自分では満足出来ない旦那様へ

りこりー

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第一章

悲鳴 ベンジャミンside

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「そんなっ…そんなっ…どうすればっ…いや、もう…駄目だ駄目だ…」

 いつものように商会に現れたリタ。公爵令嬢という立場を最大限に利用し、自分を痛めつける。いつもと違うのは、何度目かの情事の最中に執務室のドアが開いて、キャサリンが絶望の表情をしていたことだ。

 慌てて行為を止めたが、キャサリンの視線は一瞬俺の股間に向いていた。

 見られた…いや、不能だと誤解が解けたからいいのか?不貞の現場を見られたのに良いはずないだろ!

 そうこうしている間にキャサリンが過呼吸を起こして倒れてしまった。慌てて駆け寄ろうとしたが、キャサリンの幼馴染であるダニエルに汚い手で触るなと殴られた。平民のくせに貴族に手を出すなんてと言い返したら呆れたように鼻で笑われた。

「伯爵家の当主はキャシーのはず、貴様は男爵家も継げない次男坊だろ?行く先は平民じゃないか。キャシーが此処に来たのはこれの為だ」

 目の前に出された離縁承認届。何故、離婚届じゃない?もう承認された?どういう事だ?

「まだ分からないのか?スカスカの頭でよく考えろ…結婚して何日経った?」

 何日?もう一年くらいだろうか?

 一年…。その言葉に背筋が凍った。この国では貴族の少子化が問題になり、何年か前に国王陛下によって法律が増えた。一年以内に子宝に恵まれなければ離婚が認めると。もちろん、白い結婚が認められたり、頑張っても出来ないと医者に認めさせたりと色々な手続きがある。

 自分達は簡単に認められるはずだ…キャサリンはまだ純潔なのだから。

「キャシーは最後まで貴様の為に離婚してあげたいと言ってた…まさか、こんな事をしてるとは…調べればよかった、彼女がこれほど傷つく前に助けてあげたかった…。ベンジャミン、さっさと荷物を持って屋敷もこの商会からも出ていけよ。もう離婚は成立している」

 悔しそうな顔をした後、ダニエルはキャサリンを横に抱き、大切そうに連れて行ってしまった。

 引き留めたいけど、そんな資格自分にはない。

「良かったじゃない、勃ちもしない奥さんと別れられて!貴族一の美姫を奥さんに貰ったのに不能なんて笑えるわ」

「ふざけるなっ!お前のせいだろ!!」

 テーブルを叩き、怒りに震える。顔を真っ赤にして怒り狂う自分を嘲笑う様に身支度を済ませたリタに殺意さえ覚える。

「いい加減あんたにも飽きてきた所だったのよ、新しい玩具に替えたいところだったし。丁度良かった」

「は?お前何言って…」

「え?あんた本当にあたしがあんたの事好きだと思っていたの?なわけないでしょ。貴族一の美姫の婚約者に興味があっただけよ」

「そんな事の為に俺は…」

「おかげで気に食わないあの女の絶望の表情も見れたし、満足よ。じゃ、ご機嫌よう」

 俺はどうすれば良かった?

 貴族の玩具にされ、最愛の人と離婚する羽目になって。

 何が残った?

 何も無い。

 もう何も無いんだ。
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