5 / 21
5 旦那様への進言
しおりを挟む
商会は一階二階が店舗で、その上がオフィスという作りになっていた。
サミュエルのいる会長室は5階にある。
フィッティングルームでの採寸を終えたスーザンは服飾部門の現状について確認しようとサミュエルのいる会長室に向かった。
会長室の手前に取り次ぎのための狭い部屋があり、そこに秘書のミスターゲーブルが座っていた。
「奥様、どうなさいましたか?」
「先ほど、ドレスのフィッティングが終わりました。それで、旦那様のお時間を少しいただければと思いまして。」
スーザンは珍しく緊張していた。
スーザンはサミュエルが何を考えているのかよくわからない。あまり好ましく思われてはいないだろう事は分かっている。
なにせ結婚して1ヶ月はたとうというのにまだ数度しか会話したことがないのだ。
帰宅後のサミュエルを捕まえるのもありかもしれないと考えたが、家に帰ってきてまで仕事の話はしたくないかもしれない。
「確認してまいりますので少々お待ちください」
ミスターゲーブルはスーザンを一瞥すると扉の中へ消えていった。
サミュエルの周りの者にスーザンが良く思われていない事はなんとなく感じていた。しかし、ここまで態度に示されたのはこれが初めてだった。
しばらくしてミスターゲーブルが出てくるとスーザンにこう告げた。
「サミュエル様は今お忙しいのでもう少々お待ちくださいとのことです。」
「奥様をお待たせするとはどういう了見ですか?」
ミスターゲーブルに噛み付いたのは侍女のマーサだった。スーザンが侯爵家から連れてきた唯一の侍女でスーザンより5つ歳上の姐御肌の女性である。
「大丈夫よ、マーサ。旦那様はお忙しいんですもの。お待ちしますわ。」
嫁いで来てからスーザンは蔑ろにされていると感じる事は多かった。そんな時スーザンより先にマーサが怒ってくれるため、スーザンは必要以上に悲観することも怒ることもなく過ごすことが出来ていた。
今、屋敷で女主人として過ごすことができているのもマーサの存在があったからかもしれない。
「これまでも思っておりましたけれど、旦那様はスーザン様を蔑ろにしすぎですわ。旦那様はスーザン様と結婚できた幸運にもっと感謝すべきですのに」
「マーサは私が11の頃からそばに仕えてくれているから私贔屓になっているのよ。今の私はあくまでもただの商会の奥方なのだから」
「ご謙遜を。セバスティアーノ=ストウ家のスーザン様と言えば、婚約の申し込みが後をたたなかったことで有名ではございませんか。」
「それは兄様が亡くなられて、私が家を継ぐ予定だったからよ」
兄が亡くなったのは私が11になる直前だった。
我が家は兄の上にもう1人姉が居たが、スーザンは会った記憶がない。
スーザンと兄は14、姉とは16も歳が離れている。姉は18歳の時事故で亡くなった。
戸籍上は兄と姉ということになっているが本当はそうではないらしい。
あの日、兄は混乱していた。
『兄様。本当のことを教えてくれませんか?わたくしが妹じゃないことは薄々気付いています。それに"サマンサ"ってどなたですか?お母様とお父様のことについても教えてください』
『いつか伝えなくてはならないことはわかっている。でも、、、まだ。サマンサに失望されたくないんだ!』
『失望されるようなことをしたのですか?』
『、、、そうかもしれない』
『兄様と私の関係だけでも教えてください。私はあなたの何なんですか?妹だとは思えない』
『そうだよ。俺たちは兄妹なんかじゃないさ!"サマンサ"は俺の、わかってるんだろう?』
そう言うと兄はギュッと抱きしめて耳元で呟いた。
『君は俺とサマンサの娘だ』
『!!!』
サミュエルのいる会長室は5階にある。
フィッティングルームでの採寸を終えたスーザンは服飾部門の現状について確認しようとサミュエルのいる会長室に向かった。
会長室の手前に取り次ぎのための狭い部屋があり、そこに秘書のミスターゲーブルが座っていた。
「奥様、どうなさいましたか?」
「先ほど、ドレスのフィッティングが終わりました。それで、旦那様のお時間を少しいただければと思いまして。」
スーザンは珍しく緊張していた。
スーザンはサミュエルが何を考えているのかよくわからない。あまり好ましく思われてはいないだろう事は分かっている。
なにせ結婚して1ヶ月はたとうというのにまだ数度しか会話したことがないのだ。
帰宅後のサミュエルを捕まえるのもありかもしれないと考えたが、家に帰ってきてまで仕事の話はしたくないかもしれない。
「確認してまいりますので少々お待ちください」
ミスターゲーブルはスーザンを一瞥すると扉の中へ消えていった。
サミュエルの周りの者にスーザンが良く思われていない事はなんとなく感じていた。しかし、ここまで態度に示されたのはこれが初めてだった。
しばらくしてミスターゲーブルが出てくるとスーザンにこう告げた。
「サミュエル様は今お忙しいのでもう少々お待ちくださいとのことです。」
「奥様をお待たせするとはどういう了見ですか?」
ミスターゲーブルに噛み付いたのは侍女のマーサだった。スーザンが侯爵家から連れてきた唯一の侍女でスーザンより5つ歳上の姐御肌の女性である。
「大丈夫よ、マーサ。旦那様はお忙しいんですもの。お待ちしますわ。」
嫁いで来てからスーザンは蔑ろにされていると感じる事は多かった。そんな時スーザンより先にマーサが怒ってくれるため、スーザンは必要以上に悲観することも怒ることもなく過ごすことが出来ていた。
今、屋敷で女主人として過ごすことができているのもマーサの存在があったからかもしれない。
「これまでも思っておりましたけれど、旦那様はスーザン様を蔑ろにしすぎですわ。旦那様はスーザン様と結婚できた幸運にもっと感謝すべきですのに」
「マーサは私が11の頃からそばに仕えてくれているから私贔屓になっているのよ。今の私はあくまでもただの商会の奥方なのだから」
「ご謙遜を。セバスティアーノ=ストウ家のスーザン様と言えば、婚約の申し込みが後をたたなかったことで有名ではございませんか。」
「それは兄様が亡くなられて、私が家を継ぐ予定だったからよ」
兄が亡くなったのは私が11になる直前だった。
我が家は兄の上にもう1人姉が居たが、スーザンは会った記憶がない。
スーザンと兄は14、姉とは16も歳が離れている。姉は18歳の時事故で亡くなった。
戸籍上は兄と姉ということになっているが本当はそうではないらしい。
あの日、兄は混乱していた。
『兄様。本当のことを教えてくれませんか?わたくしが妹じゃないことは薄々気付いています。それに"サマンサ"ってどなたですか?お母様とお父様のことについても教えてください』
『いつか伝えなくてはならないことはわかっている。でも、、、まだ。サマンサに失望されたくないんだ!』
『失望されるようなことをしたのですか?』
『、、、そうかもしれない』
『兄様と私の関係だけでも教えてください。私はあなたの何なんですか?妹だとは思えない』
『そうだよ。俺たちは兄妹なんかじゃないさ!"サマンサ"は俺の、わかってるんだろう?』
そう言うと兄はギュッと抱きしめて耳元で呟いた。
『君は俺とサマンサの娘だ』
『!!!』
821
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる