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強敵と書いてお金と読む

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 満足気にパーツ屋を出る。横のプリムラはジト目で見てくるけれど。

 なんとなく倉庫のほうを見ながら歩いていると誰かが出てきた。つなぎを着た背の低い少女だ。赤みがかった黒の髪が妙に似合っている。

 子供ってほど子供には見えないな。胸は平らだが。こちらに気づいたのか、ぺこりと頭を下げた。

 さっきのおっぱいの凶悪さに当てられた心が浄化されていく。巨乳ばかりだと胸焼け待ったなし。貧乳もまたいいものなのである。

 敷地を出て、次に向かうのは迷宮だ。違う迷宮に行くのならまたネットカフェになる。パソコンを使うのに一々ネットカフェってのもなんだかな。

 パソコン自体はいくらぐらいするのだろうか。まあ宿暮らしの時点で買う選択肢はなかった。その前に家をなんとかしないと。

 賃貸もいいが折角なら買いたいと高望みしてしまう。この世界の住宅事情はどの程度か。欲望を考えるといくらでも沸いてきた。

 そして、必要になるのがお金だ。異世界であっても世知辛い世の中には変わりなかった。どうにか手っ取り早く稼ぎたい。

「リーパーの擬似魔力器官は高く売れないのか?」

 ボディポットとは違ってストレンジの中でも強そうだし、質も良いに違いないのだ。他にお金になるパーツも期待できた。

「売れるらしいわね。倒すことができればだけど」

 そこが問題だ。あれだけボディポットを余裕でぼこぼこにしていたプリムラでさえ、急いで逃げようとする相手。見ただけで強さがまったく測れないのが困ったところ。

 ただ、強いとしても倒せないことはないはず。ゲームではないのだから無敵属性はありえない。しかし、ゲームに学ぶことはあった。

 格上の相手を倒す方法、地形に嵌めるかヒットアンドアウェイだ。通い慣れていない以上、地形に嵌めるのは難しい。ネットで調べてもあの地図じゃあ限界がある。となればヒットアンドアウェイだ。銃との相性が抜群の戦法だった。

「リフトで待ち構えて銃で攻撃、地上へリフトで戻るのを繰り返すのはどうだ?」
「攻撃の威力が並外れていないと通用しないと思う」

 多少威力が弱くても何百回と続ければなんとかならない?

「リーパーは他のストレンジを取り込む機能があるの。一度リーパーから離れてしまうとダメージを与えていたとしてもすぐに元通りよ」

 嫌がらせのために存在してるようなストレンジだな……。

「一度だけ試してみてもいいか?」
「ご主人様が望むのなら」

 さすが奴隷。心の中では無駄なことするんじゃねーよ、なんて思っているのだろうけれど。試さないとわからない馬鹿なんです。

 やると決まれば早速迷宮へ。実のところ、まったく当てがないわけではなかった。今は指輪になっている銃が鍵だ。

 撃った回数は二回だが、発射された光の大きさに違いがあった気がする。おそらく、込める魔力によって威力が変わるということ。そして、俺の魔力は常人よりも多いはず。その魔力を全ツッパすればあるいは、ってのも甘い考えかな。

 モラキエルの迷宮にはすぐについた。コヴナントリングを銃に変化させる。

「リフトで下りてすぐにリーパーがいる可能性は?」
「あるわね」
「リフトのドアを開けなければ危険はないか?」
「攻撃を受け続ければリフトのドアが壊れる可能性はあると思う」
「すぐに地上へ戻れば安全だな?」
「ええ、おそらく」

 ここは慎重に聞いておく。断言しないあたりに不安はあるが大丈夫そうか。リフトに乗り込んで一階層へ下りる前に銃へ魔力を込める。

 ディスプレイ部分が光り出した。光の線が複雑に絡み合って塊になっていく。魔力を込め続けるとさらに輝きの強い光の線が現れた。

 徐々に光の塊は大きくなる。そして、ディスプレイ部分が光で埋め尽くされるとさらに輝きが増した。

「うお!」

 銃から奇妙な音が鳴って、変形した……? いや、変形と言うほどには変わってないが。

 サイズが少し大きくなって、ところどころに隙間ができている。その隙間から蒼白いもやが漏れ出てきた。これ、魔力の込めすぎとかそういう?

「すごい銃ね……そんなに魔力を使って大丈夫なの?」

 そういえば魔力を使い切るとどうなるのか聞いてなかったな。

「ひどいと気を失うこともわるわよ」

 そう言われると身体の力が抜けてきた気がする。そろそろ魔力を込めるのは止めておこう。

「プリムラ、リフトの操作は任せた」
「わかったわ」

 プリムラがレバーを引くとリフトが下がり始めた。閉じたドアに向けて銃を構える。じわりと手のひらに汗をかく感覚。少し緊張してきた。

 大丈夫、危険はない。プリムラにもちゃんと聞いた。何より、リーパーがリフトまで追ってきても無事だったし。危険を感じたら地上へ戻ればいいだけ。

 ひとつ息を吐くとリフトが止まった。

「……」

 金網の隙間から見える範囲にリーパーの姿はない。プリムラを見ると頷かれる。そして、ドアが開いた。

「……」

 着いたばかりなのに、すでに数分が経過したように感じてしまう。

「リーパーが来ないことはあるのか?」
「倒されていないのならありえないわね。生きている人がいれば向かって来るわ」

 殺人マシンだな。

「来たわよ」

 まだ俺の目では確認できない。銃を握る手に力が入る。

 近づきすぎてから撃っては遅すぎる。一撃で倒せないとリフトに乗り込んで来てしまうだろう。どれだけ攻撃が通ったか、その確認の時間を含めれば早めに撃たなければならない。やつの速度はそれほどのものだった。

「……見えた」

 空気を裂く音が聞こえてきた。動きは直線的。避けられなければ外れはしない、と思う。

 最後にひと呼吸。ダメ押しの魔力を銃に込めると蒼白いもやが濃くなる。狙いを定めて引き金を引いた。

――キィンカォン!

「っ!」

 耳をつんざく音。そして、眩しいほどの光が視界を覆った。銃から出たのは弾と呼ぶには規格外の光の束。通路を塞ぐほどで、ビームという単語が思い浮かんだ。

 さすがに銃を持つ手に振動が感じられ、腕に力を入れて押さえ込む。時間にして数秒。光が消えると動きの止まったリーパーが通路に佇んでいた。
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