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これも、マナーですので◆
「セーフワードって、どうすりゃいいんだ?」
「先輩が『無理』だと思ったときに叫ぶ言葉、なんでもいいですよ。コマンドを受ける側であるSub、つまり先輩のほうから強制的にDomの支配を止めるための言葉なので」
ダイナミクスによるプレイは決してDom側からの一方的なものではなく、あくまで合意のものであるのが大前提であり、むしろ本来の主導権はSubが握っているとも言われるゆえんがセーフワードの存在だ。
「ん-、別にお前なら大丈夫だろうし俺もなんでもいいけど。絶対要るんだよな」
「ええ、これも、マナーですので」
Subがセーフワードを叫んだ時点でプレイは強制的に終了される、というのは比較的知られている事実だが、基本的にプレイ中にセーフワードが使用されることは想定していない。そもそも人としてSubが受け止めきれないほどの支配をすべきではないし、それを担保するための形式的な約束事だ。
逆に万が一セーフワードを使われることがあれば、お互いあるいはどちらかに何か問題がある可能性が高いということだ。だからこそ気軽に口にすべきでなく、同時に咄嗟に口にできる言葉であることが望ましい。
「そっか、そうだな……要は萎えさせりゃいいのか? んじゃお前、母ちゃんの名前なんつうんだ」
「はああ? ……まあある意味効果てきめんだとは思いますけど。あなた咄嗟に『ユミコ』なんて言えます?」
「んー、ユミコさんね。咄嗟に、って言われると、まあ……あれだ」
「…………そりゃあ、そうでしょう」
…………はあ、全く。
あれはかなり危なかった。
うっかり本格的にプレイに流されそうになったのは、どう考えたって先輩が無邪気すぎるのが悪いと絶対に言い切れる自信はある。
確かにあの日はあの店のせいで最初からコマンドにかかっていたから、結果的にプレイまがいの行為に繋がったのもなし崩しではあった。だがさすがに今回に関しては、事実として流されかけたのは俺自身の性質で。まさか職場だってことも忘れかけて、あんなにも理性が吹っ飛びそうなほどダイナミクスに引っ張られるなんて。
あのタイミングで冷静になれたのは、今回ばかりは先輩のデリカシーのなさに助けられたと心底感謝する。
あのまま続けてプレイに突入していたら、なし崩しになにをどこまでやっていたのか正直想像はしたくない。
確かに先輩は、あんなコマンドとも呼べないほどの軽口にすらも反応してしまうほどには、初心なSubだってことは間違いない。
だが客観的にはそんな危なっかしさこそあれどいざ対峙してみれば、多くのSubにみられがちな儚さや脆さみたいなものが一切感じられなかったことに今頃気づく。俺のDom性をほんの少しでも開示するだけで一方的に怯えられることのほうが多かった苦い思い出も、あまりの急展開にすっかり失念していたなんて。
Domという存在をいまいち理解していないからこそ彼にとっての俺は、ただの年下の部下であり後輩で。多少支配の素振りを見せたころで確かに怖がる要素なんてないのかもしれないが、だからそういうところが無防備だって言ってんだ。それでもDomとしてはどうかと思うが、だからこそ俺自身が信頼され――いや、さすがにそれは自惚れすぎか。
普通に考えれば可愛さなんて欠片もないはずの存在なのに、まっすぐにグレアを向ければ期待に満ちた上目遣いの視線が逸らされる気配はなくて。今自分が浴びせられているものの重さなんてなにも知らないで、どこまでもマイペースなその表情でどこまでも受け止めてくれるような気にすらさせられる。
それと同時にどこまで踏み込んで支配すればそれを崩してやれるのだろうか、なんて倒錯した背徳感にヒュッと下腹部が浮くような気持ちよさが堪らなくて。理性による制御が一気に緩んでいく感覚は、不本意ながら確かにあった。
……って、ああもう。そもそもどうして俺がこんなに悩ませられなきゃならないんだ。
別にDomがSubとプレイすることなんて、珍しいことじゃない。
俺にとってもこんなにも気を遣う必要のない貴重な相手には違いないし、そもそも先輩がダイナミクスに納得すれば俺の役目はそれで終わりだ。だからそれまで、割り切ってお互いにいいとこ取りしておけばいいだけだ。
「先輩が『無理』だと思ったときに叫ぶ言葉、なんでもいいですよ。コマンドを受ける側であるSub、つまり先輩のほうから強制的にDomの支配を止めるための言葉なので」
ダイナミクスによるプレイは決してDom側からの一方的なものではなく、あくまで合意のものであるのが大前提であり、むしろ本来の主導権はSubが握っているとも言われるゆえんがセーフワードの存在だ。
「ん-、別にお前なら大丈夫だろうし俺もなんでもいいけど。絶対要るんだよな」
「ええ、これも、マナーですので」
Subがセーフワードを叫んだ時点でプレイは強制的に終了される、というのは比較的知られている事実だが、基本的にプレイ中にセーフワードが使用されることは想定していない。そもそも人としてSubが受け止めきれないほどの支配をすべきではないし、それを担保するための形式的な約束事だ。
逆に万が一セーフワードを使われることがあれば、お互いあるいはどちらかに何か問題がある可能性が高いということだ。だからこそ気軽に口にすべきでなく、同時に咄嗟に口にできる言葉であることが望ましい。
「そっか、そうだな……要は萎えさせりゃいいのか? んじゃお前、母ちゃんの名前なんつうんだ」
「はああ? ……まあある意味効果てきめんだとは思いますけど。あなた咄嗟に『ユミコ』なんて言えます?」
「んー、ユミコさんね。咄嗟に、って言われると、まあ……あれだ」
「…………そりゃあ、そうでしょう」
…………はあ、全く。
あれはかなり危なかった。
うっかり本格的にプレイに流されそうになったのは、どう考えたって先輩が無邪気すぎるのが悪いと絶対に言い切れる自信はある。
確かにあの日はあの店のせいで最初からコマンドにかかっていたから、結果的にプレイまがいの行為に繋がったのもなし崩しではあった。だがさすがに今回に関しては、事実として流されかけたのは俺自身の性質で。まさか職場だってことも忘れかけて、あんなにも理性が吹っ飛びそうなほどダイナミクスに引っ張られるなんて。
あのタイミングで冷静になれたのは、今回ばかりは先輩のデリカシーのなさに助けられたと心底感謝する。
あのまま続けてプレイに突入していたら、なし崩しになにをどこまでやっていたのか正直想像はしたくない。
確かに先輩は、あんなコマンドとも呼べないほどの軽口にすらも反応してしまうほどには、初心なSubだってことは間違いない。
だが客観的にはそんな危なっかしさこそあれどいざ対峙してみれば、多くのSubにみられがちな儚さや脆さみたいなものが一切感じられなかったことに今頃気づく。俺のDom性をほんの少しでも開示するだけで一方的に怯えられることのほうが多かった苦い思い出も、あまりの急展開にすっかり失念していたなんて。
Domという存在をいまいち理解していないからこそ彼にとっての俺は、ただの年下の部下であり後輩で。多少支配の素振りを見せたころで確かに怖がる要素なんてないのかもしれないが、だからそういうところが無防備だって言ってんだ。それでもDomとしてはどうかと思うが、だからこそ俺自身が信頼され――いや、さすがにそれは自惚れすぎか。
普通に考えれば可愛さなんて欠片もないはずの存在なのに、まっすぐにグレアを向ければ期待に満ちた上目遣いの視線が逸らされる気配はなくて。今自分が浴びせられているものの重さなんてなにも知らないで、どこまでもマイペースなその表情でどこまでも受け止めてくれるような気にすらさせられる。
それと同時にどこまで踏み込んで支配すればそれを崩してやれるのだろうか、なんて倒錯した背徳感にヒュッと下腹部が浮くような気持ちよさが堪らなくて。理性による制御が一気に緩んでいく感覚は、不本意ながら確かにあった。
……って、ああもう。そもそもどうして俺がこんなに悩ませられなきゃならないんだ。
別にDomがSubとプレイすることなんて、珍しいことじゃない。
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