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銀座ステレーション
銀座ステレーション(8)
しおりを挟む(時空の背反)
ハルはもう一度繰り返した。
(存在が失われていくなかで、そのオーラさんはどんなことを思ったんだろ……)
想像すら及ばない。
だしぬけに、なんじゃらほーい——と、熱心にカードを裏返したり傾けたりしていたリグナが口を開いた。
「2/3」
「はい?」
「ここに書いてある」
覗き込めば、朝顔がデザインされている面の裏、まったくの無地と思っていた面には、右下に記号のようなものが3つ、小さく刻まれていた。
そのうちの2つにはハルにも見覚えがある。
リグナの言語設定で見た数字の「2」と「3」だ。
残りの、楕円が重なったものがスラッシュに相当するのだろう。
「3枚のうちの2枚目ってことじゃないのか?」とモジャコ。
(拙者も見たいでござる……)
ジシェは窓に映る自分とにらめっこするしかない。
「残りの2か所、銀座と神田に1/3と3/3のカードがある……? この2/3のカードがリグナちゃんのスピードを解放したってことは、1/3と3/3で残りの能力が解放される……」
「いくつあるのかわからないけど、まずはリグナの本来の能力を解放しろってことだ、きっと」
当のリグナは無関心で、背後には、わからんもーん、という文字が浮かんでいる……。
10分ほどで東銀座駅。
ホームからすぐの改札口を抜けて、ハルはアプリを立ち上げた。
リグナはチャイムを鳴らしかけながらも、すぐにパスモをタッチして通過。
横の階段を降りて浅草線をくぐり反対側へ。
そしてA1出口から地上に出た。
駅の名前が東銀座であるとおり、銀座とはいっても、繁華街や高級ブランド店が集まるエリアからは東へ外れたあたりで、周辺にあまりそれらしい雰囲気はない。
駅は、直交する昭和通りと晴海通りの交点にあって、昭和通りの地下を都営浅草線、晴海通りの地下を日比谷線が通っている。
晴海通りを北西へ進めば有楽町や日比谷、南東へ進めば築地。
ゆっくりと明滅を繰り返す光点は、歩道をいくらも歩かないうちに、現在位置を示す光点とぴったり重なった。
和光本館の時計台が象徴的な銀座四丁目交差点と、東銀座駅のある交差点との間の、これといった特徴もない何でもない場所だ。
敢えていえば、どういった理由か、その周囲だけ起伏があって、少しだけ高くなっていた。
それほど広くない歩道を余所行きの買い物客や観光客が行き交う。
振り返れば、交差点の向こうに威風堂々とした歌舞伎座の建物が見える。
特徴的なのは破風と呼ばれる様式の大きな三角屋根。
そのてっぺんに——コルヴェナが仁王立ちしていた。
人さし指を、ばっすーん、と突きつけ、啖呵を切っているらしいが、交差点を挟んで距離があるので何をいっているんだか。
(なんで高いトコに登りたがるかな……)とモジャコ。
(聞こえないし……)とハル。
困ったものである。
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