、Aはどうだ?」

「Aは年齢層が高くて、堅い感じですね。

Nightは若さがあるし、勢いも違う」

「なるほど」

レオは短く相槌を打つ。

(この子の言葉には、計算がない。だから心に刺さる)

「働きやすさで言えばNightかAliceです。

Aliceはキャストは十人だけど、Nightは二十五人。

でも、人数が多ければいいってもんじゃないですよ」

「なるほどな……」

(多ければいいわけじゃない…

……まるで人間関係そのものだな)

「恋人は?」

「いましたけど、泣かせました。別れましたね」

軽く笑いながらも、

その瞳の奥には寂しさが潜んでいた。

「この仕事してると、どれが本当の愛かわからなくなる」

思わずこぼした言葉。

いちごは少し間を置いて、静かに返す。

「……難しいですよね。

信用がなければ、一緒にいても辛いだけです」

その言葉に、レオの胸が少しだけ鳴った。

「別れたらいいってことか?」

「そうですかねぇ…」

淡々としているのに、不思議と優しい声だった。

レオは息を吸い、苦笑する。

「……まっすぐだな。おまえ」

「曲がってたら、ホスト続けてられませんよ」

ビールの泡が静かに消えていく。

光がその横顔を縁取る。

(綺麗だ。触れたら壊れそうなくらい、
儚い)

その夜、レオは帰り道の街灯が、

いちごの笑顔を何度も思い出させた。


続くー
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