自分では満足出来ない旦那様へ

りこりー

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第二章

秘密 ダニエルside

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 毎日、愛しいキャサリンを愛す。もう20年も片思いをして、やっと手に入れた。やっとその柔らかい肌を自分が触れられる。

 いまだに閨事に照れるキャサリンはまるで小動物のように身を小さくするけど、一生懸命に自分に応えようと縋りついてきてくれる。この時に一番の幸せを感じる。自分のものになったのだと。

 初めて会った5歳の時、なんて可愛い赤ちゃんなのだろうと思った。

 毎週伯爵家の商会に父の付き添いで行く度、その赤ちゃんを見ていた。この子は大きくなったらどんな顔になるんだろう。この綺麗な瞳は僕を映したらどんな気分なんだろう。そんな事を思っていた。

 キャサリンが6歳にもなる頃、彼女の周囲は貴族の令息で固められていた。あまりの人気に伯爵も困って、早めに婚約者を作り、彼女を守ろうとした。

 いくら大きな商会を持つ自分の家でも平民では候補にあがることはなかった。仕方がないんだけど、まだ幼い自分は納得できなかった。キャサリンの事を一番好きなのは自分だし、分かっているのも自分だって思っていたから。

 それに婚約者はキャサリンより7歳も年上で、まだ自分にはない大人の様な余裕があり負けた気がした。キャサリンも紳士的な奴に絆されたようで、自分には向けない熱っぽい視線を向けていた。

 キャサリンが正式に奴と結婚した時、自分は諦めようとした。もう他の人の物になってしまうと思うと腸が煮えくり返るような苛立ちを覚えた。

 それなのに奴は不能なんだとキャサリンに相談された時に…もしかしたらと思ってしまった。諦めきれなくなって、ずっと彼女の相談に乗り、必要以上に彼女を支えた。別に商会の仕事など下の人間に任せればいいのに、伯爵家の用事は全部請け負ったし、自分が関わるようにした。

 自分はいつも彼女の傍にいると意識に刷り込ませたかった。

 あの日、まさか自分も奴が不貞を働いているとは思わなかったが…あの男と縁を切らせることに成功した。

 離婚は、後継ぎの事もあっただろうけど、優しいキャサリンの事だから絶対自分を責めるはずだ。目論見通り、悩み苦しむ彼女の傍にいて癒そうと思った。なんとか男として意識して欲しくて、真面目に告白しても苦笑いを浮かべる。

 でも、そんなんでも自分は嬉しかった。今までは、はいはいと受け流されてしまっていたのに、今は苦笑いを浮かべたとしても自分と目を合わせてくれる。想いはドンドン膨れていった。

 しかし、問題は起きた。彼女はどうやら元夫のせいで、男性潔癖というものになってしまったらしい。女性経験があると思うと自然と嫌悪を抱くようで、自分に触れるのも嫌なようだった。信用して貰えれば、触れてくれるかもと頑張ってみたが彼女の傷は深い。

 俺は人生で初めて彼女に女性経験はないと嘘をついた。

 嘘をつくことに何の罪悪感もなかったのかと聞かれれば、なかったわけではない。それに彼女が言っていた通り、自分は初めてを娼館で捨てている。

 初めての女性は柔らかく、もう自分の物にはならないキャサリンを思い浮かべて、快楽に溺れた。何度も商会の荷運びと称して娼婦達に可愛がってもらった。

 商品を安値で卸す代わりに娼婦を抱く生活をしばらくしてた時に、娼館から出てくる所を偶然キャサリンの父親に会ってしまった。首元の鬱血痕を見ながら、汚らしいと呟いた前伯爵の顔は今でも忘れられない。今でも結婚を反対しているのはそれが原因だと分かっている。

 けれど、あの時はキャサリンが結婚してしまって自暴自棄になってしてしまった。

 前伯爵と偶然会った日から娼館通いはやめたけど、まさかキャサリンまでも知っているとは思わなかった。とっさについた嘘だったけれど、信じてくれてよかった。

 絶対にバレないように娼館に商品を卸すの止め、自分もキャサリンも周辺に近付かないし、近づけさせないというのを徹底したし、キャサリンの父親の結婚承諾の説得には自分一人で行くのを徹底した。キャサリンが心配して何度もついて来ようとしたけど、男としてのけじめだからと言って一人で行った。

 この秘密は墓場まで持っていく。そう決めたんだ。死んだってバラすものか。
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