ふたりの魔法は憎しみでしか発動しない—アラブとユダヤの魔法陣。世界を”救う”には残念ながらキスが必要らしい

霧人 イスラエル・ハイム

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博士が持ってきた“禁じられた欠片”

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いつもの境界線近くの廃墟になったバス停。

リナとレイラは透明のまま、
光の手錠で繋がれたまま、
ベンチに座ってぼーっと空を見上げていた。

すると、地面がゴロゴロ鳴り始めて、
コンクリートが盛り上がり、
いつものボサボサ頭のアリ・コーヘン博士が、
大きな黒いケースを抱えて現れた。

「やあ! 待たせたね!」

博士はケースを地面にドスンと置くと、
鍵を三つも開けて、
中から取り出したのは、
手のひらサイズの、
完全に黒い、

「石の欠片」みたいなもの。

でも普通じゃない。

見ているだけで頭がクラクラする。

まるで「穴が開いた夜空」を切り取ったみたいに、
光がまったく反射しない。

周りの景色が少し歪んで見える。

リナが思わず呟くねる。

「……なにそれ、気持ち悪い」

レイラも顔をしかめる。

「近づけたくない……」

博士は目をキラキラさせながら、
でも声だけは真剣に言った。

「これ、“虚無の欠片(ヴォイド・フラグメント)”
 3000年前、カナンの最後の巫女が
 “世界が本当に終わるときにだけ使う”って言って
 護符と一緒に封印したもう一つの石なんだ」
博士は欠片を二人に見せびらかすように掲げた。

「青と赤の石が“救う力”なら、
 これは“終わらせる力”。
 触れた瞬間、世界が文字通り消えるって伝説がある」

二人が同時に後ずさる。

「ちょ、持ってくるなよ!」
博士はニヤリと笑って、
欠片をケースに戻しながら言った。

「安心して。
 まだ“鍵”が揃ってないから発動しないよ。
 でもね、最近、世界のどこかで
 この欠片と同じ黒い影が現れ始めてるって報告が……」

そのとき、
遠くの空が一瞬だけ真っ黒に染まった。

虹色の魚たちが慌てて逃げるように泳ぎ去る。
博士は急に真顔になって、
二人にケースを差し出した。

「だから、これを預かってほしい。
 君たち以外に持てる人、いないから」

リナとレイラは顔を見合わせて、
同時に叫んだ。

「「いらない!!」」

でも博士はもう穴に潜りながら、
手を振って消えていった。

「じゃあね! 捨てないでね!
 捨てたら本当に世界終わるから!」

残されたのは、
黒いケースと、
逃げ場のない二人だけ。

リナが小声で。

「……最悪の宿題」

レイラも小声で。

「……ほんと最悪」

ケースの中の黒い欠片は、
静かに、
何も映さずに、ただそこにあった。

空を泳ぐ魚たちは、
今日は一匹も戻ってこなかった。

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