誰よりも優しく抱いたのに、その優しさが君を傷つけた

氷月

文字の大きさ
17 / 24

Lesson 14 好きじゃなくなった、それだけ

しおりを挟む
──正午。

部屋に差し込む光の中で、みのるはスマホを握りしめていた。

(なんで返事くれないんだよ、リュウ……)

既読がつかないまま、時間だけが過ぎていく。

「みのる、話があるんだけど」

レオの声は低く落ち着いていた。

「なに?」

「……俺たち、別れないか?」

時間が止まる。

「え?」

心臓が、ひとつ大きく跳ねた。

半年いたんだよー…。

喧嘩も少なかった。笑って過ごした夜も、確かにあった。

それなのに、何故?

「仕事も忙しいし……わからなくなった」

レオは視線を逸らす。

「おまえを縛れば縛るほど、自分がわからなくなる」

「……ひどいよ、和希」

声が震える。

「ちょっと頭を冷やしたいんだよ。

今の俺じゃ、おまえを大事にできない。ごめんな」

沈黙が落ちた。

「……好きな人できた?」

レオの中に、一瞬だけいちごの笑顔が浮かんだ。

「そんなんじゃねぇよ」

みのるは唇を噛みしめ、何も言わずに部屋を出た。

一時間後。

リュウはシャワーを浴び、上半身裸のまま髪を拭いていた。

(また会いたいな、あの子に……)

昨日のムギの笑顔がふっと浮かぶ。

(来週、また会いに行ってみようか)

グラスに水を注ぎ、一口飲んだ瞬間──ピンポン、とインターホン。

「はいはい……」

ドアを開けると、みのるが立っていた。

「……なんで?」

開けてしまった……

「入れて?」

リュウはタオルを肩にかけたまま眉を上げた。

「リュウ……僕、レオと別れた!」

「は?なんで?」

「振られた。好きな人できたかも、だって」

(やっぱりな。レオの悪い癖だ)

「アパート引き払ったし、家見つかるまで住まわせて?」

「はぁ……」

リュウは頭を掻く。

(男と住む?冗談じゃねぇ。無理だ。一度抱いた、それで終わりのつもりだったのに。無理だ)

「見つかり次第、すぐ出ていく!お願い!」

みのるの声は必死だった。

「……わかったよ」

「ありがとう、リュウ」

抱きつかれた体温が、心に刺さる。

(やった、って顔してんな……。何考えてんだ)

昨日見たムギの笑顔が一瞬よぎる。

(……クソっ。レオのやつ)

スマホを取り、メッセージを打つ。

《レオ、話がある。仕事終わったらBAR karinに来い》

──深夜1時。

BAR karin。

カウンターの光の下で、レオが待っていた。

「よぅ」

「よぅ、じゃねぇよ」

リュウの声は抑えきれない怒りを帯びていた。

「マスター、ビール」

二つのグラスが並ぶ。

「何そんな熱くなってんの?」

「おまえふざけてんのか?みのるを振っただろ」

「飽きたんだよ」

レオは視線を落とす。

「縛るだけ縛って、自分に疲れた」

「冷たすぎるだろ。好きなやつでもできたのか?」

「……どうかな」

沈黙。

氷がカラン、と音を立てる。

「そんなんで終わらせて、おまえ後悔しねぇのか?」

「たぶん、もう疲れたんだよ」

レオの声は静かだった。

「……それでか。あいつ、俺んとこ来たぞ。家見つかるまで住ませてくれって」

レオは眉をひそめる。

「は?あいつ、金ないのか?ひとりでの生活できるくらい余裕で貰ってるだろ」

「そうだ。けど、あいつの金額では、高層マンションには住めねぇよ。おまえといた頃が、贅沢すぎたんだ」

レオは遠くのボトル棚を見つめた。

「……人って、慣れるんだな。贅沢にも、愛にも」

リュウはグラスを握りながら、目を伏せる。

(愛されることに慣れた人間は、愛し方を忘れる)

店内に流れるBGMが、やけに現実的に響いた。

続くー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

息の仕方を教えてよ。

15
BL
コポコポ、コポコポ。 海の中から空を見上げる。 ああ、やっと終わるんだと思っていた。 人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。 そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。 いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚? そんなことを沈みながら考えていた。 そしてそのまま目を閉じる。 次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。 話自体は書き終えています。 12日まで一日一話短いですが更新されます。 ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

処理中です...