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東京トラム
東京トラム(12)
しおりを挟む「——僕たちの調査に間違いがなければ、クレン兄妹の兄ロカは、ほんの数日前まで公安組織に拘束されていました」
ハルとモジャコは眉をひそめた。
パルノーは説明を続ける。
「機密文書を格納した政府のサーバーに侵入した容疑です。
入手しようとした文書はアクセスが厳重に制限された極秘のものであり、確実に禁固刑に処せられるレベルです。
しかしどういうことか、ブリウム・ボルンギンという政府高官の権限で唐突に釈放されたのです」
「きな臭いな。もみ消す代わりに円環の再稼働を持ちかけられた?」
「おそらく……。失敗したところで2人に責任を押し付ければいいわけですから、ボルンギンは痛くも痒くもありません」
「その極秘文書については?」
ハルが尋ねる。
「おそらくは10年前の、ある事故を巡る資料ではないかと思います。
封建的な色合いを残すルジェの社会でクレン家は名門の家系です。
しかし10年前、ある王族の事故死を巡って両親に嫌疑がかかり、そのままクレン家は没落、両親もじゅうぶんに弁明できないまま数年後に病死しています」
「事故の真相に迫る資料……」
飯田橋駅で南北線に乗り換える。
JR線と外濠が間にあるから、東西線と南北線は少し離れている。
けれども、いちばん前の車両から降り、すぐ目の前のエスカレーターで上がれば、飯田橋交差点方面改札はすぐ。
そして、コンコースを少し歩いてほぼ直角に曲がり、階段を下りれば、南北線の中央改札。
南北線のホームまで降りると、天井まで届く透明なホームドアの向こうに、浦和美園行きの電車が入ってきた。
直通先まで行く最終らしく席はだいたい埋まっていたので、ハルたちは反対側のドアあたりに固まった。
駒込駅までは9分ほど。
そういえば——と、モジャコ。
「『アイル』って聞いて、パルノーはなんかわからないか?」
「アイルですか——? ちょっと思い当たるものは無いですね……」
パルノーの答えはジシェと同じだ。
が——。
「AISLE:
①〔建築〕(教会堂の)側廊、(礼拝堂の)通路、
②(列車・劇場などの座席列間の)通路」
ミチル情報である……。
「通路を完成させる、通り道を完成させる。どこなのかはわからないけど、どこかに通り道をつくろうとしている、って考えると、意味は通らない?」
確かに。
が、そんな納得感はともかく、どうしてそんな単語を知っているのだろう……?
ミチルは得意そうにスマホに写真を表示した。
写っているのは「8 D 通路側 E 窓側」と表記された何かのラベルで、「通路側」と「窓側」のそれぞれに、小さく AISLE と WINDOW が併記されていた。
いわく「N700系のぞみ」に乗ったときに撮影した座席表示——とのこと。
(なんでこれをわざわざ撮るんだろ……?)
(首尾一貫というか、初志貫徹というか……)
モジャコとハルは思い悩んだ。
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