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第二章 不幸な師団長
第10話ー1 激務
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艦隊が到着するまでの日々は、一木にとってかつて体験した繁忙期など比較にならないほど多忙だった。
それでも、あの夜以来副官のマナ大尉の態度が柔らかくなったことで心理的な負担も軽くなり、仕事に打ち込めるようになった。
悩み自体がなくなったわけではないが、それも激務によって考える余裕がないことで一時的に心から消え、艦隊着任以来初めて一木は充実した時間を過ごしていた。
出港後の一木は、もっぱらシャフリヤールの師団司令部で、師団の事務を行うSL達と共に各種作業に勤しんでいた。師団傘下の参謀を派遣して感覚を共有することで艦隊の様々な場所に赴く必要がないため、一木は執務机を一歩も動かずに作業が行えた。
逆に言うと移動時間や現場作業という一種の気分転換の場が存在しないということでもあり、慣れない作業に一木の脳みそは疲労困憊であった。
それでも二日程はまだ、マナ大尉と夜のスキンシップをするくらいの余裕もあった。
しかし、二日目に現地調査をしていた第20独立旅団”サンルン”の艦艇とすれ違い、より詳細な情報を得たことで作業量が激増した。
前日までの各種日常業務と事前準備に必要な各種書類や確認作業に加え、現地活動に必要な様々な業務が怒涛のように襲ってきたのだ。
「法務課です。異世界現地での活動に際しての関連法規の確認を……」
「マナ大尉!!! 」
「師団事務に一覧表と過去に関連した事件をまとめさせるので合わせて目を通しておいてください!」
「言語課です。師団SS、SAへの言語インストールの許可を……」
「マナ大尉!! 」
「言語課は現地言語の基本情報と精度に関するレポートを作成して出直してください。一木さん、後程レポートを読んでから決済をお願いします」
「教育課です。現地に即した訓練に関する師団傘下の部隊との会合に立ち合いをお願いしたいのですが……」
「マナ大尉! 」
「会合に参加した参謀と感覚共有して立ち会いますから、会合の予定日時を事前に知らせた上で、当日会合開始直前に再度通知をください」
「航空課です。地上の航空基地設営に関する打ち合わせを……」
「マナ大尉」
「師団参謀を代わりに出しますから、師団長の判断が必要な場合だけ感覚共有します」
「作戦参謀が格納庫に来てほしいと……」
「あ、今の作業がひと段落した……」
「忙しいので行けません」
「内務参謀部です。医療、憲兵の両連隊を四四師団の傘下にする件なんですけど、聞いてました? 」
「マナ……」
「聞いていないのでサーレハ司令の確認してからご連絡します」
「福利課でーす、何かお世話いりますかー? 」
「シキィ………眠りたい」
「…………作業がありますので結構です。それにお世話は私がします」
一木が限界を迎えつつも何とか仕事をこなせたのも、マナ大尉の献身的なサポートのおかげだった。
その過程でどうにも一木に対してお姉さんぶるようになった事と、それによって見た目に加えて喋り方までシキに似てきたため、時々一木が名前を呼び間違えるようになったのが新たな問題であった。
しかし、師団司令部の面々が凍り付くのとは裏腹に、マナ大尉はすまし顔で気にした様子もなかった。
一木は申し訳なさから謝罪を繰り返し、時間を見つけては前潟に相談したりもしたが、前潟の答えは決まっていた。
「自身の立ち位置や存在意義がはっきりしたらアンドロイドは安定するわ。情けないとか申し訳ないとか言う前にどんどん甘えてあげなさい。それに弘和そういうの好きでしょ? 」
「なぜそれを!? 」
「あら? 理由言っていいの? 」
「あー……やめてくださいお願いします……」
アドバイスついでにこうしてやり込められるが、そうやって愚痴ったり雑談することも一木の心の安定につながっているようだ。
そうして瞬く間に、到着前夜となった。
作業がひと段落して自室で休もうとした一木に、サーレハ司令から呼び出しがかかった。
しかも、一人で司令室まで来るようにという内容だった。
「な、なんだろう。この前の失礼な態度のことか? 」
マナ大尉に先に部屋に戻っているように言うと、一木は司令室に向かった。
入室すると、そこには司令の副官のスルターナもおらず、本当に二人だけだった。
一木は本当に説教されると覚悟を決め、サーレハ司令の前に立った。
「サーレハ司令、お呼びでしょうか? 」
緊張して話しかけるが、サーレハはいつもの軽い調子で答えた。
「硬くならなくてもいいよ。どうっだった? 初めての作戦前の事務作業は? 」
一木はどうも懸念していた事で呼び出されたわけではないことを察して、ホッとしながら答えた。
「正直辛い物でした。将官学校では、参謀や事務のSLのサポートがあるから、暇なくらいだと聞いていたので、正直驚きました」
「はははっ! そうか辛かったか。やはり君は見所がある」
辛いのに見所がある? 一木は怪訝に思った。揶揄われているのだろうか。
「どういうことでしょうか?」
「今回君にやってもらった事務作業は艦隊司令部、つまり私が決済するものも含まれていた。むろん君が決済しても問題ないものだけだが」
「な、なぜそんなことを? 」
「私はね、一木代将」
一木の名前を呼びながら、サーレハは立ち上がり、一木の顔をしっかりと見据えた。
「君には大いに期待しているんだ。確かに君は将官学校での成績は平凡だったが……」
「そうです。それに私にはこの時代の常識もありませんし……」
そういって謙遜する一木をサーレハは遮った。強い言葉だった。
「だが、復讐という強い目的がある」
思わぬ言葉に、一木は驚愕した。
それでも、あの夜以来副官のマナ大尉の態度が柔らかくなったことで心理的な負担も軽くなり、仕事に打ち込めるようになった。
悩み自体がなくなったわけではないが、それも激務によって考える余裕がないことで一時的に心から消え、艦隊着任以来初めて一木は充実した時間を過ごしていた。
出港後の一木は、もっぱらシャフリヤールの師団司令部で、師団の事務を行うSL達と共に各種作業に勤しんでいた。師団傘下の参謀を派遣して感覚を共有することで艦隊の様々な場所に赴く必要がないため、一木は執務机を一歩も動かずに作業が行えた。
逆に言うと移動時間や現場作業という一種の気分転換の場が存在しないということでもあり、慣れない作業に一木の脳みそは疲労困憊であった。
それでも二日程はまだ、マナ大尉と夜のスキンシップをするくらいの余裕もあった。
しかし、二日目に現地調査をしていた第20独立旅団”サンルン”の艦艇とすれ違い、より詳細な情報を得たことで作業量が激増した。
前日までの各種日常業務と事前準備に必要な各種書類や確認作業に加え、現地活動に必要な様々な業務が怒涛のように襲ってきたのだ。
「法務課です。異世界現地での活動に際しての関連法規の確認を……」
「マナ大尉!!! 」
「師団事務に一覧表と過去に関連した事件をまとめさせるので合わせて目を通しておいてください!」
「言語課です。師団SS、SAへの言語インストールの許可を……」
「マナ大尉!! 」
「言語課は現地言語の基本情報と精度に関するレポートを作成して出直してください。一木さん、後程レポートを読んでから決済をお願いします」
「教育課です。現地に即した訓練に関する師団傘下の部隊との会合に立ち合いをお願いしたいのですが……」
「マナ大尉! 」
「会合に参加した参謀と感覚共有して立ち会いますから、会合の予定日時を事前に知らせた上で、当日会合開始直前に再度通知をください」
「航空課です。地上の航空基地設営に関する打ち合わせを……」
「マナ大尉」
「師団参謀を代わりに出しますから、師団長の判断が必要な場合だけ感覚共有します」
「作戦参謀が格納庫に来てほしいと……」
「あ、今の作業がひと段落した……」
「忙しいので行けません」
「内務参謀部です。医療、憲兵の両連隊を四四師団の傘下にする件なんですけど、聞いてました? 」
「マナ……」
「聞いていないのでサーレハ司令の確認してからご連絡します」
「福利課でーす、何かお世話いりますかー? 」
「シキィ………眠りたい」
「…………作業がありますので結構です。それにお世話は私がします」
一木が限界を迎えつつも何とか仕事をこなせたのも、マナ大尉の献身的なサポートのおかげだった。
その過程でどうにも一木に対してお姉さんぶるようになった事と、それによって見た目に加えて喋り方までシキに似てきたため、時々一木が名前を呼び間違えるようになったのが新たな問題であった。
しかし、師団司令部の面々が凍り付くのとは裏腹に、マナ大尉はすまし顔で気にした様子もなかった。
一木は申し訳なさから謝罪を繰り返し、時間を見つけては前潟に相談したりもしたが、前潟の答えは決まっていた。
「自身の立ち位置や存在意義がはっきりしたらアンドロイドは安定するわ。情けないとか申し訳ないとか言う前にどんどん甘えてあげなさい。それに弘和そういうの好きでしょ? 」
「なぜそれを!? 」
「あら? 理由言っていいの? 」
「あー……やめてくださいお願いします……」
アドバイスついでにこうしてやり込められるが、そうやって愚痴ったり雑談することも一木の心の安定につながっているようだ。
そうして瞬く間に、到着前夜となった。
作業がひと段落して自室で休もうとした一木に、サーレハ司令から呼び出しがかかった。
しかも、一人で司令室まで来るようにという内容だった。
「な、なんだろう。この前の失礼な態度のことか? 」
マナ大尉に先に部屋に戻っているように言うと、一木は司令室に向かった。
入室すると、そこには司令の副官のスルターナもおらず、本当に二人だけだった。
一木は本当に説教されると覚悟を決め、サーレハ司令の前に立った。
「サーレハ司令、お呼びでしょうか? 」
緊張して話しかけるが、サーレハはいつもの軽い調子で答えた。
「硬くならなくてもいいよ。どうっだった? 初めての作戦前の事務作業は? 」
一木はどうも懸念していた事で呼び出されたわけではないことを察して、ホッとしながら答えた。
「正直辛い物でした。将官学校では、参謀や事務のSLのサポートがあるから、暇なくらいだと聞いていたので、正直驚きました」
「はははっ! そうか辛かったか。やはり君は見所がある」
辛いのに見所がある? 一木は怪訝に思った。揶揄われているのだろうか。
「どういうことでしょうか?」
「今回君にやってもらった事務作業は艦隊司令部、つまり私が決済するものも含まれていた。むろん君が決済しても問題ないものだけだが」
「な、なぜそんなことを? 」
「私はね、一木代将」
一木の名前を呼びながら、サーレハは立ち上がり、一木の顔をしっかりと見据えた。
「君には大いに期待しているんだ。確かに君は将官学校での成績は平凡だったが……」
「そうです。それに私にはこの時代の常識もありませんし……」
そういって謙遜する一木をサーレハは遮った。強い言葉だった。
「だが、復讐という強い目的がある」
思わぬ言葉に、一木は驚愕した。
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