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秋葉原バックストリート
秋葉原バックストリート(13)
しおりを挟むそれはさておき。
「……リグナちゃんだっけ? それ、貸してあげる」
ハルが差し出したのは、首都圏ではおなじみのICカード——パスモ。
リグナは小首を傾げて受け取った。
なんじゃらほーい? と、両手で持ったカードを掲げ、照明に透かしてみたりする。
自分のパスモを改札機にタッチしながら、モジャコは首を傾げた。
「定期とは別に? なんで2枚も?」
「先週、パスケース忘れちゃって。そのときの」
「拙者も欲しいでござる……」
「ジシェは手荷物扱いだろ」
「むう」
リグナは素通りしようとして、派手にチャイムを鳴り響かせた。
ここにタッチするの——とハルが教えてあげれば、ぎこちなく通り抜ける。
ホームには電車が入ってきたところだ。
発車メロディに急かされ、電車へ駆け込むと、ちょうどドアが閉まった。
ポールにつかまってハルは、ふう、と息を吐き、それからスマホを起動して画面を見せた。
画面には、黒い背景に、見たことのない文字が並んでいた。
「リグナちゃんが現れたとき、この表示に切り替わったの」
「ロートの文字でござるな」
ジシェはモジャコの頭の上から覗き込んだ。
「なにやら内部状態や数値を表示しているようでござる」
「やっぱり。それなら」
ハルが画面に触れると、文字は流れ、あるところで止まった。
記号と単語の組が3つ提示され、行末ではプロンプトが点滅する。
選択肢らしい。
左と右の単語はまったく読めないが、中央のものだけ理解できる。
なぜなら、見慣れたアルファベットで “English” とあるからだ。
あった——とハルはつぶやき、自動で表示されたソフトウェアキーボードから、“English” と一緒に表示されている記号を選んだ。
画面全体の表示が英単語に入れ替わり、同時に、ソフトウェアキーボードのキー配置も一新される。
画面の文字はまた流れはじめる。
処理が輻湊したのか、一瞬スクロールがもたついて残像になる。
その行には次のように書かれていた——。
Prototyped Next-Generation Ldufreide: RIGNA (deregistered).
「次世代型ルドゥフレーデ試作機:リグナ(登録抹消済み)」
ハルはつぶやく。
デッサが識別した情報に一致する。
〝ルドゥフレーデ〟が基本的なモデル名称で、その改良モデルの試作機ということだ。
しかし、付記された〝登録抹消済み〟とはどういうことだろうか?
当人はといえば、他人事のように、なんじゃらほーい? と首を傾げるばかり。
ただ、ほかの3人——または2人と1匹——に見つめられ、碧い双眸で出し抜けにつぶやいた。
「オーラ・ヴァエッスラに助けられた」
「ぬっ! そうだっ、オーラ殿は……!?」
リグナは答える。
「時空の背反に蝕まれて消えた」
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