【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚

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重い謁見の間の扉がゆっくりと開く。
コツン、コツンと重厚な音を立てながらアイリーンが入ってきた。
侯爵令嬢として、そして王太子の婚約者として煌びやかなドレスを着ることの多かった彼女だが、今は装飾を普段よりも抑えた、それでいて気品を感じるように程よく質の良い装飾品に抑え、素材の良さを引き出すパンツスタイルだ。
公式の場で女性がドレスを着ないのは、爵位を持つ人間のみ。

ふと、視界の隅を何者かが掠めたような気がしてそちらを見ると、グルグルの縄で拘束されたスチュアート侯爵一家の姿があった。
アイリーンの格好が何を意味するのか、いち早く気がついた侯爵は、自分が判断を誤ったことを認めたくないようで、思い切りその顔を歪めている。
そう、彼は味方する方を間違えたのだ。
クラリスに手を貸して隠蔽工作などしなければ、アイリーンのおこぼれに預かれたかもしれないのに、などということでも考えているのだろう。
対照的に、アイリーンはさも興味なさげで彼を一瞥すると、まっすぐ玉座の方に向き直っていった。

晴れの日――つまり、アイリーンが爵位を手にする日、だ。
もっと盛大にやりたいという国王夫妻を宥めすかして、何者の邪魔も入れさせぬように、とギルバートが強行したのだ。
本来は、仕事の引き継ぎや、衣装の新調など、事前にやることも多いが、侯爵家の懐事情を知っていたギルバートが先んじて用意しておいたのだという。――申し訳ないとアイリーンが受け取るのを渋るあまり、前借りという形になったのは余談だ。

そのうちにも着々と手続きは進み、残すは新たな爵位が書かれた書面にアイリーンがサインするのみとなっていった。書面を確認し、美しい筆跡を紙面に走らせていく。

『アイリーン・シュランツ女子爵』

彼女に与えられた新たな名前だった。

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