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第二章
メンタル弱々山田くん
しおりを挟む皆様こんにちは山田です。作家の部屋は様々な資料と称した本で埋め尽くされていると聞いたことがある。
ぶっちゃけそんなに要ら無くない?って思ってました、すみません。
俺の少ないながらも貯めてきたお小遣いから着物のおじさんが二人消えていき、もじゃもじゃのおじさんが数人帰ってきた。
両手には初めて貰った本屋の紙袋。中にはぎっしり詰まっている知識の塊。
知識ってこんなに重たいんだなって思ったりして。
自転車の籠に紙袋を入れ……入らない。どうやら知識の塊は結構頑固らしい。
もう少し自分を曲げてみる協調性を学んでほしいな、なんて。店員さんの頑張りをムダにしてしまうが仕方ない。
自転車籠に入るくらいの大きさを指定したためにぎゅうぎゅうに入れて下さっていたのになぁ、目分って当てにならない、本当に。
袋の中から数冊取り出し、リュックの中に詰める。
ああ、こんなに買うなら教科書が少ない日に買えば良かった。
リュックの中でも自己主張が喧嘩し合っていたし、新参者の侵入は許さん!!と普段あまり登場しない資料本が邪魔をする。
どうにか頑固者にスペースを開けていただいて、ようやく自転車を漕ぎ始めた。
あーこれ怒られる気がする。
誰にって、あの人しかいないでしょう。
自宅へ帰ると般若のお顔をされた我が女帝、母上が玄関で仁王立ちされていた。
般若で仁王立ち……字面だけでも怖そうなのに。いや実際怖いんだけどさ……。
「ただいまー」
あえてかしこまらないように言ってみる。
あっ、笑顔になった。
ただし怖さは増した気がする。何故だ。
「時計持ってる?」
「え?」
「だから、今何時か分かってるかって言ってるのよ。分かってますかー?」
「……はい」
「うちの門限は十時って決まってますが、そこはどう思ってますか?五分遅刻の息子くん」
「えっ、ちょっと待って。門限って知らないんだけど?ってかいつ決まったのそれ」
「今さっきでーす。気分で決まりましたー。異論は?ないよね?」
「……はい」
「で?謝罪とかは?」
「門限守らなくてごめんなさい?」
「疑問系?ふざけてるの?」
「いやいや、本当にすみませんでしたーっ!!」
深々と頭を下げる。あっ、これつい最近やったわ。
「全く、朝早く出かけて遅くにしか帰ってこないし、ご飯はいらないって言うし……はっ!!まさか浮気!?浮気をしているの!?息子くん!!」
「いやいや、お母さんは俺の彼女さんじゃないでしょう?浮気じゃないし」
「何言ってるの?立派な浮気ですー。どこの誰かわからない奴に餌づけされてるんでしょうどうせ。ママの味が嫌いですか?だから別の奴の餌食べてるんですかぁ?」
「息子の食事を餌って言わないで!!」
「ふんっ!!息子君のバーカ」
「子供なの?」
「ママはママよ!!息子くんに無理難題を押しつけても罪に問われない高貴な立場だもん!!」
「だだっ子なの?」
「パパー息子くんが私のこと苛めるのーママさん泣いちゃうっ」
ううっと泣き真似を始める母上。
リビングから「今、助けに行くからぁ!!」と正義感溢れる声とドタバタ慌てる物音が聞こえる。
えーマジで?此処に父上まで召喚されたら俺っていつ自分の部屋に入れるの?
実はまだ靴脱いでないからね?ずっとくっそ重たい知識の塊を持ってるからね?置けばいいだろって、言うのは簡単だけどさぁ置こうとすると睨まれるのよ。誰にって言わなくてもご理解頂けると思うけど。
一種の拷問なのかなって思ってくるよね。
解放されたのはそれから一時間は経った後だった。
さっさと風呂に入って寝ろ、と部屋に入る前に連行され、時間も遅いからと父上と一緒に入ることを強要された。
いい年した男が二人で入るなんて、どこを見ていいのか分からなくて変な空気になった。父上がテレテレしちゃったら息子としてどう反応すればいいのよ。
こっちも変に照れるでしょうが。
漸く部屋に入って買ってきた知識の塊とご対面。
何をどうしたらいいのか分からないから、小説、マンガから雑誌、女性誌、タウン誌まで色んなジャンルが勢揃いだ。
取り敢えず、読むとこ少な目の雑誌類から片付けて行こうか。
デート特集なるものが掲載されている雑誌を片っ端から買ったから結構な量がある。
パラパラとページを捲る。
捲る。
捲る。
あっ、そうか。
何を行動するにもお金がないと始まらないんだって今気付いた。
じゃあ、あれじゃん。
知識の前に、労働的行動が大事だったじゃん。
いつもならこの事に先に気付くはずなのに、やっぱりこの前見た光景が忘れられないのかな。
あのキラキラしてた虫はどういうご関係ですかなんて質問できないし。
寧ろここ最近テンション低すぎて美咲ちゃんに気を使われちゃったぐらいだしな。
はあ、美咲ちゃん。山田を解任する予定ならできれば早めに言って欲しいです。
俺もさ、恋する男の子なの。メンタル弱々なのよ。
ベットに寝そべって天井を見る。
いつも見慣れた天井なのに、最近は安らぎをくれない。
「バイトか……」
誰もいない部屋に俺の独り言が小さく消えた。
バイト、それもいいかも知れないな。俺の毎日は美咲ちゃんだけで始まって終わって行くから、少しでも別の新しい環境を始めてみようか。この寂しい気持ちを、どうにか紛らわせてくれる時間が必要だ。
取り敢えず、明日はバイトの雑誌を貰ってこよう。そう思って目を瞑った。
おはよう朝日!!といつも言わない台詞で一日をスタートしてみた。
何か少しでも違うことをすれば気が紛れるかと思って。
でも残念ながら違う台詞を言ったところで何も変わるわけではないらしい。
気持ちとやらは厄介で面倒なやつだ。
心なしか坂道を登る自転車のペダルもいつもより重たい気がする。
一度も足をつかずに登りきれたのに最近は足を着くようになってしまった。今日はもう諦めて自転車を押して登ろう。
朝食を用意して、美咲ちゃんを起こそうと部屋の扉をトントン叩く。
おはよう第一号のはずなのに、最近は全く気分が乗らない。
はあ、毎日のお楽しみだったはずなのにな……
漸く美咲ちゃんを起こしてご飯を一緒に食べる。
心配そうに美咲ちゃんの視線がこっちに向いているのがわかる。
でもね、喜んでる場合じゃないの。
美咲ちゃんどうしよう、ご飯の味すら分かんないの。
こんなに恋って奴は苦しいのかな。
こんなに辛いなら、美咲ちゃんに恋なんてするんじゃなかった。
恋なんて……知らなければ良かったって思うんだ。
ガチャン
音がしてハッと気づく。
食事も終わって、食器を洗っていた俺の手からお皿が滑り落ちて、床で粉々に割れた。
あー、今の俺の気持ちと一緒じゃないか。
告白する前から答えの分かっている関係を、知らないふりして続けて行くのかな……
…… やっぱりヤダ。
こんなに苦しくても辛くても、美咲ちゃんのこと好きになって良かったって思いたい。
ヤバい、病みすぎてる。
こんなに卑屈な奴じゃなかったはずだぞ山田。しっかりしろ。
玉砕覚悟で告白しなきゃ、一歩も踏み出せないまま終わってしまうだろうが。
せっかくお父様たちが待っててくださってたのに、その好意を無駄になんてできるわけがない。
キラキラ虫が美咲ちゃんの彼氏だろうが何だろうが山田は俺だけなんだ。
山田の役目をもらったのは俺だし、まだ解任もされていない。
ごめんね、何か俺ちょっとどうかしてたみたい。
一歩踏み出して見ようと思うの、頑張ってやってみようと思うの。
でもね、美咲ちゃん。貴女の事だけで俺はここまでダメになるような奴なんだよ。
美咲ちゃん、美咲ちゃんの幸せを近くで見てるのはとても辛いかもしれないけれど、それでも、どうか捨てないで、俺を山田からおろさないで。
お願いします。
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