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Side 木田
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彼の名は木田聡/きださとし。現在29歳。身長184cm。
木田はつい3ヶ月前まで、名古屋のバーやライブハウスを回ってドラム演奏のバイトをしていた。
それは高校時代に遡る。
高校卒業を目前に控え、地元の農協から内定をもらっていた木田に友人が話を持ちかけた。“学祭でおまえの演奏を聞いたライブハウスのオーナーが、名古屋に来ないかって”と。
木田は真面目な性格だった。でも人間、真面目一辺倒ではどこかに歪が生じるのだろう。突然とんでもないことをしでかすのが木田だった。
木田は農協の内定を丁重に辞退し、名古屋に向った。
そして今、同じことが起きようとしている。
名古屋で10年以上ドラマーとして活動していた木田は、その界隈ではそこそこ名が知れていたし、仕事も食べていける程度に入ってきていた。だけど…これを40歳、50歳を過ぎても続けるのは無理だと悟った。体力的にも需要的にも精神的にも。
木田は後悔して決意した。あの時、農協に就職しとけばよかった。だけど今さらそれを言っても仕方ないから、大台に乗る前に実家に帰って就職先を探そう。
そうと決めたら行動が早いのが木田の長所。すぐ友人に頼んで、個人所有の楽器を実家に運んでもらい、住んでいたアパートも引き払い、お世話になった人たち一人ひとりに会ってお礼を言った。
そして就職活動をしようとスーツを買い、靴と鞄を揃えたところへ、NS企画の水谷と名乗る男から電話があった。木田がドラムを辞めるのを惜しいと思っていたライブハウスのオーナーが連絡先を教えたらしい。さらに水谷は“観光ついでだから”と、木田の実家までやってきた。
半信半疑だった木田も、実際に水谷と会って話を聞いているうちにその気になってしまった。ドラムに対する情熱が完全消火されずにいたのだろう。“やめとけよ”という両親に、“ダメそうなら半年以内帰る”と言い残し、特急列車に乗り込んだ。
***
親切な美しい男性のおかげで、復活した木田は無事NS企画の事務所に到着した。そして水谷にバンドのメンバーを紹介され、上手くいきそうな予感がしてきた。でも、こうと決めたら猪突猛進な木田の決心はガラにもなく揺らいでいた。あの駅の混雑具合がトラウマになっていたから。
とりあえず、元新宿区民の友人のツテで契約したアパートでひと晩過ごした。そこでまた木田は“ここはどこ?”と、今度は太平洋の真ん中に置き去りにされた気分になった。だって周りから聞こえてくるのは外国語ばかりだったから。しかも英語ではなさそう。
帰ろうかな…そう思いながらも、決められた時間になると事務所の隣にある練習室に行ってしまう真面目な木田だった。
木田はつい3ヶ月前まで、名古屋のバーやライブハウスを回ってドラム演奏のバイトをしていた。
それは高校時代に遡る。
高校卒業を目前に控え、地元の農協から内定をもらっていた木田に友人が話を持ちかけた。“学祭でおまえの演奏を聞いたライブハウスのオーナーが、名古屋に来ないかって”と。
木田は真面目な性格だった。でも人間、真面目一辺倒ではどこかに歪が生じるのだろう。突然とんでもないことをしでかすのが木田だった。
木田は農協の内定を丁重に辞退し、名古屋に向った。
そして今、同じことが起きようとしている。
名古屋で10年以上ドラマーとして活動していた木田は、その界隈ではそこそこ名が知れていたし、仕事も食べていける程度に入ってきていた。だけど…これを40歳、50歳を過ぎても続けるのは無理だと悟った。体力的にも需要的にも精神的にも。
木田は後悔して決意した。あの時、農協に就職しとけばよかった。だけど今さらそれを言っても仕方ないから、大台に乗る前に実家に帰って就職先を探そう。
そうと決めたら行動が早いのが木田の長所。すぐ友人に頼んで、個人所有の楽器を実家に運んでもらい、住んでいたアパートも引き払い、お世話になった人たち一人ひとりに会ってお礼を言った。
そして就職活動をしようとスーツを買い、靴と鞄を揃えたところへ、NS企画の水谷と名乗る男から電話があった。木田がドラムを辞めるのを惜しいと思っていたライブハウスのオーナーが連絡先を教えたらしい。さらに水谷は“観光ついでだから”と、木田の実家までやってきた。
半信半疑だった木田も、実際に水谷と会って話を聞いているうちにその気になってしまった。ドラムに対する情熱が完全消火されずにいたのだろう。“やめとけよ”という両親に、“ダメそうなら半年以内帰る”と言い残し、特急列車に乗り込んだ。
***
親切な美しい男性のおかげで、復活した木田は無事NS企画の事務所に到着した。そして水谷にバンドのメンバーを紹介され、上手くいきそうな予感がしてきた。でも、こうと決めたら猪突猛進な木田の決心はガラにもなく揺らいでいた。あの駅の混雑具合がトラウマになっていたから。
とりあえず、元新宿区民の友人のツテで契約したアパートでひと晩過ごした。そこでまた木田は“ここはどこ?”と、今度は太平洋の真ん中に置き去りにされた気分になった。だって周りから聞こえてくるのは外国語ばかりだったから。しかも英語ではなさそう。
帰ろうかな…そう思いながらも、決められた時間になると事務所の隣にある練習室に行ってしまう真面目な木田だった。
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