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ため息の味

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 身体の力が抜けて片膝をついてしまった。

「ちょっと、大丈夫?」
「……たぶん」

 鼓動がいやに早い。冷や汗が頬を伝う。これが魔力を使いすぎたときの症状か……?

 それよりも、今はリーパーに集中しないと。

「あれはどういう状態なんだ?」
「……わからないわね」

 リーパーはその場で停止したままで、赤いランプに光はない。そして、周囲にはいくつもの刃物らしき物体が散らばっていた。

 倒せていればいいんだが。確認しに行ったところをズドン、みたいなあるある。どうするんだこれ。

「見てくる」
「お、おい」
「危険を感じたら戻ってくるわ」

 さすがに危険が危なすぎないか? 引き止めるため立とうとするが、足に力が入らない。伸ばした手をプリムラに握られ、なぜか頭を撫でられた。

 するのも若干の気恥ずかしさがあるけれど、されると一層恥ずかしい。何かに目覚めそうだった。

 プリムラがリフトを出て通路を歩いていく。後ろから見える尻尾は固まったように動かない。ここからは自分の仕事だとでも考えているのか。

 引き止めるのは簡単だ。奴隷である以上、主人の命令に逆らうことはできないに違いない。だが、プリムラの力強い目を見れば無理に止めることはできなかった。

 正直なところ、人に対する優しさなんてはっきりとイメージできない。だからと言って、ここで止めるのが優しさとは思えなかった。

 危ないのを思えば行かせることは間違いなのだろう。しかし、自らの意思で動こうとする姿勢は尊重すべきものだ。信頼して任せる、それが俺なりの誠意の見せ方か。奴隷であるプリムラから、本当の意味で信頼されるための。

 ……出会って数日で変に考えすぎだな。こんな場面ですることでもない気がするし。

 プリムラがリーパーの目前まで距離を詰める。その時、落ちていた刃物の一部が動いたように見えた。

「右!」

 俺の声に反応したプリムラが姿勢を低くして後ろに転がった。

 刃物のひとつが先ほどまでプリムラのいた位置を勢いよく通り過ぎて壁に突き刺さる。残念ながら、まだ倒せてなかったらしい。

 次々に刃物が宙へ浮く。それを見たプリムラは戻ってくるどころか前進した。

「プリムラ!」

 尻尾が揺れる。心配するなって? そんなわけにはいかないだろう。

 プリムラは飛んでくる刃物を避けながら、リーパーの本体に近づいて拳を叩き入れた。ここがチャンスと考えているのか。二発三発と続けるが、まだ刃物の動きは止まらない。

 攻撃の硬直に合わせて刃物がプリムラを襲う。力を振り絞り、銃を構えて狙い打つ。大した魔力は込められていないが、刃物を撃ち落とすには十分だった。

 金属を打つ鈍い音が通路に響き続ける。その度に宙へ浮いていた刃物は床に落ちていく。そして、ついには全ての刃物の動きが止まった。

 プリムラがこっちに顔を向けて頷いた。ガクガク震える足に力を入れてプリムラの元へ行く。

「良くやった、プリムラ」
「ご主人様のおかげよ」

 俺というか、銃のおかげだな。ここまで規格外だったとは。全力撃ちは使いどころを考えないと逆にピンチになりそうだ。

「この大量に落ちてる刃物は売れそうか?」
「ええ、売れると思うわよ」

 これは期待できる。プリムラはリーパーの本体に手をかけて解体を始めた。

「硬いわね……」

 どうやら手ごわいようだ。あれだけ殴ってたのにな。プリムラも魔力を多く使って攻撃していたのか。

「工具でも難しそうか?」
「持ってきている工具じゃ、限界がありそうね」

 もっと高い工具が必要と。どうするかな。これ全部を持って帰るのは現実的じゃないし。

「パーツ屋に来てもらうのはどうだ?」

 さすがにあそこなら解体できる工具はあるだろう。

「……どこのパーツ屋なのかしら」
「さっきの、とこ、とか……?」

 プリムラのジト目よ。

「ご主人様に任せます。あたしはここで待ってるわ」

 そうか、放っておくとスイーパーが回収しに来るんだな。かと言ってプリムラをひとりで残しておくのにも若干の不安が。

「大丈夫だから行ってきて」

 足がガクガクの俺が行くよりプリムラが行ったほうがいいのでは。ま、俺が行ってくるか。

 できるだけ急ぎながらリフトまで戻って地上へ出た。思うように動かない足でひいひい言いつつ、やっとのことでパーツ屋にたどり着いた。

 建物に入るが当然人の姿はなく。カウンターの上にあるベルを鳴らすとおっぱいがやってきた。

「またあんたか。今度はなんの用だ?」
「リーパーの解体を手伝って欲しい」
「……倒したのか?」
「ああ」
「少し待っていろ」

 おっぱいはカウンターの奥に入っていく。

「ビオラ! 仕事だよ!」

 ビオラっていうのは倉庫にいた小さいのかな。少しするとでかい工具箱を持ったおっぱいと小さいのがふたりで来た。

「場所は?」
「すぐそこの迷宮、一階層だ。リフトから降りればわかる」
「あんたは来ないのか?」
「ここで休憩させてもらいたい」

 少し疲れた。

「構わないが、商品を盗むなよ」

 盗まないって。出て行くふたりを見送って床に座り込む。

「はぁ……」

 ひと仕事を終えた後のため息に嫌な感じはまったくなかった。
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