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第二章 剣士となりて
第十四話 初契約と埋め合わせ
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Szene-01 レアルプドルフ南北街道、三番地区入り口
役場で仕事の案件を契約した二組のデュオ。
南北街道を北上中である。
エールタイン達の後ろにルイーサ達が続く。
エールタインの腕にしがみついているティベルダは、時々振り返る。
「うー」
唸った後、主人の腕に頬ずりをして歩みを進める。
街道上に響き渡るルイーサの足音がひとしきり続くと、また振り返り威嚇する。
ティベルダは役場を出てから終始この調子だ。
「あの……私、何かしたかしら?」
「エールタイン様とお話されたため、でしょうね」
ヒルデガルドが理由と思われることを口にした。
「エールタインと話しをすることが!?」
「ティベルダちゃんはエールタイン様が大好きですから」
「主人同士の話は勘弁して欲しいわね」
威嚇を続けるティベルダにエールタインが一言。
「ルイーサは初仕事を一緒にする仲間だ。それにティベルダのことはちゃんと構っているじゃないか」
ティベルダは寂しそうな目をしてエールタインを見る。
「だって……エール様に近づこうと必死だから。エール様は私のなので」
「ちょっと、主人を自分のものにしている従者ってどういうこと!?」
ルイーサは足音をさらに大きくした。
ヒルデガルドが再び話に加わる。
「私もルイーサ様に対してそのように思っています。そしてルイーサ様のものであることに喜びを感じているのです」
それを聞いたルイーサの足音は元の大きさに戻り、従者の目をしっかりと見た。
「ヒルデ、あなたもそう思っていたの? はあ。エールタイン、うちの子たちってなぜこんなに――――」
エールタインがルイーサの言葉に続けて言う。
「可愛いんだろうね。この子たちに出会えるなんてさ、ボクたちは幸せ者だよ。出会う時に多少選びはしたけれど、聞いていたような主従関係とは程遠くてさ」
「まったく、その通りだわ。感謝するのはこちらよね。ティベルダ、私にはヒルデがいるわ。エールタインとのお話ぐらいは許してくれないかしら?」
まだ渋っている様子のティベルダにエールタインが言う。
「ほら、ボクのティベルダなら答えられるよね」
エールタインが抱き着かれている腕を少し揺らして返事をするように促す。
ティベルダはルイーサに振り返り、主人の指示に従った。
「お話は……ど、どうぞ」
エールタインは軽く頭を撫でてあげるが、ルイーサは両掌を上に向けて肩をすくめた。
「従者にお許しをもらうとは、ね」
Szene-02 ダン家
ダン家では町役場から役人が訪れていた。
玄関先でダンが応対している。
「ほほう。トゥサイ村が」
「はい。さすがにあの一件は無視できなかったようでして」
あの一件。
エールタイン達が拉致監禁された事件だ。
二度連続して起きた事件であるが、犯人は何れもトゥサイ村の者だった。
「あれを無視できるなら国になれるぞ」
ダンは玄関の扉に片腕を当てながら苦笑いをしている。
役人も同じく苦笑いをする。
「この町には交易のみならず、護衛まで頼っている村ですし。関係が断たれるのを恐れたのでしょうね」
役人は言う。
「お詫びに亜麻の値下げと供給の増量をさせて欲しいとのこと。あの村の生産物では主力の一つですから、気持ちは伝わりますが……それにしても動くのが遅いですよね」
「その通り、動きが非常に遅い。正直なところ、俺はあの村を信じちゃいない」
やんわりとした雰囲気で話をしていた二人だが、ダンの言葉で急転する。
「それはどういう……」
「以前から気になっている情報がある。君が知らないのなら、一部の役人にしか知らせていないようだな」
興味津々といった様子でダンの話に耳を傾ける役人。
「すまんが、上層部がそのようにしているのなら、口にしない方が良いだろう」
役人は好奇心を崩されてがっかりした。
「残念です。よろしくない内容ということは分かりましたが」
「何か動きのある前触れかもしれん。いずれ嫌だと言っても知ることになるさ」
「平穏が続いていたのに……」
ダンは役人の肩に手を置いて言う。
「平穏は人を油断させるのさ。その油断の隙を狙う奴が常にいる。剣士は平穏な時こそ隙を埋める動きをしなければならないんだ」
剣聖の言葉に納得した役人は頭を下げて役場へ戻る。
「何かが起きそうなことを知った以上、私も気になったことがあればすぐにお伝えします」
「ああ、よろしくな。上層部には何も言うなよ。必要な時にはあちらから指示があるはずだ。混乱は避けるようにくれぐれも頼むぞ」
Szene-03 レアルプドルフ三番地区、地区道上
南北街道を一緒に歩いていた二組のデュオは途中で別れた。
エールタインが初仕事の契約についてダンに報告したいとルイーサに伝えたからだ。
二人きりになったことで、ティベルダのご機嫌が戻っている。
これ幸いとティベルダは主人に甘えながら次々に話かけていた。
そんな二人と役人がすれ違う。
「役人さんでしたね」
「うん、この辺で役人が行く所と言えば……」
エールタインが思いついた場所へと目線をやる。
家の前に立っているダンを見つけた。
「やっぱり。何かあったのかな」
「何もないなら来ないですよね」
「ダン!」
エールタインはダンに手を振って見せた。
ダンもそれに答えるように軽く手を振り返す。
「何かあったの?」
「まあまあ。いきなりそんな話をするのはやめようや。とりあえず入りな」
ダンは家へ入るようエールタインに促し、続くティベルダの頭を撫でた。
「ティベルダ、元気そうだな」
「はい! ありがとうございます!」
久しぶりにダン家は賑やかな日になりそうだ。
役場で仕事の案件を契約した二組のデュオ。
南北街道を北上中である。
エールタイン達の後ろにルイーサ達が続く。
エールタインの腕にしがみついているティベルダは、時々振り返る。
「うー」
唸った後、主人の腕に頬ずりをして歩みを進める。
街道上に響き渡るルイーサの足音がひとしきり続くと、また振り返り威嚇する。
ティベルダは役場を出てから終始この調子だ。
「あの……私、何かしたかしら?」
「エールタイン様とお話されたため、でしょうね」
ヒルデガルドが理由と思われることを口にした。
「エールタインと話しをすることが!?」
「ティベルダちゃんはエールタイン様が大好きですから」
「主人同士の話は勘弁して欲しいわね」
威嚇を続けるティベルダにエールタインが一言。
「ルイーサは初仕事を一緒にする仲間だ。それにティベルダのことはちゃんと構っているじゃないか」
ティベルダは寂しそうな目をしてエールタインを見る。
「だって……エール様に近づこうと必死だから。エール様は私のなので」
「ちょっと、主人を自分のものにしている従者ってどういうこと!?」
ルイーサは足音をさらに大きくした。
ヒルデガルドが再び話に加わる。
「私もルイーサ様に対してそのように思っています。そしてルイーサ様のものであることに喜びを感じているのです」
それを聞いたルイーサの足音は元の大きさに戻り、従者の目をしっかりと見た。
「ヒルデ、あなたもそう思っていたの? はあ。エールタイン、うちの子たちってなぜこんなに――――」
エールタインがルイーサの言葉に続けて言う。
「可愛いんだろうね。この子たちに出会えるなんてさ、ボクたちは幸せ者だよ。出会う時に多少選びはしたけれど、聞いていたような主従関係とは程遠くてさ」
「まったく、その通りだわ。感謝するのはこちらよね。ティベルダ、私にはヒルデがいるわ。エールタインとのお話ぐらいは許してくれないかしら?」
まだ渋っている様子のティベルダにエールタインが言う。
「ほら、ボクのティベルダなら答えられるよね」
エールタインが抱き着かれている腕を少し揺らして返事をするように促す。
ティベルダはルイーサに振り返り、主人の指示に従った。
「お話は……ど、どうぞ」
エールタインは軽く頭を撫でてあげるが、ルイーサは両掌を上に向けて肩をすくめた。
「従者にお許しをもらうとは、ね」
Szene-02 ダン家
ダン家では町役場から役人が訪れていた。
玄関先でダンが応対している。
「ほほう。トゥサイ村が」
「はい。さすがにあの一件は無視できなかったようでして」
あの一件。
エールタイン達が拉致監禁された事件だ。
二度連続して起きた事件であるが、犯人は何れもトゥサイ村の者だった。
「あれを無視できるなら国になれるぞ」
ダンは玄関の扉に片腕を当てながら苦笑いをしている。
役人も同じく苦笑いをする。
「この町には交易のみならず、護衛まで頼っている村ですし。関係が断たれるのを恐れたのでしょうね」
役人は言う。
「お詫びに亜麻の値下げと供給の増量をさせて欲しいとのこと。あの村の生産物では主力の一つですから、気持ちは伝わりますが……それにしても動くのが遅いですよね」
「その通り、動きが非常に遅い。正直なところ、俺はあの村を信じちゃいない」
やんわりとした雰囲気で話をしていた二人だが、ダンの言葉で急転する。
「それはどういう……」
「以前から気になっている情報がある。君が知らないのなら、一部の役人にしか知らせていないようだな」
興味津々といった様子でダンの話に耳を傾ける役人。
「すまんが、上層部がそのようにしているのなら、口にしない方が良いだろう」
役人は好奇心を崩されてがっかりした。
「残念です。よろしくない内容ということは分かりましたが」
「何か動きのある前触れかもしれん。いずれ嫌だと言っても知ることになるさ」
「平穏が続いていたのに……」
ダンは役人の肩に手を置いて言う。
「平穏は人を油断させるのさ。その油断の隙を狙う奴が常にいる。剣士は平穏な時こそ隙を埋める動きをしなければならないんだ」
剣聖の言葉に納得した役人は頭を下げて役場へ戻る。
「何かが起きそうなことを知った以上、私も気になったことがあればすぐにお伝えします」
「ああ、よろしくな。上層部には何も言うなよ。必要な時にはあちらから指示があるはずだ。混乱は避けるようにくれぐれも頼むぞ」
Szene-03 レアルプドルフ三番地区、地区道上
南北街道を一緒に歩いていた二組のデュオは途中で別れた。
エールタインが初仕事の契約についてダンに報告したいとルイーサに伝えたからだ。
二人きりになったことで、ティベルダのご機嫌が戻っている。
これ幸いとティベルダは主人に甘えながら次々に話かけていた。
そんな二人と役人がすれ違う。
「役人さんでしたね」
「うん、この辺で役人が行く所と言えば……」
エールタインが思いついた場所へと目線をやる。
家の前に立っているダンを見つけた。
「やっぱり。何かあったのかな」
「何もないなら来ないですよね」
「ダン!」
エールタインはダンに手を振って見せた。
ダンもそれに答えるように軽く手を振り返す。
「何かあったの?」
「まあまあ。いきなりそんな話をするのはやめようや。とりあえず入りな」
ダンは家へ入るようエールタインに促し、続くティベルダの頭を撫でた。
「ティベルダ、元気そうだな」
「はい! ありがとうございます!」
久しぶりにダン家は賑やかな日になりそうだ。
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