四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚礼

お出迎え

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 開かれた扉の向こうへ、公爵達と姉妹達は互いに手を繋ぎ歩き出した。





 一歩前へ出た途端、まず受けたのは溢れんばかりの拍手と歓声であった。



 神殿の大広間は床から天井にかけて真っ白に磨かれており、中であるというのに輝きを放っていた。
奥には巨大なステンドグラスが貼られており、そこから朝日が入り込み一層明るさを増している。その下には祭壇があり、そこまでの道の側は人だかりで溢れていた。


「ラヴェルト公爵様!ご結婚おめでとうございます!!」

「ガルシア御令嬢もおめでとうございます!!」


 道を開けるようにしてできた人の波からは、絶え間無く祝福の声と聖歌が流れてくる。聖歌は恐らく前日に来た聖歌隊の者達だろう。皆麗しい声で健気に歌っている。
 中には街で見かけた国民と同じように花弁を投げてお祝いする者もいた。
 そしてよくよく見ると、最前列の方は正装に身を包んだ者達が多く、明らかに貴族であるその者達も、中央の道に向けて盛大な拍手を送っていた。

 まさか大勢が此処まで来て……しかもこの国のお偉いであろう存在も混ざって盛大に祝ってくれるとは思っておらず、姉妹達は喜びよりも驚きの方が優ってしまった。皆ラヴェルト兄弟はおろか、余所者であるガルシア姉妹のことも祝ってくれている。そんな純粋な気持ちが、とてもこそばゆかった。


「オリビア!」


 ふと、聞き覚えのある女性の声にオリビアと他姉妹達が目を向けると、そこには両親がいた。式の時は呼んでくれと言っていたが、まさか本当に来てくれるとは夢にも思わなかっただろう。
 両親は周りの人が場所を譲ってくれたようで、最前で此方の式を見ることができていた。


「みんなとても素敵よ!本当におめでとう!!」

「娘達よ!幸せになるんだぞ!!」


 母も父も、嬉しそうに手を振っている。喜んでくれる二人の姿に姉妹達は感極まって泣きそうになったが、なんとか堪えていた。

 重なる歓声の中、姉妹達は公爵達に手を引かれ歩き出す。
 人だかりの中には両親以外の顔見知りはいない。アミーレアで式を挙げていれば、きっと誰か知り合いはいたのかもしれない。
 しかし、姉妹達はそれを寂しいとは思わなかった。こんなにも祝福してくれる者達がいるのに、寂しいなんて思えるわけがなかった。



 ……………………



 …………?



 ふと、姉妹達は同じ疑問を抱いて、人の列に目を向けた。

 そこに自分たちが知っているような人物はいない。いるのは泣きながら喜ぶ両親の姿だけだ。

 そう、わかるのは両親なのだ。










 ディトが、いないのだ。





 前日、ディトは全員の婚礼を一番喜んでいた。それはもう、子供のようにはしゃいではしゃいでいた。
 「僕明日絶対行くから!!嫌って言っても行くからね!!」と豪語もしていたのだが……



 その彼は、何処を探しても見つからないのだ。

 あれだけ張り切っていたというのに、姉妹達は少し困惑していた。


「……ラゼイヤ様、その、ディト様は何処に……」


 気になったオリビアが小声でそう聞くと、ラゼイヤは苦笑を返してきた。


「ディトは仕事が長引いてるらしい。少し遅れてくるそうだ」


 そう小声で返され、オリビアは納得すると同時に、違和感を覚えた。



 ディトの職務は更生指導官という。

 それは刑務官と似ているそうで、ディトは囚人の更生活動を行なっていると、かつてバルフレの口からそう聞いていた。

 しかし、それがそもそもおかしいのだ。

 何故公爵の地位につく五男が、そのような職務に就いているのだろうか。普通はそれこそ刑務官に任せるものだというのに。

 そして、今回ディトの遅れた理由が仕事だとするのなら、一体どのような内容なのだろうか。



 考えれば考えるほどに違和感は募る一方であったが、ラゼイヤに手を強く握られてオリビアは我に帰った。強くと言っても、痛くないほどであるのだが、むしろ優し過ぎるくらいなのだが。


「大丈夫。ディトのことだ。仕事を放ってでも来るだろうさ」


 そうして微笑むラゼイヤに、オリビアはそれ以上考えるのをやめて前を向いた。



 祭壇は、目前だった。

 いつの間にか、騒がしかった国民も静まり返っている。



「これより、婚礼の儀を行う」



 音のしなくなった神殿に、ラゼイヤの宣言が響き渡った。
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