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前編
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なんで俺は30の男(不審者)と自分の母親の恋話を聞かされなきゃいけないんだ。
「まあ~ほんと華やぐわ~。本当に薫がΩで運命の番だったら嫁に貰ってもらえたのに~」
「は!?」
今まで黙っていた俺も流石に声をあげた。
「ははは、ご本人は嫌そうですよ」
「22にもなってまともに職にもつかずバイトとパチンコの往復生活送ってるような奴ですから、家庭でも持って専業主夫にでもなればちょっとは生活力つくんじゃないかと思うんですけどねえ」
「黙れババア」
「おまけに反抗期継続中」
蒼井はニコニコと笑っていた。
「お仕事は別として、結婚は今や自由ですからね。しないという人生計画ももちろんありですよ」
人生計画、そんなものを俺がしてると思うのだろうか。
早く切り上げろ、早く出ていけ、そんな願いも虚しく、おしゃべりな母と聞き上手な蒼井はずっと話していた。
俺は気にするのも馬鹿らしくなり、二人を無視してスナックを食いながらずっとテレビを見ていた。
「あらもうこんな時間!君春くん時間大丈夫!?」
「ええ、今日は仕事も終えましたから、このまま家に帰るだけです。こちらこそ、お邪魔しました」
いつの間に下の名前で呼ぶほど仲良くなったのだろう。
蒼井はカバンを手に取り、立ち上がった。
母親も焦りながら立ち上がり、キッチンの方をごそごそと漁りながら言った。
「それなら良かったわ、ちょっと待っててね」
「はい?」
母親は奥からお菓子の缶らしきものを取り出し、紙袋が貯めてある場所からひとつ紙袋を抜き取り、それに入れて蒼井に差し出した。
「はいお土産!」
「え?いや!いいんですよそんな!」
勢いよく手をブンブンとふる蒼井に無理やり紙袋を持たせた。
「いいのいいの持ってって!せっかくこうやって出会ったんだし薫のお友達としてよろしくお願いしますってやつよ」
「おい!何勝手に!」
「是非是非、今後ともよろしくお願いします」
待て待て、なんなんだ、意味わかんねえ。
勝手すぎる。
とんとん拍子に話が進む、拒否しようがねえ。
土産を受け取り、蒼井は去っていった。
母親は蒼井が見えなくなるまで手を降っていた。
一連の流れは嵐のように過ぎ去り、気がつけばいつもの家の日常だった。
リビングでソファに寝転がりながらバリバリと煎餅を食べる母親と、椅子に座っている俺はともにテレビを見ていた。
「それにしても今時『運命の番』なんていう人も珍しいわねえ」
「サンタクロースとかそういうレベルだろ。もはや都市伝説」
「でもお母さんの時は結構真剣に信じてる人いたのよ、まだ研究も進んでなかったしね。お父さんもめちゃくちゃ信じてたわよ」
「なんでだよ、βだったんだろ」
「それが、性別関係なく運命の番があると勘違いしてたらしいのよ。『貴女は僕の運命の番だー!』とか急に言われて。最初は頭おかしいんかこいつと思ったわよ」
「親の恋話聞きたくねえよ」
「もしかしたらお父さんも君春くんと同じような勘違いをしてたのかもねー」
洗剤の香りをフェロモンと勘違いするような奴がこの世に二人もいてたまるかよ。
「αで弁護士で、あんな好青年で3K揃ってて、イケメンで、言うことなしなんてすごいわ~」
「色気付いてんじゃねえ殺すぞ」
「顔はあんたも負けてないわよ。顔だけは」
「強調すんな」
「韓国アイドルのオーディションでも応募しちゃう?蛇顔銀髪イケメンだし」
「銀じゃねえ、アッシュグレーだ」
その時、チャットアプリの通知が鳴った。
画面を開く。
組織の幹部が入っているチャットのトークルームに団長、組織を仕切るリーダーからの連絡だった。
『明日 15時 緊急会議 いつもの場所』
それだけの文面。
大抵そんなもんだ、返信も皆送らない。
しかし今日の定例会がドタキャンになり明日緊急会議とは、常識はないのだろうか。
……こんな組織に入ってる時点で常識はないだろうな。
「あ、薫。お風呂沸いたから早めに入っちゃってね」
「ん」
次の日、組織の幹部5人が拠点の一室に集まって席についた。
俺、山科、団長の他に2人の幹部がいる。団長が口を開いた。
「諸君よくぞ集まってくれた」
「何の用すか」
「近いうちにアレを決行する」
きたか、山科の言う通りだ。
α誘拐、そして見せしめのリンチ。
まだ3回ほどしか行われていない。
完全なる犯罪行為かつテロ行為で組織内でも物議を醸した。
「ターゲットに適するαを見つけ次第俺に報告しろ」
「はーい」
気だるい返事をする一同だが、やる気はない。
自分が紹介した人間が理不尽な暴力を受けることになるなんて、通常の精神状態なら避けたい。
それにもし警察に捕まったとして、何らかの責任を問われることになるのもごめんだ。
「今月中には決行する、いいな」
今月か、早いな。
きっと団長は早くやりたくて仕方がないのだろう。
こんな組織に入っておいてなんだが、俺はこの活動はそんなに好きじゃない。
まあ、一個人のαに罪があるわけではないのはわかっている。
見せしめのためだけにいわれのない暴力を振るわれるのを見るのは単純に胸糞が悪い。
しかしαそのものに恨みを持っていたり、この行為が本当に国を変えると思っている人間もここには一定数いるのだ。
まあ、ここ数ヶ月は顔出す回数を控えてあまりかかわらないようにしよう。
ほとぼりが覚めた頃にふらっと戻れば何も問題はない。
とりあえず来週は休む。
「じゃあ今日は解散だ」
次々に席を立つ。俺もすっと帰ろうとした。しかし、
「水無瀬」
団長に呼び止められてしまった、嫌な予感がする。
「お前、来週の定例会絶対来いよ」
「は?ぇ、わかりました」
クソが。
休もうと思った途端これだ。
まあ、策略がバレてんだろうな。
深入りはしたくない、しかし団長に目をつけられるのも嫌だ。
うまく立ち回っていかなければならない。
「まあ~ほんと華やぐわ~。本当に薫がΩで運命の番だったら嫁に貰ってもらえたのに~」
「は!?」
今まで黙っていた俺も流石に声をあげた。
「ははは、ご本人は嫌そうですよ」
「22にもなってまともに職にもつかずバイトとパチンコの往復生活送ってるような奴ですから、家庭でも持って専業主夫にでもなればちょっとは生活力つくんじゃないかと思うんですけどねえ」
「黙れババア」
「おまけに反抗期継続中」
蒼井はニコニコと笑っていた。
「お仕事は別として、結婚は今や自由ですからね。しないという人生計画ももちろんありですよ」
人生計画、そんなものを俺がしてると思うのだろうか。
早く切り上げろ、早く出ていけ、そんな願いも虚しく、おしゃべりな母と聞き上手な蒼井はずっと話していた。
俺は気にするのも馬鹿らしくなり、二人を無視してスナックを食いながらずっとテレビを見ていた。
「あらもうこんな時間!君春くん時間大丈夫!?」
「ええ、今日は仕事も終えましたから、このまま家に帰るだけです。こちらこそ、お邪魔しました」
いつの間に下の名前で呼ぶほど仲良くなったのだろう。
蒼井はカバンを手に取り、立ち上がった。
母親も焦りながら立ち上がり、キッチンの方をごそごそと漁りながら言った。
「それなら良かったわ、ちょっと待っててね」
「はい?」
母親は奥からお菓子の缶らしきものを取り出し、紙袋が貯めてある場所からひとつ紙袋を抜き取り、それに入れて蒼井に差し出した。
「はいお土産!」
「え?いや!いいんですよそんな!」
勢いよく手をブンブンとふる蒼井に無理やり紙袋を持たせた。
「いいのいいの持ってって!せっかくこうやって出会ったんだし薫のお友達としてよろしくお願いしますってやつよ」
「おい!何勝手に!」
「是非是非、今後ともよろしくお願いします」
待て待て、なんなんだ、意味わかんねえ。
勝手すぎる。
とんとん拍子に話が進む、拒否しようがねえ。
土産を受け取り、蒼井は去っていった。
母親は蒼井が見えなくなるまで手を降っていた。
一連の流れは嵐のように過ぎ去り、気がつけばいつもの家の日常だった。
リビングでソファに寝転がりながらバリバリと煎餅を食べる母親と、椅子に座っている俺はともにテレビを見ていた。
「それにしても今時『運命の番』なんていう人も珍しいわねえ」
「サンタクロースとかそういうレベルだろ。もはや都市伝説」
「でもお母さんの時は結構真剣に信じてる人いたのよ、まだ研究も進んでなかったしね。お父さんもめちゃくちゃ信じてたわよ」
「なんでだよ、βだったんだろ」
「それが、性別関係なく運命の番があると勘違いしてたらしいのよ。『貴女は僕の運命の番だー!』とか急に言われて。最初は頭おかしいんかこいつと思ったわよ」
「親の恋話聞きたくねえよ」
「もしかしたらお父さんも君春くんと同じような勘違いをしてたのかもねー」
洗剤の香りをフェロモンと勘違いするような奴がこの世に二人もいてたまるかよ。
「αで弁護士で、あんな好青年で3K揃ってて、イケメンで、言うことなしなんてすごいわ~」
「色気付いてんじゃねえ殺すぞ」
「顔はあんたも負けてないわよ。顔だけは」
「強調すんな」
「韓国アイドルのオーディションでも応募しちゃう?蛇顔銀髪イケメンだし」
「銀じゃねえ、アッシュグレーだ」
その時、チャットアプリの通知が鳴った。
画面を開く。
組織の幹部が入っているチャットのトークルームに団長、組織を仕切るリーダーからの連絡だった。
『明日 15時 緊急会議 いつもの場所』
それだけの文面。
大抵そんなもんだ、返信も皆送らない。
しかし今日の定例会がドタキャンになり明日緊急会議とは、常識はないのだろうか。
……こんな組織に入ってる時点で常識はないだろうな。
「あ、薫。お風呂沸いたから早めに入っちゃってね」
「ん」
次の日、組織の幹部5人が拠点の一室に集まって席についた。
俺、山科、団長の他に2人の幹部がいる。団長が口を開いた。
「諸君よくぞ集まってくれた」
「何の用すか」
「近いうちにアレを決行する」
きたか、山科の言う通りだ。
α誘拐、そして見せしめのリンチ。
まだ3回ほどしか行われていない。
完全なる犯罪行為かつテロ行為で組織内でも物議を醸した。
「ターゲットに適するαを見つけ次第俺に報告しろ」
「はーい」
気だるい返事をする一同だが、やる気はない。
自分が紹介した人間が理不尽な暴力を受けることになるなんて、通常の精神状態なら避けたい。
それにもし警察に捕まったとして、何らかの責任を問われることになるのもごめんだ。
「今月中には決行する、いいな」
今月か、早いな。
きっと団長は早くやりたくて仕方がないのだろう。
こんな組織に入っておいてなんだが、俺はこの活動はそんなに好きじゃない。
まあ、一個人のαに罪があるわけではないのはわかっている。
見せしめのためだけにいわれのない暴力を振るわれるのを見るのは単純に胸糞が悪い。
しかしαそのものに恨みを持っていたり、この行為が本当に国を変えると思っている人間もここには一定数いるのだ。
まあ、ここ数ヶ月は顔出す回数を控えてあまりかかわらないようにしよう。
ほとぼりが覚めた頃にふらっと戻れば何も問題はない。
とりあえず来週は休む。
「じゃあ今日は解散だ」
次々に席を立つ。俺もすっと帰ろうとした。しかし、
「水無瀬」
団長に呼び止められてしまった、嫌な予感がする。
「お前、来週の定例会絶対来いよ」
「は?ぇ、わかりました」
クソが。
休もうと思った途端これだ。
まあ、策略がバレてんだろうな。
深入りはしたくない、しかし団長に目をつけられるのも嫌だ。
うまく立ち回っていかなければならない。
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