自分では満足出来ない旦那様へ

りこりー

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第二章

嘘つき

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 ずっと、腰砕けになるほど愛されているのに子供が一向に出来ない。もう婚約してから1年が経とうとしていた。もしかしたら自分のせいなのかと医者に調べて貰ったが、自分には何も問題が無かった。

 自分に問題が無ければ、理由はひとつ。相手に問題があるということだ。

 こんな事を聞けるはずもなく、臆病な自分は閨を共にした後にこっそりと彼の子種を採取し、医者に持って行った。

 大丈夫、問題ありませんよと言われるのを信じて。

「…大変申し上げにくいのですが、この男性の方では妊娠はしにくいかと思われます。しかも、これは体質というより…避妊薬などで子種が弱ってる可能性がありますね」

 子種の数が異常に少なく、妊娠する確率はほぼ無いらしい。しかも、避妊薬の影響?ずっと自分との閨で避妊薬を飲んでいたってこと?

 なんて事なの…これじゃ、結婚する所か…婚約さえ強制的に破棄。純潔を失った自分は修道院か年上の貴族の後妻に入るしかない。しかし、自分は当主であり、婿が必要なのだから…最終的には、子種だけでもと誰かに頼む羽目になるかもしれない。

 ただでさえ、男性潔癖になっているのに…ダニエルを裏切る様なことを自分がしなくてはいけないなんて死んでも嫌だ。

 震える手を必死に隠しながら、幽霊のように生気のない真っ白な顔で屋敷に帰る為の馬車を待った。

「キャシー!」

「ローズさん…」

「なんだい、湿気た顔して…またなんかあったのかい?あたしは避妊薬を貰いに来たんだ」

「いえ…なんでもないです」

 言えるはずない。夫になる予定の人が不妊なんですなんて。どうしよう…何もいいアイデアなんて出ない。

「なんでもないって顔じゃないさね…あ、そういえばさ、キャシーの今の男ってダニエル坊ちゃんなんだろ?」

「えぇ、言ってなかったですっけ?」

「いや、もうダニエル坊ちゃんの所はもう娼館に商品卸してないんだよ。だから、婚約したってのは噂で聞いたけど、相手までは知らなかったよ!長年の片思いが成就したんだねって娼婦仲間とも喜んでたんだ」

「ダニー…皆さんにそんな話をしてたんですか?なんだか恥ずかしいわ…」

「あはは、いいんじゃないか。それに坊ちゃんの相手は骨が折れるだろ?毎回毎回、執拗に前戯してきて皆腰痛くってたまんないって文句言ってたよ。あ、こないだ腰抑えてたのはそれかい?」

「え…………?」

「筆おろししてやったあたしにでさえ、キャシーキャシーてうるさくてさ、こっちは体型も髪型も似てないのにって思ってたらあいついつも目を閉じてやがったんだよ!娼婦を舐めてんのかって怒ったけどさ、ずっと想ってたんだろ。幸せじゃないか…って、どうしたんだい?顔が白い通り越して土気色になってるよ?」

「それ、私が聞いて喜ぶと思ったんですか?」

「あーごめん。あたしそういう所の空気読めないってよく言われるんだよ、あはは、本当ごめん!じゃ、じゃあ、あたし行くさね」

 本当に嫌になる。娼館通いしてたから不妊になったの?ふざけんなよ。

 女性経験ないって言ったくせに。

 嘘つき。
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