翔田美琴のエリオットシリーズ

翔田美琴

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シルバーヘアーのメロディー

3話 あの子の想い出

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 あの子は…ジェニファーはよく笑い、そしてよく泣く子だった。
 アネットが天に召されて、少し心配はしていたが、私がよくする”ごほうび”にあの子は凄く喜んでいた。それは到底、普通の家庭ではやらないことだが。
 アネットがいなくなって以来、あの子は私の傍らで寝るのを望んでいた。
 もう誰もいなくなって欲しくないと思っているのだろう。
 私が”おやすみ”の挨拶をすると、あの子は”自分もパパと一緒に寝る”と言って聞かなかった。
 大粒の涙を流して、私の胸の中で寝るのを望んだ。
 確かにまだ当時七歳の彼女と共に寝るのはさして抵抗もなかった。
 だが、娘がだんだんと成長を続けるに従って、娘がアネットの生き写しみたいに見えた。
 そして私の内なる欲望が、それを刺激するようになった。
 アネットとした女との関係。
 久しくここ数年、私は他の女性と関係を持ったことがなかった。
 私の内なる雄の部分が刺激されると、私は自室のパソコンにある、彼女の映像を観てそれを発散させた。だが、その映像のファイルの中にどうしても開けないフォルダーがあったのだ。
 パスワードが設定されていて、そのパスワードを入力しないといけない圧縮ファイルだった。
 そのタイトルは”最後のお願い”というタイトルだった。
 ずっと気にはなっていた。だけど、開く勇気が出なかった。
 この日もそう。娘のジェニファーは、私と一緒に寝ると言って、私の自室のベッドで寝ている。
 無論、彼女がここにいる以上、恥ずかしいことはできない。
 ジェニファーが寝息を立て始めたのを確認した私は、起き上がりパソコンに向かった。
 真っ暗闇の部屋の中、パソコンの画面だけが目に痛い程、眩しく輝いている。
 そして、ずっと気になっていた圧縮ファイルにマウスのカーソルを動かした。
 パスワードを入力する画面になる。
 私はそのパスワードは知らなかったが、一つ思い付くパスワードがある。
 私のベッドで寝るこの子の名前。
 試しに打ち込んだ。「Jennifer」と。
 すると、案の定それが正解のパスワードだった。
 画面にアネットが映った。カメラに向かって私に遺言を遺している。

「あなたがこれを観ているということは、パスワードがわかったということですね。これはあなたへの遺言です。それともう一つ伝えなければいけないことがあります。この遺言が流れると同時に、今まであなたが残した映像のファイルは削除されるようにしておきました。ごめんなさい。でも、私の最後のお願いをどうか聴いて欲しいの。あの子を…ジェニファーをどうかあなたの将来の伴侶として迎えてあげて?その為に戸籍を、あなたの家族の一員としての戸籍から外しておきました。今のジェニファーは戸籍上では、あなたの娘じゃなくて、私の家族…シンプソン家の戸籍になっています」

 ちょっと待て。あの子は…ジェニファーは君が私に望んで産んだ子だろう?
 間違いなく、私の血だって流れている。
 どういう意味なんだ?アネット?

「どうかジェニファーを私の代わりに…妻として迎えてあげて…?どうせ、あなたのことだから、私の他に女性を愛する訳がないでしょう?」

 ああ。そうだよ。君しか愛さない。愛していない。

「いつか、私の生命の火が消えるのだから、なら、お願い。これからはジェニファーを私だと思って愛してあげて?お願い…エリオット…! この映像が流れ終わる頃には、あなたが残した映像のファイルはもう、無くなっている頃でしょう。これからはジェニファーを私と思って、あなたの人生を歩んでください。さようなら…。私はこれでもう永遠にあなたの目の前から消えます。さようなら、エリオット」

 そこで映像が終わるとプログラムが始動し始めた。
 画面には全ての映像ファイルを削除するというメッセージが…!
 慌ててそれを止めようとした。が、そのプログラムは完全に制御され、私のパソコンの中のハードディスクに入っているデータが…映像のデータが削除された。

「どういう意味なんだ! アネット!」

 私にはそう叫ぶしかなかった。
 そしてまた私の目には涙が溢れ、頬に伝っていった。
 私にそれを取り上げないでくれ…。私を…一人にしないでくれよ…!
 プログラムが起動して数分で、私が残した彼女との愛の交換の記録は全部削除されていた。
 ハードディスクの中にもそれはもう跡形も残っていない。
 本当に…何もかも無くなっていた…。
 私は頭を混乱させていた。
 少なくとも、あの子は…ジェニファーは、間違いなく、アネットと私との間に生まれた子だった。
 それを…実の娘であるあの子と一緒になれというのか? 父親である私が…?
 アネット…君はそれでいいのか?
 その日はあまりのショックで当然眠れなかった…。

 翌日。アネットの遺言が本当であるかどうか確かめる為に役所へ向かい、ジェニファーの戸籍謄本を調べた。すると、確かにジェニファーは私の戸籍から外されて、私の戸籍は今はもう独身の男として登録されていた。
 ジェニファーの戸籍は確かにアネットの実家・旧姓シンプソン家の一員として登録されている。
 その当時はジェニファーはまだ十歳。
 私は四十歳だった。

 こうして、戸籍上では赤の他人となった父と娘の生活が始まった。
 でも周りから見れば、彼女と私はどこからどう見ても親子だった。
 ジェニファーは多感な年頃になって、私がピアノを弾く様子を好きで仕方なかった。
 そうして彼女も自然と、ピアノに興味を持ち始める。
 私は彼女にピアノの個人レッスンをすることに決めた。
 無論仕事の都合で家を空け、アネットの両親に預けていくことになったが、戸籍上では彼らとジェニファーは親子である。向こうはそれを知らないが。
 だが、そうそう国外に行くような仕事でもない。
 私は確かにプロのピアニストだった。だが、そうしょっちゅうオーケストラ公演がある訳でもない。
 休みの日は大概、ジェニファーとピアノの個人レッスンに時間をあてた。
 私は彼女にピアノのイロハを教えてゆく。それは昔、アネットが私に教えた方法でもあった。
 アネットはよくこう口にしていた。

『歌う音譜が分かるとほとんどの歌が歌える。それと同じことで、演奏できる音譜が分かるとほとんどの曲が弾ける』

 最初は”そういうものかな?”って思っていたけど、確かにそうだった。
 でも、さすがにジェニファーにはそう教えられるものではない。
 彼女にピアノを教えるに当たって、私は毎回、課題を与えてみることにした。
 その課題をクリアしたら、”ごほうび”をあげると。

「パパ? ”ごほうび”って何?」
「それは内緒」

 優しくそう声をかけた。
 私の隣にいつも彼女が座っていた。
 彼女はその”ごほうび”欲しさに頑張って私のプライベートレッスンを受けていた。
 そして、課題をクリアして見せた娘に、私は、その”ごほうび”として、まず軽いキスから始めた。

「パパ! 出来たよ!」
「ああ。そうだね。よくやった。ジェニファー」

 そう言うと、私はそのピアノの椅子に座ったまま、隣の娘の顔を両手で包んで、初めて娘の唇を奪った。ほんの少し、唇と唇を重ねた。

「パパ…?」
「これが”ごほうび”。嫌か?」
「もう一回して?」
「もう一回か?」

 そうやって、また唇に唇を重ねる。
 まだ小学生の娘相手に、本気になりそうだった。

「今日はこれでおしまいにして、お風呂に入ろうか?」
「うん!」

 全く無邪気な娘だった。そんな無邪気さに私は付け入るかのようにスキンシップと称した、軽い素肌を合わせる関係になっていく。
 バスルームという個室の中、ジェニファーと私は一緒にバスタブに入る。
 そして、彼女のあどけないしなやかな身体を、ボディソープできれいにしていった。
 独特のボディソープの…あのぬるぬるとした触感越しに彼女の身体の感触を確かめるように、背中を流す。髪を洗う。そして、密かに欲情した。
 その間は私はバスタブに入ったまま、ただ、いつも瞳は濡れていた。
 娘の身体をきれいにしたら、今度は私がバスタブから出て、娘をバスタブに入れさせた。
 そうして、他人からはあまり見たことのない色の髪だと言われる銀髪を洗った。
 ジェニファーも不思議に思っていた。

「パパの髪の毛、とても不思議」
「そんなに不思議か? この髪?」
「だって、同級生の男の子たちはみんな金色だったり、茶色だったり、黒かったりなのに、パパのような銀色の髪の毛の人見たことないもん」
「パパだって不思議に思っているよ? でも、おかげで一目でみんなパパのこと憶えてくれるよ」
「パパってお髭も瞳も不思議な色。みんなきれいな紫色」

 私はそんな娘の指摘に耳を傾けて、毎日の日課である髭の手入れをしている。
 この髭が私のトレードマークだった。
 この銀髪と髭が。
 アネットは、真夜中になるとその銀髪が夜に映えて不思議な魅力になっていると言っていた。
 だから、私を”真夜中のピアニスト”と呼んだ。

「ジェニファーの瞳の色もパパと同じだな」
「本当?」
「嘘だと思うなら、そこの鏡で覗いてごらん?」

 ジェニファーがバスタブから出ると、私の横に来て私の顔が写っている鏡を、自分も覗き込む。

「あ…」
「パパと同じ紫色の瞳だよ?」

 何気なく肩を寄せた。親子とはいえ直接異性の肌が触れるのは、少し恥ずかしい。
 全裸のジェニファーは私の前に立つとまだおねだりした。

「パパ。”ごほうび”が欲しい」
「もう十分、唇を重ねたじゃないか?」
「もっと欲しい。パパの口、凄く甘い」
「今日は本当にこれで最後だからね?」

 そう言って、私は欲情したのか、この日の最後のキスは、思い切り濃くなってしまった。
 まだあどけない娘の唇の中に舌を絡める…。
 そして、癖のように彼女の身体を…背中を愛撫してしまった。

「んんっ…」

 そして唇を離した…。少し名残惜しかった…。

「今日はこれでおしまい。あんまりお風呂に入っているとのぼせるから上がるか」

 そうして、まるで恋人同士が入るようなバスタイムを終わらせた私は、薄い白いシャツを着て、トランクスを穿いて、黒いズボンを穿いた。
 ジェニファーもパジャマを着て、そしてやはり私の傍らで寝ることを望んだ。
 でもこの日は、この夜はいいかと思った。
 ジェニファーは私に抱きつくようにして深い眠りに落ちていく。
 その感触が私にはアネットが隣にいるような錯覚を起こさせる。
 意識的にジェニファーをきつく抱きよせ、その寝顔を覗き込んだ。
 彼女は満足するように安らかに寝息を立てている。
 また、私の頬に涙の雫かこぼれた。
 毎日のように泣いている私が、夜に一人で泣いている私がそこにいた。
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