自分では満足出来ない旦那様へ

りこりー

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最終章

こんなに自由でいいのかしら

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 目が不自由になって、最初は戸惑ったけど何のしがらみもないこの環境はなんとも言えない感情を自分に与えてくれた。内臓が傷ついてしまい、寿命もいつまで持つか分からないらしい。けど、この生活はその事を忘れるくらい自由で快適だった。

 なんて言っても毎日執務に追われる事も、後継ぎに頭を悩ませる事もない。なかなか許してくれないダニエルとの結婚もなくなった。ダニエルは新しい恋人を作ったかしら?結婚したかしら?不妊の事は伝えなかったけど、後で何か問題にならないかしら?

 最後に会った時は、泣いて謝っていた…。上手く返事を出来ないまま、婚約は破棄されて領地に来てしまった。目が見えなくったのは、ダニエルのせいじゃないのよって言ってあげればよかった。

 正直ダニエルの事は今も好き。嘘をついていたことに物凄い嫌悪と失望を覚えたけれど…それでも好きなものは好きなのだ。たくさんの娼婦を抱いたって聞いて正直嫉妬もしたし、あんな甘い声を誰かに聞かせていたなんて知りたくなかった。

 でも、嫌いにはなれないの。それが答えだと思う。

 この生活をして、過去を振り返るとベンジャミンの事も仕方なかったのだと思える。それに十三年も彼を愛していたのは事実で、あのときめきも事実だ。

 初めて愛を教えてくれた人。それなのに忌み嫌うのもなんか違うのかなって。

「えっと、スプーン…」

 手探りでスプーンを探していると手にスプーンを持たされた。きっとマイクね。新しく執事になった彼は、少し声が枯れていて喉の調子がいつも悪そう。

 一回蜂蜜を差し入れしたら、沈黙の後に泣きそうな声でありがとうございますと言われた。そんな特別な事をした覚えはないけれど、口数少ない彼はいつも自分が何をしたいのか分かっているかのように先回りしている。

 仕事ができる人みたいなのに、こんな辺境の執事で満足しているのは何か事情があるんだろう。自分も色々あったからそんな野暮な事は聞かない。

 それに最近は友人も出来た。傭兵のベンさん。少し声が低くて手は痛々しいほどの傷があった。いつもくだらない自分の話を聞いて言葉数少ないけど、答えてくれる。

 なんだか、マイクとベンさんは前からの知り合いみたいで親しそうに砕けて話していてちょっと妬けちゃうわ。自分も混ぜて欲しいなって。今度言ってみようかしら?何か話してくれるかしら?
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