51 / 116
広尾デリヴァランス
広尾デリヴァランス(7)
しおりを挟む南北両端にある改札口のうち、北側の改札口だ。
南側とは違って、外苑西通りのどちら側からも下りてこられるし、中目黒方面の1番線へも、北千住方面の2番線へも行くことができる。
「どうする?」
「……」
ハルは消耗は激しく、息が上がって答えられない。
黙ってスマホの画面を見せた。
画面の地図には台東区と荒川区のほぼ全域が表示され、その中央付近に目印のピンが立っていた。
台東区と荒川区は、東京23区のうち、北東の隅田川に接して位置する区。
台東区は、名前を聞いてもぴんとこない可能性大だが(特に関東在住でない場合。いまさら? という話ではありますが……)、上野や浅草があるところ、といえばわかりやすいかもしれない。
荒川区はその北にあって、日暮里や町屋、南千住といった、町工場や商店街、住宅地がひしめき合い、いまなお昭和の下町を色濃く残すところ。
目印のピンはその境界付近、荒川区の南千住と台東区の三ノ輪が隣り合うあたりに立っていた。
直線距離なら北北東へ11キロほど、日比谷線の三ノ輪駅が近く、広尾駅からであれば、乗り換えなしで行ける。
ところで、それはいままでのアプリではなく、スマホに標準で付いている普通の地図アプリだった。
よくわからないけれども、とりあえず2番線ホームへ。
ちょうど電車は出ていったばかりだったので、モジャコはハルをベンチに座らせた。
「むう、だいじょうぶでござるか?」
モジャコの頭の上からジシェは心配する。
「ふほしはすめはへいひ……」
ハルは答える。たぶん『少し休めば平気』。
ほぼ聞こえない。
(駄目だな)
モジャコは諦めて、ベンチの横にある路線図に視線を向けた。
(このまま地下鉄で移動するかどうか)
東京には13の地下鉄路線がある。
東京メトロの銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、千代田線、有楽町線、半蔵門線、南北線、副都心線。
都営地下鉄の浅草線、三田線、新宿線、大江戸線。
ときに、わけのわからない方向へ進むこともある。
同じ名前なのは、詐欺じゃないかと思えるほど、乗り換えの不便な駅もある。
けれども、縦横無尽に走る地下鉄に乗れば、どこへも行けるし、コルヴェナとデッサから察知されないで移動するには好都合だ。
しかしこのまま地下鉄でまっすぐ向かうべきか——?
リグナは、ハルの様子を碧い瞳でじぃーっと見つめていた。
だいじょうぶかなー、だいじょうぶかなー。
左に首を傾げ、ちょっとしてから、右に首を傾げ——以下、繰り返し。
たぶん心配そう。
そのリグナがモジャコのほうへ向き直って口を開いた。
「早過ぎた」
「?」
モジャコは怪訝に首を傾げる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
138
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる