【完結】運命の番より俺を愛すると誓え

劣情祝詞

文字の大きさ
9 / 25
前編

8 ※R18

しおりを挟む
 俺は、蒼井の体をうつ伏せにして、覆いかぶさる。
 むき出しにされた下半身に手を伸ばし、その晒された後穴に人差し指を突っ込んだ。
 その行為に団長は異議を申し立てた。

「おい、慣らす必要なんてないだろ」
「ローションもないんだから、ちょっとは慣らさなきゃ入んねえでしょ」

 右手は先ほど、俺自身の唾液で濡らしておいた。
 団員たちは気がついていない。
 内壁は激しく蠕動しきつかったが、ないよりはマシだろう。
 俺は雑に動かすふりをして、早急になるべく中をほぐしていく。
 あまり長い時間をかければ、怪しまれる。

「ぅ”……ぐっ……」

 蒼井は、不快感と圧迫感で呻き声を上げていた。
 じっとりと脂汗が滲んでいるのが触れた肌から伝わってくる。
 周りからは、よくやるよ、だの、ケツに指突っ込んでるぜ、だの、下品なざわめきが聞こえてくる。
 なおも団長はイライラした様子で急かしてくる。

「早くしろ」

 限界か。
 まだ慣らしきれてはいないが、そのまま突っ込むよりは幾分マシだろう。
 俺はズボンから自身のものを露わにし、緩く扱き上げた後、素早い手つきでゴムをつける。
 そして、先ほどまで指を突っ込んでいたそこにあてがった。

「ひっ」

 悲鳴を上げる蒼井に覆い被さり、背後からその耳元に口を寄せて、紙袋越しに聞こえるか聞こえないかの小さな声で囁いた。

「痛がれ」
「…ぇ」

 困惑する蒼井を気にもせず、俺は腰をグググっと進めた。

「う”ぁあ”っ、あ”っ。」

 腹の中が激しく痙攣する。
 ぎゅうぎゅうに締め付けてくる内壁を剥がし、こじ開けるように、侵入。
 快感などほとんどない。
 きつく締め上げられ、痛みすら感じる。
 蒼井だって、同じだろう。
 
 何やっているんだ、俺は。
 助けようとして、傷つけてたら世話ねえな。
 俺みたいな汚い手で触れることだって、本当は許されないのに。

 蒼井は大げさに悲鳴をあげていた。
 本当に痛いのか、痛がるふりをしているのか。
 わからない。


 
 撤収準備をして、気だるい足取りで団員たちが部屋を出た後、俺は死にたくなった。
 しかし、死にたくなっている場合ではない。
 「後処理」をしなければ。

「大丈夫か、切れては……ないな」

 前戯とも呼べない拙い前戯だったが、幸い後穴を大きく傷つけずには済んだらしい。
 俺はホッとした。
 はー、はー、と胸を大きく上下させ、呼吸を整える蒼井の頭から、紙袋を外した。
 その顔は、真っ赤に紅潮し、瞳は潤んでいた。
 俺の心臓がドクン、と高鳴った。

「……俺は君に一目惚れしているんだ……忘れてないよな……」
「だから、運命の番は、勘違いだって!」
「そうじゃない、そうじゃないんだ」

 わからない。
 この男は、別に俺に惚れているわけではないだろう。
 馬鹿なことに洗剤の匂いを、フェロモンと勘違いしてついてきただけで、俺は運命の番なんかじゃない。

「あー、俺は男だし、αだから『こちら側』を想像したことはなかったが……君の優しい手で触れられるのは嫌じゃなかった」

 なんで。
 許さないって言えよ。
 殺してやるって言えばいいのに。

「確かに痛かったし……性的快感は得られなかった。だけど、君が俺の中にいるって、考えただけで……おかしくなりそうだった」

 熱っぽい吐息を混じらせながら、そう言って照れ臭そうに笑った。
 俺は、そのまま、蒼井の体を抱きしめてしまっていた。
 蒼井の顔は見えながったが、さぞ面食らった顔をしていたに違いない。
 
「……君もう俺のこと好きだろ」
「自惚れてんじゃねえ」

 強がっているのはわかっていた。
 きっともう、俺は蒼井のことが大事になってしまっているんだ。
 それは、俺の終わりを示していた。
 こいつを外に出したら、俺は粛清される。
 こいつが通報したら、俺は捕まる。
 こいつが死んだら、俺は、耐えられない。
 どう転んでも破滅しかない行く先に、俺は絶望した。
 それでも、蒼井を大事だと、好きだという気持ちを抑えることがどうしてもできないのだ。

 俺は蒼井を抱きしめたまま、震えて泣いた。
 これからどうなるのか、どうしたらいいのか、怖くて仕方がなかった。
 蒼井は俺の腕の中で、一回深呼吸をして、言い聞かせるように優しい口調で言った。

「大丈夫。……君は俺が守るから」

 縛られ、乱暴され、ボロボロになった蒼井がそう呟いた。
 違う、守るのは俺の方だ。
 俺みたいな空っぽな人間、どうなったっていいんだ。
 守るべきは、生きるべきは、蒼井の方だ。

 俺は、口に手を突っ込んで、たっぷりと唾液をつけた。
 足を広げて床に座り込んで、縛られた蒼井の体を抱えて、対面の姿勢に座らせる。
 そのまま、蒼井の後穴に指を突っ込んだ。

「うわっ!ちょっ、何をして…!」
「この後も、何度か『これ』がある。毎回俺が相手をできるかもわからない。……ここ、広げとけば、痛い思いせずに済むだろ」
「ちょっ、みなせ、くんっ…!」

 これでもかというほど優しく、薄いガラスに触れるみたいに、ぐちゅぐちゅと水音のするそこを念入りに広げていく。
 縛られていて、しがみつけない蒼井に変わって、俺が蒼井の体を強く抱きしめる。

「うぁ、あ、水無瀬っ……く……」
「……イっていいよ」

 俺も頬が紅潮しているのを感じていた。
 俺の腕の中で体をわずかによじらせて、快感に悶える蒼井を見ていると、俺も興奮を抑えられなくなってくる。
 あぁっは……、と小さな悲鳴を漏らして、蒼井は全身をぶるっと震わせた。
 蒼井が吐精した体液を、素早く持っていたティッシュで拭い取り、その痕跡を残さないようにする。
 事務的に片付けを始める俺を、蒼井は倒れたまま、ぼーっとした目で見つめ続けていた。

「……いつか、君と、ちゃんと繋がりたいなあ」

 蒼井は呟く。
 いつか?
 いつかなんていつ来るんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

策士オメガの完璧な政略結婚

雨宮里玖
BL
 完璧な容姿を持つオメガのノア・フォーフィールドは、性格悪と陰口を叩かれるくらいに捻じ曲がっている。  ノアとは反対に、父親と弟はとんでもなくお人好しだ。そのせいでフォーフィールド子爵家は爵位を狙われ、没落の危機にある。  長男であるノアは、なんとしてでものし上がってみせると、政略結婚をすることを思いついた。  相手はアルファのライオネル・バーノン辺境伯。怪物のように強いライオネルは、泣く子も黙るほどの恐ろしい見た目をしているらしい。  だがそんなことはノアには関係ない。  これは政略結婚で、目的を果たしたら離婚する。間違ってもライオネルと番ったりしない。指一本触れさせてなるものか——。  一途に溺愛してくるアルファ辺境伯×偏屈な策士オメガの、拗らせ両片想いストーリー。  

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...