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第三章 平和のための戦い
第四話 緊張の糸を緩ませて
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Szene-01 レアルプドルフ、ダン家暖炉前
エールタインに誘われたティベルダと、ダンが休息をとりに部屋へ向かった後、暖炉前ではヨハナとヘルマが装備の見直しと修理をしながら談笑していた。
「ねえ、いつ気付くと思う?」
「エール様でしょ? ティベルダ次第ね。あの子は分かっているんじゃないかな。エール様に呼ばれたのが嬉しくて黙ってると思う」
「最近のティベルダは成長したからねー。鈍いようで鋭い――あの子の特徴だけど、もっと伸ばしているじゃない? 黙ったままエール様との時間を満喫はするけど、ちゃんと教えると思うなあ」
エールタインたちの家はダン家ではない。自宅のように元自室へ向かったエールタインが気づくかどうか――ダン家に仕える二人の従者はエールタインの反応を楽しみにしつつ、見守ってきた少女のいる空間に浸っていた。
ヨハナは話を続ける。
「部屋は何も変えていないし手入れもしてあるから、エール様は居心地がいいでしょうね」
「この家には帰って来るもの。いつ戻ってもいいようにしておかないと」
ヘルマが自身の前で軽く拳を握ってみせる。
「ダン様とのやりとりもあることだし、珍しく「可愛がらせろ」なーんて言ってたものね。あんなにはっきり言われるとは思わなかったなー。エール様もそれに驚くのではなく、喜んでいたし。なんだか嬉しくなっちゃった」
ヨハナも同じように感じたようで、うなずいている。
「アウフ様の件が無くても、ダン様はエール様のこと大好きよね。今のエール様は、ダン様が可愛がってきたからこそだと思うわ」
二人の話は作業と同じく止まる様子は無かった。
Szene-02 ダン家、元エールタインの部屋
「ティベルダあ」
「はい、少々お待ちを」
エールタインは疲れがどっと出たようで、装備を外すと床に捨てるように置いた。
そのままベッドへと倒れ込んだ。
呼ばれたティベルダは、主人の脱ぎ散らかした装備を片付けてから自分の装備を外す。
ヨハナに新調してもらった装備のため、まだ手になじみ切っていない。
手こずりながらようやくすべての装備を外しきり、主人の待つベッドへと向かった。
「お待たせしまし……あっ」
ティベルダがベッドに膝を掛けたとたん、エールタインは飛びついてティベルダを寝転ばせた。
横になってからも、腕の力を増してぎゅぅぎゅぅと抱きしめ、藍色の長髪に顔をうずめる。
「エール様?」
「……おちつくー。ティベルダだあ……ティベル……ダ」
「あの、エール様? 寝ちゃった。こんなにしっかり抱きしめられたの久しぶり。エール様から求めてくれたのは嬉しいけど……ここ、自宅ではないから」
ティベルダはエールタインの手の甲を口元へ持っていき、唇を当てる。
反応無く寝続ける主人を起こすために、ベッドから降りた。
エールタインを揺さぶって起こすティベルダ。
「エール様、エール様、おうちに戻りましょう」
「おうち? だってここは――」
「ダン様の家ですよー。私たちの家に帰りましょう。でないと戦いの準備ができないですよ?」
ティベルダの言葉でエールタインはようやく気付いたようだ。
「ダンの家だ! ボクの家じゃない! ああ、ティベルダを抱いて休むことしか考えてなかった」
「うふふふ。私はすっごく嬉しいですけど、従者としてお仕事をする時だと思ったので」
「うん、助かったよ。それじゃあ、かえろっか」
エールタインは脚を振って勢いよくベッドから降りた。入れ替わりでティベルダがベッドを直す。
ティベルダの動きを見て、エールタインは背中をぎゅっと抱きしめてから頭を撫でた。
「ボクの足りないところをちゃんと助けてくれているね。ティベルダ……ありがと」
「エール様の従者だから――エール様だからするのです。私のことを見ていてくれる大切な人」
ティベルダは抱き着いているエールタインの肩に頭を寄せる。
エールタインがティベルダの頬に頬を重ねると、二人一緒に笑い合った。
Szene-03 ダン家、暖炉前
「あら、やっぱりティベルダが教えたみたいね」
「へー、偉いなあ。私たちも先輩として誇らしくなるわね。今まで以上に可愛く思えてきちゃった」
「ふふふ」
笑い合うヨハナとヘルマのところへ、エールタインたちが現れた。
「ボクたち帰って支度するね。またルイーサたちとここへ顔を出すから」
「はい。お待ちしていますね。ダン様にもお伝えしておきます」
ヨハナがニコニコしながら答え、ヘルマと共にエールタインたちを見送った。
話し声が聞こえたからか、ダンが部屋から出てくる。
「なんだあ? あいつら帰ったのか」
「ええ。ここでは支度ができませんから。ダン様、残念でしたね」
ヘルマの言葉に首を傾げながらダンが尋ねる。
「何が?」
「エール様を可愛がりたかったのに帰ってしまいましたよ?」
「な――いや、別にそんなことは、普段からしていることだ、問題ない!」
クスクスと笑うヘルマの背中をヨハナが叩く。
「もう、またご主人様で遊んで。だめでしょ」
「だって、ダン様は楽しいから」
「お前なあ……まったく、ヨハナの言う通り主人で遊ぶな。ヨハナよ、こいつの教育を頼めないか?」
「え? 従者は主人に似ますから」
ヘルマはクスクス笑いから大笑いへと変わり、ヨハナも一緒に笑い出す。
「ええい、もういい! 寝直しだ!」
ダンは不貞腐れ、踵を返して自室へと向かった。
エールタインに誘われたティベルダと、ダンが休息をとりに部屋へ向かった後、暖炉前ではヨハナとヘルマが装備の見直しと修理をしながら談笑していた。
「ねえ、いつ気付くと思う?」
「エール様でしょ? ティベルダ次第ね。あの子は分かっているんじゃないかな。エール様に呼ばれたのが嬉しくて黙ってると思う」
「最近のティベルダは成長したからねー。鈍いようで鋭い――あの子の特徴だけど、もっと伸ばしているじゃない? 黙ったままエール様との時間を満喫はするけど、ちゃんと教えると思うなあ」
エールタインたちの家はダン家ではない。自宅のように元自室へ向かったエールタインが気づくかどうか――ダン家に仕える二人の従者はエールタインの反応を楽しみにしつつ、見守ってきた少女のいる空間に浸っていた。
ヨハナは話を続ける。
「部屋は何も変えていないし手入れもしてあるから、エール様は居心地がいいでしょうね」
「この家には帰って来るもの。いつ戻ってもいいようにしておかないと」
ヘルマが自身の前で軽く拳を握ってみせる。
「ダン様とのやりとりもあることだし、珍しく「可愛がらせろ」なーんて言ってたものね。あんなにはっきり言われるとは思わなかったなー。エール様もそれに驚くのではなく、喜んでいたし。なんだか嬉しくなっちゃった」
ヨハナも同じように感じたようで、うなずいている。
「アウフ様の件が無くても、ダン様はエール様のこと大好きよね。今のエール様は、ダン様が可愛がってきたからこそだと思うわ」
二人の話は作業と同じく止まる様子は無かった。
Szene-02 ダン家、元エールタインの部屋
「ティベルダあ」
「はい、少々お待ちを」
エールタインは疲れがどっと出たようで、装備を外すと床に捨てるように置いた。
そのままベッドへと倒れ込んだ。
呼ばれたティベルダは、主人の脱ぎ散らかした装備を片付けてから自分の装備を外す。
ヨハナに新調してもらった装備のため、まだ手になじみ切っていない。
手こずりながらようやくすべての装備を外しきり、主人の待つベッドへと向かった。
「お待たせしまし……あっ」
ティベルダがベッドに膝を掛けたとたん、エールタインは飛びついてティベルダを寝転ばせた。
横になってからも、腕の力を増してぎゅぅぎゅぅと抱きしめ、藍色の長髪に顔をうずめる。
「エール様?」
「……おちつくー。ティベルダだあ……ティベル……ダ」
「あの、エール様? 寝ちゃった。こんなにしっかり抱きしめられたの久しぶり。エール様から求めてくれたのは嬉しいけど……ここ、自宅ではないから」
ティベルダはエールタインの手の甲を口元へ持っていき、唇を当てる。
反応無く寝続ける主人を起こすために、ベッドから降りた。
エールタインを揺さぶって起こすティベルダ。
「エール様、エール様、おうちに戻りましょう」
「おうち? だってここは――」
「ダン様の家ですよー。私たちの家に帰りましょう。でないと戦いの準備ができないですよ?」
ティベルダの言葉でエールタインはようやく気付いたようだ。
「ダンの家だ! ボクの家じゃない! ああ、ティベルダを抱いて休むことしか考えてなかった」
「うふふふ。私はすっごく嬉しいですけど、従者としてお仕事をする時だと思ったので」
「うん、助かったよ。それじゃあ、かえろっか」
エールタインは脚を振って勢いよくベッドから降りた。入れ替わりでティベルダがベッドを直す。
ティベルダの動きを見て、エールタインは背中をぎゅっと抱きしめてから頭を撫でた。
「ボクの足りないところをちゃんと助けてくれているね。ティベルダ……ありがと」
「エール様の従者だから――エール様だからするのです。私のことを見ていてくれる大切な人」
ティベルダは抱き着いているエールタインの肩に頭を寄せる。
エールタインがティベルダの頬に頬を重ねると、二人一緒に笑い合った。
Szene-03 ダン家、暖炉前
「あら、やっぱりティベルダが教えたみたいね」
「へー、偉いなあ。私たちも先輩として誇らしくなるわね。今まで以上に可愛く思えてきちゃった」
「ふふふ」
笑い合うヨハナとヘルマのところへ、エールタインたちが現れた。
「ボクたち帰って支度するね。またルイーサたちとここへ顔を出すから」
「はい。お待ちしていますね。ダン様にもお伝えしておきます」
ヨハナがニコニコしながら答え、ヘルマと共にエールタインたちを見送った。
話し声が聞こえたからか、ダンが部屋から出てくる。
「なんだあ? あいつら帰ったのか」
「ええ。ここでは支度ができませんから。ダン様、残念でしたね」
ヘルマの言葉に首を傾げながらダンが尋ねる。
「何が?」
「エール様を可愛がりたかったのに帰ってしまいましたよ?」
「な――いや、別にそんなことは、普段からしていることだ、問題ない!」
クスクスと笑うヘルマの背中をヨハナが叩く。
「もう、またご主人様で遊んで。だめでしょ」
「だって、ダン様は楽しいから」
「お前なあ……まったく、ヨハナの言う通り主人で遊ぶな。ヨハナよ、こいつの教育を頼めないか?」
「え? 従者は主人に似ますから」
ヘルマはクスクス笑いから大笑いへと変わり、ヨハナも一緒に笑い出す。
「ええい、もういい! 寝直しだ!」
ダンは不貞腐れ、踵を返して自室へと向かった。
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