新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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秋葉原バックストリート

秋葉原バックストリート(12)

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 バックストリートを駆け抜けたモジャコは、大きな通りに飛び出した。

 秋葉原の北端、くらまえばし通りだ。
 右手はすぐに中央通りとの交差点で、東京メトロ銀座線のすえひろちょう駅がある。

 振り返れば、遠くコルヴェナはむくりと起き上がって、焦点の合わないぼんやりとした視線をどこかに向けていた。

 手加減しなくてよかったな——と、モジャコは心の底から思った。

「おりょ?」

 尻尾を引っ張るとジシェは目を覚ました。

 追いついてきたハルに、そこの階段——と、指示をする。
 うん、とうなずいて、ハルは銀行のビルと一体になっている銀座線の入口へ。

 リグナを見送ってからモジャコもあとを追う。


 階段を駆け降りればすぐに改札口、その向こうはもう浅草方面行きホームだ。
 歴史の古い銀座線は、東京の地下鉄の中でもいちばん浅いところを走っている。

「えーと、スペア、スペア……あった」

 ハルは巾着袋をごそごそとあさり、何かを見つけてリグナに差し出した。
 リグナは、透明にあおいインディゴライトの瞳でハルを見返した。

 戸惑い。

 ——ハルがその瞳に感じたのは。

 リグナはデッサと交信し、はっきりと識別された。
 そして、リグナを識別したデッサは、「味方機」であり「半世紀前の残存機」だといった。

 半世紀前は、ルジェの民が〈ロートの追憶〉を強奪しようとした時期に重なる。

 つまり、リグナはルジェの民によって持ち込まれ、いままでどこかで機能を停止していたことになる。

 そのリグナが、どうしてモジャコを助けてくれたのだろうか?

 あおい瞳は何も語らない。
 何を思っているのかもわからない。

 しかし、ハルがリグナに感じるのは、無機質さより、むしろ人間めいた戸惑いだった。

(リグナ自身、何も知らないし、知らないことに動揺している……)

 AI——人工知能。

 それはしょせんプログラムの集合体であり、あらかじめ組み込まれた条件分岐に従って動いているに過ぎず、意志や感情を持つことなどあり得ない。

 が、人間もまた、与えられたDNAの配列に従って動いているのなら、機械との差はその複雑さくらい。

 プログラムがじゅうぶんに複雑であるのなら、両者の境界はずっと曖昧になる。

 そして、どうせ目には見えず、思い描いたり、推し量ってみる以外に知る方法がないのなら、機械にこころなど無いと、どうしていい切れるだろう。

 困惑と葛藤。
 存在する意味、理由。


 なぜ私はここにいるのだろう——?
 いままで私はどこにいたのだろう——?
 どうしてこの者たちを助けた? 誰に命ぜられた?
 わからない……。
 覚えていない……。
 思い出せない……。


 ——と、ここまで勝手に脳内シミュレーションしてから、ハルは自分で否定した。

(違うかも……)

 よく見ると、リグナのあおい瞳は奥二重。
 どこか、とろーん、としたそうぼうは眠たそうにも見える。

(単純に何も考えていないだけかもしれない……)

 ハルはなんとなーく、デフォルメされたリグナを想像してみた。

 目の前にはSDリグナが、ぼけ~、と立っている。
 その後ろには、「なんじゃらほーい?」という文字が浮かんでいた……。

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