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シルバーヘアーのメロディー
10話 透明なリズム
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三月中旬。私はロンドンからここ日本に来日した。現在地は成田国際空港。
実は日本には数回だが来たことがある。オーケストラ公演がほとんどで、今回は初めてCDの音源の録音の為に来日した。そのまま、首都東京に向けて出発した。
録音スタジオは首都東京のあるスタジオ。そこで私は今回二曲のサントラに参加する。
どちらともジャズアレンジがされた曲だった。
東京の三月はとても過ごしやすい。いよいよ春も間近という所だろう。
街路樹も少しずつ、新緑の葉を生やし始めていた。
今、私はスーツケースを転がし、東京の街を歩いている。
さすが首都東京。毎回来日して驚くが凄い高層マンションが建ち並んでいる。
私の格好は、普通のビジネススーツだった。濃いめの灰色のスーツに、同系統の色のベスト。青いネクタイ。靴も革靴だ。スマホを片手に道案内アプリを開く。そして目的地へと向かった。
やがて、道案内アプリの通りに歩くこと十分。目的地へとたどり着いた。
待ち合わせ時間の十五分前。ふむ。いい感じだな。早速、そのスタジオに入った。
既にスタジオには私と共演するトランペット奏者とアルトサックス奏者と、シンセサイザー担当、ドラムス担当、その他もろもろのスタッフが待っていた。全員、私と同じ外国人。でも英語は通じる相手だった。
そこにはオリジナルの作曲者も居合わせていて、その人物は女性だった。
「こんにちは。あなたがエリオット・レムさんですね」
「はい。今回は貴重な体験が出来ると聞いて楽しみにしています」
「凄いな。あの世界的なピアニストのエリオット・レムさんと共演出来るとは」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
一緒に共演する男性たちと軽く握手した。
そして、まずはそれぞれ楽器のチューニング作業に入った。
ここにもピアノ専門の調律師がいて、今回のサウンドプロデューサーも同席していた。
チューニングが終わると、次はサウンドプロデューサーからの注意事項やら、どのようなサウンドを求めているかなどに耳を傾ける。
そして、リハーサルが開始された。数回セッションをする。
実はこのジャムセッションが、意外に難しい。私は主にクラシックコンサートがメインで、ジャムセッションは実はあまりしたことはない。
それにクラシックとジャズでは天と地ほどの差がある。
クラシックは指揮者がいるから、基本的に指揮者の指揮に従ってピアノを奏でればいいが、ジャムセッションは指揮者はいない。楽譜を見てメロディーラインを追いかけていけばいいという訳でもない。その間にフィル・インつまり”おかず”と呼ばれる要は演奏者がアドリブを入れる場所があるのだ。なので、その演奏者の力量が問われるのである。
でも、数回に渡りジャムセッションを繰り返すと何だかコツがわかってくる。
これは言葉では言い表せない。自分の音感とリズム感とテクニックとセンスだけが頼りだな。
そこには普段のコンサートでは体験できない共演者との触れ合いがあった。
「はーい。OKです。ではしばらく休憩をはさんで、レコーディングを始めます」
「さすがエリオットさん。世界的なピアニストの名前は伊達ではないですね」
「いや。君たちの方が場慣れしているよ」
「普段はエリオットさんは、シューベルトやらショパンや、チャイコフスキーとかリストとか弾いているのでしょう?どうです。こういうゲームミュージックのサウンドは?」
「正直凄いね。確かにショパンとかも綺麗な曲が多いけど、ゲームミュージックもきれいな曲は綺麗だよ。新鮮な気持ちになれる」
「しかもなかなか難しいメロディーラインだ。久しぶりに来日する前に練習に明け暮れた」
「でもさっきのセッション中はエリオットは完璧だったよ」
「アドリブも良かったね」
「レコーディングが終わったら飲みに行こうか?」
「それ、いいね」
「レコーディングは数回に分けてやるらしいな」
「もしかして、エリオットはCD音源の出演は初めてか?」
「日本では初めてだね。イギリスの方でもあまりそういう機会はない。いつもコンサートの方で活動しているから」
「でもさすがコンサートに出ているだけあって、セッションのコツも簡単に掴んだな」
「意外とジャズもいけるんじゃないか?」
まあ、確かにそう言われればそうも思える。
単純に比較は出来ないが、クラシックコンサートにはそれの良さがあるし、こういうジャムセッションも他のミュージシャンと腕を競え合えるという利点もある。
腕を競うということは要は自分の腕を、才能を磨けるということでもある。
そうすれば、クラシックコンサートでの仕事は増えるし、それによる収入も上がる。
他の言い方をすると、ジェニファーとも少し距離が置けるという理由も出来る。
正直、今の私は相変わらずの狂ったメロディーだった。
全然、自分の狂ったメロディーを修正出来ていない。むしろそれはもう、狂気のような気がする。
こうやってジャムセッションをしていると、そんな自分を忘れることが出来る。
ピアノを弾く。その行為が私を正気の世界へ引き戻す。まっとうな世界へ。
でも我が家に帰るときっと、すぐにその正気が無くなって狂気が私を支配するのだ。
だからなるべくなら、しばらくの間は日本なりどこか別の国で仕事はしたい。
自分の頭を冷やす為に。狂ったメロディーを直す為に。
「それではみなさん、レコーディングを始めますから、スタンバイ、お願いします」
「おっ。時間か。よし、やるか」
「そうだな。よし」
私も鍵盤に向かって、顔だけを、他のミュージシャンに向けて、スタンバイをした。
そうして…きっかけの合図と共に私はイントロダクションの部分を弾きだした。
整ったメロディーを奏でる。
やがて、ドラムス、シンセサイザー、トランペットが続いて、その曲を演奏し始める。
ウッドベースの音と共に、私は”リフ”と呼ばれる、その曲のイントロやエンディングなどで繰り返し現れる印象的なフレーズパターンを正確に奏でた。
その後は、さっきジャムセッションなどで話した”おかず”の部分になる。もちろんメインのメロディーはあるが、サウンドプロデューサーからは、ある程度はフィル・インを入れてくれとの指示があった。
曲はだんだんテンポが速くなる。それに続いて、強く奏でるように楽譜には記されていた。
そして、その曲のメインである”サビ”の部分に入った。ここが最大の見せ場だと作曲者は言っていた。
私もだんだんとその音楽の世界に浸って行く。
そのサビに合わせてトランペットが続く。この部分は特に強くと楽譜にはあった。
一度サビで盛り上がった所で、またウッドベースが静かに流れる。そしてリフに入り、また印象的なサビに入る。最後にもう一回リフが入って、エンディングへと静かに入っていった。
エンディングは静かなシンセサイザーのバイオリンの音でフェードアウトしていった。
「はい。OKです!」
ここで私達ミュージシャンは一息ついた。
サウンドプロデューサーは確認作業をしている様子だった。
こうして、テイク2、テイク3と重ねていく私達。
なかなかこのレコーディングの作業も難しい。サウンドプロデューサーは私達ミュージシャンに次々と要求をする。なかなか厳しい要求もあった。
こうしてレコーディングの一日目が、終了した。何だかあっという間に終わったって感じ。
私も軽く背伸びをして、すっかり意気投合したミュージシャンと共に、せっかくなので飲みに行った。
こうして酒を飲むのも久しぶりだな。でも一仕事の後の酒は美味しい。
「エリオットは家族に誰がいるんだ?」
アルトサックス担当の黒人男性が聞いてきた。
「娘が一人。妻は娘がまだ七歳の時に亡くなりました…」
「すまない。訊いては良くなかった話だな」
「いえ、別に。少なくとも、私はこの世で一人きりではないので。一人娘がいるだけでも十分に救われているよ」
「そりゃあいいことだよなあ。俺なんてまだ独身だ」
「再婚とか考えないのか?」
「うーん。どうだろう? 今のところは再婚は考えていないな」
「それに娘も新しい妻を受け入れるかどうか疑問に思うし」
「確かに。そういう問題はありますね」
再婚か。別に今更、それは考えていない。私はアネットしか、ジェニファーしか愛さない。
出逢いの場なら確かにあるが、でも私はアネットしか愛せない。ジェニファーしか愛せないだろう。
それに私のプライベートも他人に見せるわけにもいかない。
それは傍から見れば、即刑務所行の所業だから…。
この間だって、中学生の娘にSMまで教えてしまった。
それを他人に見せることなど出来るだろうか?出来る訳がない。
私達は首都東京のバーラウンジで酒を飲み、世間話に会話の花を咲かせる。
明日からは別の曲の収録もある。
私達は適当に酒を飲むのを切りあげ宿泊するホテルへと向かった。
既にホテルの部屋の予約はしてある。後はチェックインの手続きをして、楽譜の確認作業を行って、寝るだけだ。こうやって一人でいると、案外と心は透明になっていく。あの背徳的な快楽を味わうと、心は闇に染まるけど、今は透明な規則正しいリズムを刻んでいるのがわかる。
(どこで間違ったのだろうか?)
本当にそう思う。どこで私のメロディーは狂ったのだろうか?
本当はあんなことしてはいけないのに。
どこで間違った? どこで私は道を踏み外した?
ホテルの部屋のベッドに仰向けに寝て、ぐるぐる同じことを考える。
「でも、もう引き返すことはできない…。彼女にそれをしてしまった時点でもう…」
後悔の念が湧いて出て、それに震える私。
ただ、頭に浮かんでくるのは、昔の想い出。
そうして…シャワーを浴び、私は眠りについた。
その夜、私はアネットの夢を見た。
いつも彼女は、私に抱かれる時、妖艶な微笑を浮かべて、普段見ているピアニストの彼女とは違い、私という快楽に溺れる女性だった。
激しく私を求める。情熱的に、官能的に。そして、快楽の絶頂に駆け上がると私の身体に密着させて、その余韻を一緒に味わった。
彼女は口戯も凄かった。私を咥える時は彼女も妖艶な瞳をして、深く、深く咥えた。
私が喘ぐと彼女は嬉しそうに、更に私を虜にしていく。
お互いに世界的なピアニストだったから、尚更、私達はお互いのことを激しく求めあった。
離れたくない一心で、身体を重ねた。
今でもわからない。何故彼女は私にあんなお願いをしたのだろうか?
何で、私から想い出を奪ったのだろうか?
前を見て進めという意味だろうか?
私は表向きは前に進んでいるだろうが、今でも想い出の鎖につながれて生きている。
つながれて泣いている絆に縛られている。
もう、そういうのはやめて、前を向いて生きろということか? アネット…。
もうどこに逃げたって、私に広がるのは荒野だけかもしれない。
だから、ジェニファーを将来の私の伴侶にしようとしたのかい?
もうすぐ彼女は十三歳になる。
私もまた一つ年齢を重ねる。
でもまだ早い。私を受け入れるには。あの蕾にはまだ私を受け入れるには小さい。
そろそろトレーニングが必要なのかな…? 淫感のトレーニングが。
まあ、いい。とにかく今はこの日本での仕事に集中しよう…。
その内きっと、そのトレーニングする機会が巡ってくるだろう。
実は日本には数回だが来たことがある。オーケストラ公演がほとんどで、今回は初めてCDの音源の録音の為に来日した。そのまま、首都東京に向けて出発した。
録音スタジオは首都東京のあるスタジオ。そこで私は今回二曲のサントラに参加する。
どちらともジャズアレンジがされた曲だった。
東京の三月はとても過ごしやすい。いよいよ春も間近という所だろう。
街路樹も少しずつ、新緑の葉を生やし始めていた。
今、私はスーツケースを転がし、東京の街を歩いている。
さすが首都東京。毎回来日して驚くが凄い高層マンションが建ち並んでいる。
私の格好は、普通のビジネススーツだった。濃いめの灰色のスーツに、同系統の色のベスト。青いネクタイ。靴も革靴だ。スマホを片手に道案内アプリを開く。そして目的地へと向かった。
やがて、道案内アプリの通りに歩くこと十分。目的地へとたどり着いた。
待ち合わせ時間の十五分前。ふむ。いい感じだな。早速、そのスタジオに入った。
既にスタジオには私と共演するトランペット奏者とアルトサックス奏者と、シンセサイザー担当、ドラムス担当、その他もろもろのスタッフが待っていた。全員、私と同じ外国人。でも英語は通じる相手だった。
そこにはオリジナルの作曲者も居合わせていて、その人物は女性だった。
「こんにちは。あなたがエリオット・レムさんですね」
「はい。今回は貴重な体験が出来ると聞いて楽しみにしています」
「凄いな。あの世界的なピアニストのエリオット・レムさんと共演出来るとは」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
一緒に共演する男性たちと軽く握手した。
そして、まずはそれぞれ楽器のチューニング作業に入った。
ここにもピアノ専門の調律師がいて、今回のサウンドプロデューサーも同席していた。
チューニングが終わると、次はサウンドプロデューサーからの注意事項やら、どのようなサウンドを求めているかなどに耳を傾ける。
そして、リハーサルが開始された。数回セッションをする。
実はこのジャムセッションが、意外に難しい。私は主にクラシックコンサートがメインで、ジャムセッションは実はあまりしたことはない。
それにクラシックとジャズでは天と地ほどの差がある。
クラシックは指揮者がいるから、基本的に指揮者の指揮に従ってピアノを奏でればいいが、ジャムセッションは指揮者はいない。楽譜を見てメロディーラインを追いかけていけばいいという訳でもない。その間にフィル・インつまり”おかず”と呼ばれる要は演奏者がアドリブを入れる場所があるのだ。なので、その演奏者の力量が問われるのである。
でも、数回に渡りジャムセッションを繰り返すと何だかコツがわかってくる。
これは言葉では言い表せない。自分の音感とリズム感とテクニックとセンスだけが頼りだな。
そこには普段のコンサートでは体験できない共演者との触れ合いがあった。
「はーい。OKです。ではしばらく休憩をはさんで、レコーディングを始めます」
「さすがエリオットさん。世界的なピアニストの名前は伊達ではないですね」
「いや。君たちの方が場慣れしているよ」
「普段はエリオットさんは、シューベルトやらショパンや、チャイコフスキーとかリストとか弾いているのでしょう?どうです。こういうゲームミュージックのサウンドは?」
「正直凄いね。確かにショパンとかも綺麗な曲が多いけど、ゲームミュージックもきれいな曲は綺麗だよ。新鮮な気持ちになれる」
「しかもなかなか難しいメロディーラインだ。久しぶりに来日する前に練習に明け暮れた」
「でもさっきのセッション中はエリオットは完璧だったよ」
「アドリブも良かったね」
「レコーディングが終わったら飲みに行こうか?」
「それ、いいね」
「レコーディングは数回に分けてやるらしいな」
「もしかして、エリオットはCD音源の出演は初めてか?」
「日本では初めてだね。イギリスの方でもあまりそういう機会はない。いつもコンサートの方で活動しているから」
「でもさすがコンサートに出ているだけあって、セッションのコツも簡単に掴んだな」
「意外とジャズもいけるんじゃないか?」
まあ、確かにそう言われればそうも思える。
単純に比較は出来ないが、クラシックコンサートにはそれの良さがあるし、こういうジャムセッションも他のミュージシャンと腕を競え合えるという利点もある。
腕を競うということは要は自分の腕を、才能を磨けるということでもある。
そうすれば、クラシックコンサートでの仕事は増えるし、それによる収入も上がる。
他の言い方をすると、ジェニファーとも少し距離が置けるという理由も出来る。
正直、今の私は相変わらずの狂ったメロディーだった。
全然、自分の狂ったメロディーを修正出来ていない。むしろそれはもう、狂気のような気がする。
こうやってジャムセッションをしていると、そんな自分を忘れることが出来る。
ピアノを弾く。その行為が私を正気の世界へ引き戻す。まっとうな世界へ。
でも我が家に帰るときっと、すぐにその正気が無くなって狂気が私を支配するのだ。
だからなるべくなら、しばらくの間は日本なりどこか別の国で仕事はしたい。
自分の頭を冷やす為に。狂ったメロディーを直す為に。
「それではみなさん、レコーディングを始めますから、スタンバイ、お願いします」
「おっ。時間か。よし、やるか」
「そうだな。よし」
私も鍵盤に向かって、顔だけを、他のミュージシャンに向けて、スタンバイをした。
そうして…きっかけの合図と共に私はイントロダクションの部分を弾きだした。
整ったメロディーを奏でる。
やがて、ドラムス、シンセサイザー、トランペットが続いて、その曲を演奏し始める。
ウッドベースの音と共に、私は”リフ”と呼ばれる、その曲のイントロやエンディングなどで繰り返し現れる印象的なフレーズパターンを正確に奏でた。
その後は、さっきジャムセッションなどで話した”おかず”の部分になる。もちろんメインのメロディーはあるが、サウンドプロデューサーからは、ある程度はフィル・インを入れてくれとの指示があった。
曲はだんだんテンポが速くなる。それに続いて、強く奏でるように楽譜には記されていた。
そして、その曲のメインである”サビ”の部分に入った。ここが最大の見せ場だと作曲者は言っていた。
私もだんだんとその音楽の世界に浸って行く。
そのサビに合わせてトランペットが続く。この部分は特に強くと楽譜にはあった。
一度サビで盛り上がった所で、またウッドベースが静かに流れる。そしてリフに入り、また印象的なサビに入る。最後にもう一回リフが入って、エンディングへと静かに入っていった。
エンディングは静かなシンセサイザーのバイオリンの音でフェードアウトしていった。
「はい。OKです!」
ここで私達ミュージシャンは一息ついた。
サウンドプロデューサーは確認作業をしている様子だった。
こうして、テイク2、テイク3と重ねていく私達。
なかなかこのレコーディングの作業も難しい。サウンドプロデューサーは私達ミュージシャンに次々と要求をする。なかなか厳しい要求もあった。
こうしてレコーディングの一日目が、終了した。何だかあっという間に終わったって感じ。
私も軽く背伸びをして、すっかり意気投合したミュージシャンと共に、せっかくなので飲みに行った。
こうして酒を飲むのも久しぶりだな。でも一仕事の後の酒は美味しい。
「エリオットは家族に誰がいるんだ?」
アルトサックス担当の黒人男性が聞いてきた。
「娘が一人。妻は娘がまだ七歳の時に亡くなりました…」
「すまない。訊いては良くなかった話だな」
「いえ、別に。少なくとも、私はこの世で一人きりではないので。一人娘がいるだけでも十分に救われているよ」
「そりゃあいいことだよなあ。俺なんてまだ独身だ」
「再婚とか考えないのか?」
「うーん。どうだろう? 今のところは再婚は考えていないな」
「それに娘も新しい妻を受け入れるかどうか疑問に思うし」
「確かに。そういう問題はありますね」
再婚か。別に今更、それは考えていない。私はアネットしか、ジェニファーしか愛さない。
出逢いの場なら確かにあるが、でも私はアネットしか愛せない。ジェニファーしか愛せないだろう。
それに私のプライベートも他人に見せるわけにもいかない。
それは傍から見れば、即刑務所行の所業だから…。
この間だって、中学生の娘にSMまで教えてしまった。
それを他人に見せることなど出来るだろうか?出来る訳がない。
私達は首都東京のバーラウンジで酒を飲み、世間話に会話の花を咲かせる。
明日からは別の曲の収録もある。
私達は適当に酒を飲むのを切りあげ宿泊するホテルへと向かった。
既にホテルの部屋の予約はしてある。後はチェックインの手続きをして、楽譜の確認作業を行って、寝るだけだ。こうやって一人でいると、案外と心は透明になっていく。あの背徳的な快楽を味わうと、心は闇に染まるけど、今は透明な規則正しいリズムを刻んでいるのがわかる。
(どこで間違ったのだろうか?)
本当にそう思う。どこで私のメロディーは狂ったのだろうか?
本当はあんなことしてはいけないのに。
どこで間違った? どこで私は道を踏み外した?
ホテルの部屋のベッドに仰向けに寝て、ぐるぐる同じことを考える。
「でも、もう引き返すことはできない…。彼女にそれをしてしまった時点でもう…」
後悔の念が湧いて出て、それに震える私。
ただ、頭に浮かんでくるのは、昔の想い出。
そうして…シャワーを浴び、私は眠りについた。
その夜、私はアネットの夢を見た。
いつも彼女は、私に抱かれる時、妖艶な微笑を浮かべて、普段見ているピアニストの彼女とは違い、私という快楽に溺れる女性だった。
激しく私を求める。情熱的に、官能的に。そして、快楽の絶頂に駆け上がると私の身体に密着させて、その余韻を一緒に味わった。
彼女は口戯も凄かった。私を咥える時は彼女も妖艶な瞳をして、深く、深く咥えた。
私が喘ぐと彼女は嬉しそうに、更に私を虜にしていく。
お互いに世界的なピアニストだったから、尚更、私達はお互いのことを激しく求めあった。
離れたくない一心で、身体を重ねた。
今でもわからない。何故彼女は私にあんなお願いをしたのだろうか?
何で、私から想い出を奪ったのだろうか?
前を見て進めという意味だろうか?
私は表向きは前に進んでいるだろうが、今でも想い出の鎖につながれて生きている。
つながれて泣いている絆に縛られている。
もう、そういうのはやめて、前を向いて生きろということか? アネット…。
もうどこに逃げたって、私に広がるのは荒野だけかもしれない。
だから、ジェニファーを将来の私の伴侶にしようとしたのかい?
もうすぐ彼女は十三歳になる。
私もまた一つ年齢を重ねる。
でもまだ早い。私を受け入れるには。あの蕾にはまだ私を受け入れるには小さい。
そろそろトレーニングが必要なのかな…? 淫感のトレーニングが。
まあ、いい。とにかく今はこの日本での仕事に集中しよう…。
その内きっと、そのトレーニングする機会が巡ってくるだろう。
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