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新宿アイル
新宿アイル(1)
しおりを挟む7. 新宿アイル
モジャコもミチルもパルノーも、慄然と視線を交わした。
大江戸線という不完全な円を、新宿に通り道をつくることで強引に完成させれば、それは円環を展開するための巨大地下環状空間になり得る……。
だとすれば、コルヴェナたちは、円環のエネルギー源たるヴィルテさえあればいい——ということになる。
論理は成立する。
ただ、ハルはまだ心が騒めくのを感じた。
(デッサがいない……)
フォルトヴを使った連続の、しかも超短距離の移動。
おそらく、そうとう無茶な行動だろう。
そうでなければとっくに使っていたはずで、しかも、モジャコをも凌駕するような理性を捨てた戦闘スタイルは、間違いなく諸刃だ。
考えられるのは、コルヴェナ自身、デッサの異変を感じて彼女を見切ったということ。
(コルヴェナはいま、どこかの建物の上に潜伏しながら、体力の回復とタイミングを待って、中距離移動しようとしているはず……)
いけない——と、ハルは直感した。
「フォルトヴで新宿へ向かおうとした瞬間に、コルヴェナはデッサに急襲される!!」
「……!!」
リグナは近くのビルの屋上へ跳び上がった。
モジャコとミチルは周囲の気配に全神経を集中させる——。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
新宿——コクーンタワー。
林立する超高層ビル群の中でも、ひときわ目を引くその特異な外観は、コクーンタワーの名のとおりに繭をイメージしているという。
高さは203.7メートル。
東方向の視界は広く、眼下には深夜の新宿駅が横たわる。
そこに、ロカ・クレンは立っていた。
顔立ちは妹によく似ている。
しかし、双眸はコルヴェナと異なり、ずっと落ち着いていて、ともすれば冷めているような印象も受けた。
身にまとう制服も、デザインは全体的におとなしい。
ロカは手首に装着した小型コンソールに向かってしきりに呼びかけていた。
「——コルヴェナ、どうした? 繰り返す、コルヴェナ——?」
応答は無い。
いくつもの装置と端末が雑然と並べられ、ロカを囲んでいる。
その中のひとつが勝手に起動し、空中に3次元の像を結んだ。
(ボルンギン……)
ロカは口許でつぶやいた。
背の低い猫背の小男だ。
目の前にいるのに下から窺うように視線を向ける。
不愉快にねっとりとまとわりつく声でブリウム・ボルンギンは話しはじめた。
「——あらかじめ断っておくが、これはリアルタイム通信ではないよ。6100万光年の距離はいかんともしがたいからね。意外かな、ロカ・クレンくん? いや、わたしもきみがちゃんと仕事をしてくれれば、わざわざ出張るようなことはしたくなかったんだよ」
「……」
ロカは相手を無視して端末を操作する——が、キーボードは何も入力を受け付けなかった。
(乗っ取られた……)
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